回想と感傷 ①

 あの時食べた料理はスターフライというらしかった。簡単にいうと焼きそば。乱切りにしたにんじんとブロッコリー、玉ねぎ、じゃがいも、肉が入ったそれはケチャップをベースに作った甘辛いソースによく合っていた。

そういえば、結局、あの世界にいる間も食材の名前をこっちの世界の呼び方で呼んでいた。そもそも、こっちの世界とあっちの世界では同じような味や風味の食材でも形や色が違っていた。それなのに、同じ名前で呼ばれていた。だから、見た目と味さえ結びつけられれば簡単だった。

 例えば、あっちの世界のにんじんは緑色で、それこそ、大根のような太さだった。だけど、味はほんのり甘く、風味もにんじんそのものだった。じゃがいもは同じ形だけど黒く、ブロッコリーはオレンジ色をしていた。玉ねぎは同じ色で、なぜか四角かった。肉はそのままだった。そんな感じで、最初は食べようか悩むけど、慣れてしまえばただ形と色が変わっただけで、なんの躊躇もなく食べていた。

 そして、食後に飲んだコーヒーも格別だった。

 そういえば、あの時こう言っていたな。

『克人、喫茶店で何を頼むのが礼儀だと思う?』

 当時の僕はそんなことは知らなかったけど、なんとなく飲み物?と、答えた。

『正解は、珈琲だよ。喫茶店では、珈琲を』

『何その名言みたいなの』

『俺の名言だ。喫茶店では、珈琲を』

 その時の僕は、喫茶店の本当の意味をわかっていなかった。

 ちなみに、僕の答えに対して、おじいちゃんはハズレと、言ってきた。

 喫茶店では、珈琲を。この名言は祖父が死ぬまでずっと口にしていた言葉だった。

 思えば、祖父が死んだあたりからおかしくなったんだ。

 悲しかったのか、苦しかったのか。

 それで。

 それで、大事なあの人たちを失うことになったんだ。

 だから、ああなってしまったんだ。


 克人という少年に自分を置き換えているこの男は、頭を抱えてくるまった。

 彼の目には現実ではなく、この物語の終焉を見据えていた。

 地底から巻き上がる青白い焔。周りには誰もいない。独り。

 手をかざして、腕に走る痛み。魔力回路が焼き切れるのを覚悟して、全力で魔力を注ぐ。

 それが物語の終焉。

 それが、来る日のクライマックス。

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