第9章 屋根裏の犯罪者(10)



「事情徴収の時さ……。円香さんと東郷さんが、庭で言い争っているのを聞いたって人がいたろ?」

 僕が言うと、美凪は天井を睨みつけ、記憶を手繰り寄せているらしい。そして思い出したのか、大きく頷いた。

「ああ! うん言ってたよね」

「そうなんだ」

「それがどうしたの?」

「その時さ、確か遠くて話の内容はわからないとか言ってなかったか?」

「……言ってたっけ?」

 美凪は覚えてない、というように首を傾げたが、僕は確かにはっきりと覚えていた。

「でもさ…」

 言いながら、また美凪は庭を見る。

 そこにいた警官二人は、僕らに気付いて、何かを探すような様子で、その場から立ち去ってしまった。今日は雲一つない天気だ。暑いとぼやきたくなる気持ちも判らなくもない。

 美凪は、そんな警官の背中を見送りながら、軽く首を振る。

「あたしは覚えてないけどさ。でも話し声聞こえたじゃん? それに、花畑だって広いほうだけど……あたし達、円香ちゃんと話ししてなかったっけ?」

 僕は頷く。

 そうなのだ。花畑で円香に初めて会った時、彼女は庭の奥の方にいたが、大声を張り上げる事もなく、普通に会話できていた筈だった。

 では、あの人が言っていた、声が聞き取れない庭とはどこの事なのだろう?

 円香と東郷さんは、言い争っていたのだ。

 小声で話していたのではないのだ。

「秋緒の勘違いじゃないの?」

 美凪の言葉に、僕は顔を上げ幼馴染を軽く睨む。

「いや。絶対だ」

「…う~ん、でも……」

 何か言いたげな美凪だったが、また僕に睨まれて軽く肩をすくめた。

 僕には勘違いじゃないという自信があった。円香の事の話だったので、よく覚えていたのだ。

「言っていたよ。文子さんが、奈々ちゃんと見たって……言い争っているのを見たって言っていたんだ」

 断言にも似た僕の言葉に、美凪は「そうだったかも」と頷いた。

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