第9章 屋根裏の犯罪者(5)


 屋根裏は、思っていた以上に狭かった。

 勿論しゃがみ込む事もできず、僕は足を折り曲げ、腹ばいになるという変な格好でおさまっていた。

「…どお?」

「待って」

 下から、美凪の心配そうな声が聞こえる。だが、下を見る事ができない僕は、返事だけをした。

 広さはだいたい、たたみ一畳半程度だろうか? いや、もっと狭いかもしれない。足を伸ばす事もできないのだから。それでも僕は、天井から壁の隅々まで、明かりを近づけ軽く叩いたりする。

 ここはすでに警察が、何度も確認し検分しているはずだった。

 だが、僕はどうしても気になって仕方がない。

 東郷 正将は、何故こんな所に屋根裏部屋を作ったのだろうか? 何故あの日、ここに用があったのだろうか?

「秋緒? ね、どうなんだよ?」

「……うん…別に何も…」

「そりゃそうだよー。警察の人が何度も探したんでしょ?」

「うん」

 僕はまだ諦められず、軽く壁を引っ掻いたりしてみる。

「それにさ、この家の人だって見たんじゃないの?」

「…うん………え?」

 ずっと生返事で美凪に答えていた僕だったが、今の言葉にはどきっとしたのだ。思わず上体を起こしかけ、頭を天井にぶつけてしまった。

「だ、大丈夫?」

「痛っ…」

「いいから、一旦降りてきなよ」

 美凪の言う通りだと思い、僕はゆっくりと足を片方ずつ下ろし、脚立に届いた事を確認し一気に屋根裏から降りた。

「昇ってソンしたね」

 頭をさする僕を見て、美凪が気の毒そうな声を出す。

「…それよりさ、お前さっき何て言った?」

「さっき?」

「家の人もなんとかって」

「ああ、円香ちゃんが言ってた事だよ? ここを調べたけど何も無かったって。ほら、はじめてここに来た時、ダンボールに色々入ってたけど、通帳とか隠し財産とかそういうのは無かったって…」

「……通帳とか、隠し財産とか?」

「忘れちゃったの? 秋緒が聞いたんでしょ、弁護士のおじさんから」

 美凪に言われて思い出す。

 弁護士の守屋に聞いた話で、長男の一志が財産の一部でもあるかと思ったが、何も無くてがっかりしたと言う事を。

 確かあの時は。

「…警察の人が来て、上にあったものを全部下ろしてくれた、と言ってたよな?」

「あ、うん。何だっけ? 古い着物と兵隊さんが着るような服と……お守りもあったかな?」

 やっぱり変だった。

 どう考えても納得できなかった。

「秋緒?」

「変だよ。あんな……僕でさえ上がるのに苦労するような場所に、服とお守りだけなんて」

「でも滑車が…」

 老人が上がるには辛い為か、滑車が取り付けてあるのだ。

 だが僕は首を振った。

「ますます変だ。滑車なんてもの付けてまで、あそこにはもっと…何かあった筈なんだよ。いや、なけりゃ変なんだよ」

「じゃあ、隠し財産が?」

 美凪の眼が、きらりと光った。

「…隠し財産……そうかな?」

「違うの?」

 少しがっかりしたようだ。僕は考えをまとめるように、顎を掻きながら軽く目をつぶった。

「財産はさ、この家屋敷から土地とかでも結構な金額みたいじゃないか。これ以上お金になるような財産なんて、わざわざ隠しておく必要はないと思うんだけど…」

 それに、隠すなら金庫でもいい。守屋に預かってもらうというのもある。

「じゃあ、何?」

「人に……特に家族には見せたくないものだよ」

「見せたくないもの…ねえ?」

 美凪も考えるように、腕を組む。

「たとえば、テスト用紙とか?」

「……」

 僕は美凪を軽く睨みつけた。すると美凪は、別段悪いとも思っていないように、ちょろりと舌を出した。

「嘘! そうだな、日記とか手紙とかも見られたら嫌かも」

「日記…手紙?」

「嫌じゃない? あたし、日記はつけてないけど、あと携帯のメールとかも…」

 僕はもう一度、屋根裏の下へ行き上を見上げる。

 ぽっかりと暗い穴が開いている。

 あったのだろうか?

 あそこに、日記や手紙が――――――?

「日記や手紙が…あったのかもしれない…」

「でも、警察の人がなかったって」

「……警察が来る前に、誰か持って行ったのかもしれない…」

「誰かって? だれ?」

 僕は美凪を振り向く。

 持ち出した人物――――それがいたとしれば、それは犯人以外、考えられなかった。

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