第9章 屋根裏の犯罪者(1)
鎌倉散策を、急遽取りやめた僕らは、ここまで来た時とは別の道を通り、急いで車に乗り込み、屋敷へ向かった。
裏の駐車場に車を停め、裏庭から敷地内へ入ると、玄関の辺りで警察官や見知らぬ男達が、何やら言い合っているのが見えた。
「あ! 東郷さんですよね?」
「やめなさい!」
警官と言い合っていた一人が、僕達に気付いて声をかけてきた。
手には大きなカメラが握られている。―――報道関係者だ。
警官や、佐久間刑事の影に隠れて、誰も何も言わず、急いで玄関に転がり込んだ。
「お前らどこ行ってたんだよ?」
どうして庭先に報道関係者がいたのだろう、と考えながら冷や汗を拭っていると、玄関には彬がひとり仁王立ちしていた。僕ら―――ではなく、脩を睨みつけている。
「……ちょっと外に出てただけだよ。それより母さんが倒れたって、何だ?」
「知らねェよ。喚きすぎて、泡吹いたって言ってたけど?」
「…で、母さんは?」
「救急車で病院行ったよ」
何かざわついているのはその所為か。
記者達は、その騒ぎに便乗して庭まで押し寄せて来たらしい。と言う事は、万沙子が運ばれてから、そう時間は経っていないのだろう。
その時、奥から椎名刑事が数人の警察官を従え小走りでやって来た。
そして僕達全員の顔を見て、安心したように小さな息をつく。
「……何もなかったようだね。ああ、脩さんのお母さんは、さっき呼吸困難になってね。救急車で病院に行ってもらったんだよ。お父さんの基さんと、うちのを二人付き添いで行かせてるからね。後で容態を知らせてくれるはずだから」
「すいません…。色々と」
脩が頭を下げると、椎名は軽く手を振り、佐久間を連れてまた奥の部屋へと行ってしまった。
「ったく、さっさと帰りたいぜ」
椎名達の姿が見えなくなると同時に、彬が苛々とした声を出した。
「ここにいたって意味ねェじゃん? 遺産は入らねーし、暑いし、警官の奴らはうぜェし!」
「仕方ないだろう? おじさんが死んだんだ。刑事さんの指示が出たら通夜に葬式に……」
やる事は他にもある。そう脩がたしなめると、彬は益々嫌そうな顔になる。そして今度は顔を不自然に歪め、僕をちらりと見ながら言った。
「お前ってさ、ホント役立たずだな? 遊びに来てるだけならとっとと帰れよ。うざいだけだ」
「彬!」
「探偵の息子ってだけで、こんな所まで来て何様のつもりだよ?」
「……」
彬は言うだけ言うと、くるりと背を向け、僕らを後にした。
何も言い返せなかった。
彬の言う事は最もで。
僕は一体、何の為にここに来たんだろう?
「すまないね秋緒君」
脩のすまなそうな声に、僕は「いいえ」と首を振った。脩が謝る必要はない。むしろ謝らねばならないのは僕の方じゃないのだろうか?
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