現代 日本

エピローグ

 ハローハロー。

 じゃないよ! まったく!

 え、俺が誰かって?

 俺はイフネ・ミチヤ。

 異世界レスキューを仕事にしている、自称、しがないしがない、しがない魔法使いだ。時空のおっさん? その呼び名は好きじゃない

 そんなわけで俺は今、某所にある六畳一間の安アパートで部屋の主の帰りを待っているのだ。




「アガラくん、当分戻ってこないかもよ。『連合都市世界ギルドシティ』に部屋用意するって言ってたし」


 事の始まりは、部屋を訪れた俺の感情を逆なでする言葉からだった。

 その言葉の主は、人間そっくりの見た目であるがこの地球の生物ではない。

 名前はサラ・マー。

 なぜこいつがこの部屋にいるのかはわからないが、いつもの青タイツではなくぶかぶかでダルダルの安ジャージを着ており、完全にこの部屋、むしろこの世界に馴染んでいた。

 ジャージに関しては俺も人のことはあまりいえないが、こいつは異世界人のくせにあまりにも馴染み過ぎだろう。

 まあ、それはいい。

 俺の仕事は、阿柄コウをこの世界へと戻すこと。

 一度はうまくいきかけたはずだった。

 肉体の彼と精神の彼に分離したが、まあいろいろあってそれを引き合わせるところまではいったのだ。

 だがはあっさりと旅を選んだ。

 なんの迷いもなく。

 勇者にも、魔王にもなる気もなく、もっとどこか色々な世界へ行きたい。

 それが彼らの答えだ。

 ま、そんな気はしていたんだ。

 だから止められなかった。


「しかしあいつ、どうやって『あそこ連合都市世界』に拠点なんか構えたんだ? 言っちゃなんだが、あそこ、高いぞ。あのイフリートの資金援助か?」


 あのイフリート、魔導器アーティファクト製造技術が高いからああいった文明ミーハー商売っ気の高いガメつい世界だと重宝されるんだよな。


「まあ、ある意味ではそうかもね。ほら、アガラくんって魔法人形じゃない。だからあの一連の際の思考がログとしてちゃんと残っていて、そのボヤキを出力して本にしたんだって。あの世界連合都市世界じゃそういう発想がなかったから、結構売れてるらしいわよ」

「なんだそりゃ」


 思わずそんな声を上げたくもなる。

 それこそ典型的な異世界チート他の知識を持ち込んでチートするやつじゃないか。

 まあ、連合都市世界は他の世界の人間ウォーカーもよく出入りするから、そういった点でもいろいろな意味で評判になってるんだろうな。

 上手いことやったもんだ。


「で、しばらく向こうでいろいろ手続きもあるから、アタシがここで留守番してるってわけ。まさかおっさんが来るとは思ってなかったけど」

「おっさんいうな。俺はまだ24歳だ。おっさんじゃない」


 そもそもよく考えたらあいつ阿柄のほうが年上じゃないか。いまさら敬う気もないが。


「で、お前さんがいるってことは、あいつもそのうち戻ってくるのか? ここへ」

「アタシはそう聞いているけど。しかしこの世界は快適ね。ご飯も空気もおいしいし、広いし人も多いし、いろいろ面白いものにあふれているじゃない。それを見ているだけでも飽きないわ。最高じゃない?」


 ああ、そうかい。

 しかしこうやって留守番要員代わりの暇人を置いているということは、一応ここに戻ってくるつもりもあるというであり、さすがにそのままどこかへふらっといなくなるつもりはないらしい。

 まあ異世界に興味を失ってもらわないとこっちとしては仕事達成ミッションコンプリートとはならないんだが、それはもう難しそうだからなー。

 そもそもあのイフリートが同行している時点で期待しちゃいけないチャンスなしだ


「あ、そうだ、アガラくんの本もらってきてたんだけど、おっさんも読む?」


 渡された本はきっちりと製本され、表紙もどこか異国情緒を感じさせるもので、まああの世界だったらなかなか売れそうな感じである。

 とりあえずパラパラとめくってみると、中身は彼のひとり語りを上手く加工して読み物にしたものだった。

 なるほど、あいつはこんな事を考えて旅をしているのか。

 日本で売るならあのイフリート美少女が表紙にドーンと出て、なんか異世界ナントカみたいなタイトルライトノベルになって本屋に並べられることだろうな。


「で、これ見て、これ」


 そんな事を考えていると、今度は目の前にまさに想像通りの物が突き出されきた。

 想像と違うのは、なんかもう一人銀髪の美少女が追加されている点である。

 うーむ、眼の前の異世界人にしては顔に覇気というか生気がありすぎる気もするが……。

 絵柄的にはまさに今流行りの萌えイラストであり、描き慣れた感じが深い業を感じさせなくもない。

 で、これを描いたのは誰かと考えると、消去法的にたった一人目の前の奴しか浮かばないのだが。


「まさかこれ、お前が描いたのか……?」

「そうよ、よく描けているでしょ?」


 よくよく見たら机とその周辺にもその手の本ラノベとかマンガとかが山のように積まれており、こいつがこの世界オタク文化をエンジョイしまくっているのが嫌というほどよくわかった。

 明らかに阿柄の本棚よりも量が多いし、この前にここに来たときよりも増加しているので、サラによって買い足されたことは明白であろう。

 留守番の際の金銭の関係がどうなっているのかは知らないが、もしかしたら阿柄は帰ってきた途端に恐ろしい請求書を見ることになるかもしれないな。

 向こうの金と日本円を両替する手段は今の所まだないぞ?


「で、この本をさ、こっちの世界でも売ってもらいたいわけよ。翻訳とイラストはアタシがなんとかするからさ。取り分は半々ってことで」

「なんか無茶苦茶言ってるな、著作権とか」


 あーあ、こりゃ阿柄本人が聞いたら激怒しそうだ。

 まあそもそも俺にそんな伝手はない。自慢じゃないが出版関係の知り合いなんて一人もいない。それこそ阿柄本人に頼むがいい案件だ。

 いずれにしても、彼が旅を続けていくと、この本の続きも出る可能性があるということか。それが地球で販売されるかどうかはさておき。

 阿柄コウの次の目的地は一体どこになるのやら。

 まあとりあえず、今はこの放浪記でも読みながらこっちに帰ってくるのを待つことにするか……。

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異世界横断ウルトラリセマラ自分探し(物理) シャル青井 @aotetsu

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