第112話
そのあと工房を見に行ったのだが特に作戦なんかは思いつかず、みんなでデイリーミッションを消化しながら大会を観戦した。今日は何故か有名プレイヤーが参加していなくて、かなり拍子抜けな印象だった。ソラノもそれにはかなりご不満だったようで「こんなんなら、わたしが皆殺しにしてましたよ!」と声優らしからぬ発言をしていた。
そんな感じでダラダラプレイしていたらいい時間になったので、特に何かが準備できたわけじゃないがログアウトする。今日はあの変態にボロクソ言われて終わっただけだったな……。
いつもの如くゴーグルを外すと安定して防音段ボール。ゆっくりと押し退けると桜はPCデスクに座ってアイスコーヒーのストローをチューっと吸っていた。何やら検索でもしているようでマウスを忙しなく動かしている。桜は俺を一瞥するとすぐにモニターに視線を戻した。素っ気ないなぁほんと。
「お疲れ~。今日は何も収穫なかったなぁ」
「そう?」
言いながら桜は隣の椅子に座れと言わんばかりにキャスター付きのその椅子をゴロゴロと引いた。すでにそのデスクには俺用のアイスコーヒーも置いてあった。あざます!!王よ!座らせていただきます!
「そうだろ、なんかヤベえやつに目を付けられただけで……予選の日も被ってるっぽいし」
「そうなん?」
「何かブロックする直前に水曜とか言ってた気がする。言ってなかったっけ?」
「聞いてない、でも収穫やん」
「そうかぁ?」
コーヒーをごくりと飲む。あ、砂糖入れるの忘れてた。苦ッ。
「とりあえずアレはあなたを狙ってくるって確定してるんだし、今日はそれ対策で準備したらよかったやん。なんで言わんかったとよ」
「……ごめん。時間まで被ってるかはわからんかったし、観戦とかで忘れてた」
俺が砂糖を入れつつコクリと頭を下げて謝ると、こっちをジト目で数秒見てふんすとため息を吐く。
「とりあえずガントレット相手なら魔法、爆弾、遠距離狙撃とかがいいっちゃないと?あんまり対策しすぎても他の敵に苦戦しそうやし、チームでやるならカレンさんに任せるってのもありかもね?」
桜は一呼吸もせずに言い切る。そして、さらに続けた。
「今日見た感じ予選のステージは変わらんっぽいし、カレンさん、小麦粉さんと狙撃ポイントとか集合の仕方を打ち合わせしたら?」
「おう、そうする」
俺が返事すると、桜はモニターを見る、俺も釣られて見てみると、画面には予選のステージとなったドラグルズの街のマップが表示されていた。そして外縁部にある塔にカーソルを合わせた。予選で桜が駆け上がってスナイパーを倒した塔だ。
「ここら辺の塔は隙間が多くて意外と下から狙っても弾が当てられそうだった。ドラグルズ全体が戦場になったのって意外と今回初めてだし、ここ普通は登れない所だから予選だとここでスナイパーライフルを使う奴多いと思う、逆に登らないで登った奴ら狙うとカレンさんもポイント稼げると思う」
「……わかった。人が登るのわかってたから予選の時、塔からの攻撃に反応出来てたんだな」
「アレは音で避けただけだけど?」
桜はきょとんとした顔で言う。僕何かしちゃいました?的な。
「音って……銃の音聞いて反応したのか」
「うん、まぁ距離があったしね」
「距離あったって言っても音聞いてからじゃ遅いだろ実際は」
実戦だと音の方が遅く聞こえてくるとかも聞いたことあるし、どんな反射神経してんだ。俺が異世界チート主人公を見る現地のヘボ勇者みたいな目で桜を見てると、異世界チート王者は苦虫を噛み潰したような顔で俺を見た。いや、コーヒーは苦いけども。
「実際って、あのねぇこれはゲームなの。インフィニティは現実感がある凄いゲームだけど、さすがに音の速さまでは再現してないけん……。スナイパーライフルみたいな大きめのライフルはね、発砲音が大きい……。だから、遠くにいても聞こえるとよ。そして、ゲーム内では必ず音が聞こえてから弾が飛んでくる。加えてこのゲームにはちゃんとしたサプレッサーないから」
「それでも反応出来て、避けた説明にはあまりなってない気がするんだけどな……」
「狙ってる奴がいるってわかっとる時は神経研ぎ澄ませてたら避けれるやろ」
……うーん。結局回答にはなってないぞ!まぁチート王に説明求めても仕方ないか!
「まぁ参考にする。ありがとう」
ちゃんとお礼を言える俺である。少し笑みも添えて言ってみた。が、桜はまだ苦そうな顔をしてらっしゃる。え、何?言い方がまずかった?「ありがとうございます!」がよかった!?
「あなたね、なんでもう終わったみたいにお礼言いよるとよ……まだ教える事あるけんね……」
「あ、そうなのね……」
「そうよ」
桜は頬を少し膨らませてモニターに向き直る。
この後みっちり2時間ご教授頂いた。
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