第63話

とりあえずギルドの部屋にログインをすると、やはり時間が早いせいか誰もいなかった。ログイン情報を確認しても主だったフレンドは誰もログインしていない。

 しかし、それよりもだ。

 「全く違う」

 目に見えるものすべてが違った。なんというか桜の家でやる時と比べて何もかもが。前まではそんなこと何もおかしく思わなかったし、むしろ最高の画質だと感動していたのだが、桜の家でニューワールドを知ってしまった後だと、これが作りものであるとどことなく感じてしまう。コントローラーもゲームパッドなので指は動かないし、何なら自分の手を見るためにアクションボタンで「自分の姿を確認する」を選ばないといけない。

 簡単にやれていたことの一つ一つが面倒だ。これは試合前に少し操作を思い出しとかないといけないな……。

 そういえばソラノの最後の居合斬りを咄嗟に雷天黒斧で防いだ動きなんかもニューワールドだったから出来た動きだ。ここまで来られたのは桜のおかげだったんだなぁとしみじみ思わされる。

 今日は俺だけで頑張らないといけない。でもこれは流石に負けてしまっても仕方ないだろう。

 とりあえずギルド部屋の外に出る、外の景色は中よりもさらに粗かった。一番驚いたのは少し遠くなっただけで人の顔がわからない事だ。わからないから頭の上に名前が出てくるように設定しておこう。今まで俺はどうやって遠くから人を識別してたんだ……馴れって怖い。昨日までは遠くから手を振ってやってきても誰だかわかるほど見えていたのに。こりゃニューワールド買わないとなぁ……あれいくらだっけか……。

 建物の外観やら雲やらなんやらを見ながらドラグルズの外を目指す。なんか次元が一つ下がった世界に来たようで気持ちが悪い。いや、二次元にはいきたいと思ってましたよ?でもこれ2.6次元ぐらいじゃないですか。すごく見辛い。

 いつものドラグルズの出口もなんだか粗く、雑な造りに見えてしまう。

 街を出て、ある程度強いモンスターが出てくる場所まで歩く。

 草原に少し岩場が混ざった場所に来る。ここには岩で身体が出来ているゴーレムが出現する。たぶん草原にぽつぽつとある車くらいの岩の塊のいくつかが擬態しているゴーレムだ。

 見分けるのは結構難しいが、普通に攻撃してしまえば擬態を解いて襲い掛かってくる。手前にある岩にテンペストイーグルで発砲する。

 弾は普通に岩を抉ったが反応はなく、違ったようだ。

 「じゃあ、こっちか」

 少し歩いて行き、次の岩が射程に入ると発砲。

 次は岩を抉った後にダメージのエフェクトが入った。よし、当たり。すぐに岩はもごもごと動き出してゴーレムが顔を出し、雄叫びをあげる。

 俺もモーニングスター、ドラゴンテイルを取り出す。

 「んじゃ、行きますかね」

 武器をとりあえず振ってみる。前に振ると遅れて赤い鉄球も前に勢いよく飛んでいく。縦振りと横振りに対応して鉄球が動く。昨日練習した時よりも軌道が限られていて、少し慣れが必要だ。

 ゴーレムがこちらを見つけて走ってくる。昨日までならもう少し迫力があったものの、臨場感が足りずにどこか他人事のような感覚で状況を捉える。

 「よっこらしょっと!」

 十分引き付けて、年寄りの様な掛け声でドラゴンテイルを振る。よっこらしょっとって、何とかショットみたいに必殺技っぽいねという雑念を添えて。

 柄の部分を振ると一瞬の時間差で鉄球がジャラリと音を立てて飛んでいく。

 鉄球は狙い通りにゴーレムの胸に命中。硬そうな岩でできた胸部が砕けた。それに驚いたのかゴーレムはのけ反る。

 ほー。なかなかの威力。次は横。

 鉄球を引いて手元に戻して横に振る。

 すると近すぎたせいか鉄球がゴーレムの腕を一周して鎖が巻き付いた。

 「うわっ」

 ゴーレムは反対の腕を振り上げる。俺を叩き潰そうとしているんだろう。

 まぁそんなことはさせない。テンペストイーグルを取り出して、数発壊れた胸の部分に撃ち込む。

 ゴーレムは悲鳴を上げて膝から倒れ込んだ。巻き付いた鎖は引くとすんなり解けて戻ってきて、倒れるのに巻き込まれないように避けることが出来た。なるほど、こういう風に巻き付かせて動きを封じつつ攻撃もできるのか。これなら雷天黒斧を使う前の動かない戦い方にもバリエーションが出る。オラワクワクしてきたぞ!

 

 

 そのあとしばらくゴーレム相手にモーニングスターの練習をした。だいたいの特性と今現状でやれることを確認出来たはずだ。あと何個かモーニングスターと剣士のスキルを獲得した。

 ドラグルズに戻ると広場にカレンがいた。名前が出る表示にするとゴチャゴチャしてしまうが、フレンドだと名前の色も違うのですぐに見つけることが出来た。

 「カケル~!」

 表情はわからないが手をぶんぶん振っているのはわかった。

 「おー」

 俺も手を振り返して近付く。表情が見えてくるとなんだか安心するなぁ。ていうかケモ耳もコスプレみたいな感じに見えるなこれだと……。桜からニューワールドマーケティングを豪快に食らった気がするわ……。

 「何してたの?」

 「ちょっとモーニングスターの練しゅ……おわあぁぁ!」

 俺が喋っているとカレンがぐいぐいぐいっと俺の顔に顔を近付けてきた。

 「んんんん!?」

 もうこれリアルなら鼻息当たってるし、なんならおっぱいガッツリ当たってて、一瞬で離れるレベル!!

 目と目がじっと合う。てか、これ他人からしたらキスしてるみたいに見られるんじゃ……。

 「ちっかい!!近い!!なんだよっ!」

 カレンを慌てて押し返す。胸を押した気がするが、感触わからないからどうでもいいワイ!!

 「あぁごめんごめん。カケル、ニューワールド、ヤマトさんに返しちゃったの?」

 「え!?いや、なんで……?」

 「今日は目が死んでる!前に戻ってる!」

 その言い方だと前はずっと死んでたみたいになるんですが。とにかく意味は分かった。そういうことね。ニューワールドじゃなくなったせいで目の動きがフィードバックされてないのか。

 「あと表情も死んでる」

 「表情も!?」

 「うん。ほぼ無表情」

 「そうだったのか……」

 なんかほんとうちの環境ヤバいんだな……お小遣い貯めてニューワールド買わなきゃほんと。

 「で?どうしたのそれ!」

 「……」

 なんと言ったらいいだろうか、ヤマトの家に今までお世話になってたなんて言えない。ここは借りてる設定を生かす方向しかない。

 「ニューワールド返した……」

 「なんで!?なんでこのタイミングに!?」

 カレンは人目も憚らず大声を出す。まぁそうなるよなぁ……。どうしよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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