第35話

 コーヒーを一杯飲んで落ち着くと、さっそくインフィニティにインすることになった。俺はしばらく次の対戦相手のソラノの動画を観てからインすると言ったのだが、インした後も周りをうろつかれるのは信用ならないとのことで、結局先にログインすることになった。家の鍵をくれたのに信用ならないって矛盾してる気がするんだが……。少し抵抗してみたものの、これだけは譲ってくれなかった。どんだけ信用ないんだ!まったく!今日はタイツだからそんなに興味ないっての!

 とりあえずギルドの部屋にインすると、カレンが椅子に座っていた。

 「あ、翔ちゃんやほー」

 「本名呼びやめなさい」

 「えー、誰もいないからいいじゃん」

 そう言って楽しそうに耳をぴょこぴょこ動かす。なんかクラスのみんなには黙って付き合ってるみたいな想像しちゃうからやめなさい!!まったく!かわあざといんだから!

 「誰もいないってな……ネットは何があるかわからんぞ?」

 ほら、きりぼし大根とか。

 「むー。そうだけど」

 カレンは口を猫っぽくムーっとして言う。そんなに本名呼びしたいの?

 「だろ?だから気を付けなさい」

 「はーい」

 カレンはちょっとつまらなそうに言う。俺も呼ばれて悪い気はしないのよ……でもごめんね。

 「あ、カケルは今日はどうするの?昨日ヤマトさんにユニ武装の使い方調べてなさいって言われてなかった?」

 カレンの切り替えの早さに驚きつつ答える。

 「んむ、言われてた。応援行きたいんだけどなぁ」

 今日ヤマトが戦う相手はそれなりの実力者だった気がするし、生でヤマトの戦いをちゃんと見たい。

 「あたしは応援行くよー?カケルも行きたいなら一緒に行きたいし、試合まで時間あるから先に調べにいこうよ?」

 「まぁそうだな、何時間も調べるわけじゃないし……。そうするか」

 「うん、そうしよー!」

 そう言ってカレンは立ち上がった。よし、じゃあ行きますか……と思っていると、カレンの動きが止まっていることに気が付いた。そして、いつもと違う調子で話し出す。

 「なに?今ゲーム中!」

 親フラか……たぶん親か誰かが来たんだろう。実家でゲームをしているプレイヤーはたまにあることだ。そしてプツリと音がして声が聞こえなくなる。マイクを切ったのだろう。

 椅子から立ち上がって静止しているカレン……まじまじと見るとほんとフラットボディですなぁ……。リアルで胸が大きいと正反対のモノが欲しくなるんだろうなぁ、だがここまで極端じゃなくてもよくない?ほんっと限界までフラットだよこれ……。たしか、ヤマトのアバターはリアルとそんなに大差ないな……むしろアバターの時の方が少し大きいか……。

 そんなことを考えていると、ヤマトがインしたのだろう、チャットが来た。

 「今どこ?」

 「ギルド部屋にいる」

 「そう、私は色々と準備するから合流は考えなくていい。あなたは雷天黒斧のバフの調査をしていて」

 「オッケー、早く終われば応援に行くから」

 「来なくていい」

 「行くって!」

 そう送ったあと返信が来なくなった。ほんとこの王様は……。

 「あ、ごめんごめんカケル!」

 カレンの方も親フラが終わったようだ。

 「大丈夫?」

 「あ、うん、ちょっと今から外にご飯食べに行かんといけんくなった!」

 「そうか、いってら」

 「ごめん!たぶんヤマトさんの応援には間に合うと思うから!カケルも頑張って!」

 「はいはい」

 ちょっと残念だが仕方ない。ぼっちで調べに行くか。

 

 

 と、いうことで俺はドラグルズを出て、一撃で死なない程度のモンスターが出てくる草原まで来てみた。

 ちょっと歩けばいいだろうと思っていたら意外と弱いモンスターばかりで、結局かなり遠方まで来てしまった。これなら乗り物に乗ってくればよかった。

 俺はとりあえず雷天黒斧を呼ぶことにする。右手を天に掲げると雲一つない晴天から落雷が発生する。そして俺は握った。

 毎度毎度出現が派手で慣れないが、だんだん手には馴染んでる感じがしてきた。

 「よっし、じゃあやりますかね!」

 俺はそう言って斧をぶんぶん振り回す。

 とりあえず、いろいろ整理しよう。まず、この武器のメリットとは?言うまでもなくトリガーによる爆発攻撃、そして、昨日発覚した時限式で消えてしまうバフを貯め込み、かつ重ね掛けできること。

 デメリットは?爆発はリロード式、使用後ダメージを負う、バフをかけた時も同じ。

 率直な感想だと

 ダメージは軽いし、何よりも他の斧に比べて重量が軽すぎる。普通の斬るダメージでもなかなかの威力を発揮している。これと同じような武器があるよな?クニツクリだ。クニツクリも通常使用時、あの大きさで軽々と扱えている……そして、真のメリットとデメリットは隠されていた。予測するにヤマトのクニツクリと同じように、俺の雷天黒斧もまだ大きなデメリットを持っていて、そして、それと釣り合うメリットを持っているのではないか?

 それを調べるにしても、やはりヤマトからの助言は必要である、どうやって真の性能を見つけたのか?もしかしたら詠唱の様なモノもいるかもしれないし……。

 だからとりあえず、バフを調べよう。昨日はエレメントアップ【小】だったから今日は、俺が覚えている中で一番強いバフをかけてみようと思う。ガンナー用で戦闘中に一回しか使えないが、使うと他のスキルが一定時間使えなくなるというトドメ用のスキル【一弾入魂】。効果は次に撃った弾を攻撃力三倍、撃った後残弾が無くなり、三十秒間リロードできない。これを貯め込めたら最高な気がする。はたして一発だけなのか、何発も撃てるのか……。

 まずは普通のダメージを見てみるためにそこら辺にいた狼型のモンスターに石を投げてみた。

 「よっと!」

 石はきれいに放物線を描いてモンスターの頭に当たる。すぐにこちらに気が付き襲ってきた。

 「おらっ!」

 雷天黒斧をタイミングよく振ると斬りつけのダメージでモンスターは怯んだ、そしてトリガーを引く。

 カチリと音がするとすぐに爆発し、モンスターは砕け散った。

 「うっし」

 すぐに排熱されてダメージを負う。

 食らったダメージと与えたダメージ量を記憶して、タイマーをつけて待機する。

 三分ほど経つとリロードが完了した。

 地道な作業だなー……。一人で何してんだろ……。

 「まぁ、自分の為だし……」

 そう呟いてオプションでスキルを探す。普段モンスターが寝て、絶対に外さない時くらいにしか使わないので、探すのに苦労した。

 あったあった。一弾入魂。

 スキルを選択すると、ガンナー用スキルだがやはり、バフをかける対象を選べた。俺と雷天黒斧だ。

 ではでは……。

 俺は雷天黒斧にカーソルを合わせて、ボタンを押した。

 雷天黒斧にバフのエフェクトがかかる。そしてその光を排熱口が吸っていく。

 昨日と同じで排熱。

 ではなかった。

 「え?」

 排熱口が。その爆炎は俺の身体を全部包み、凄まじい爆風で俺は数十メートル後方に吹っ飛んだ。雷天黒斧も俺とは反対側、前方へロケットのように元気よく吹っ飛んで行った。

 HPゲージがみるみると減っていき、一気にゼロに。

 「え、ちょっと……やば」

 あ……。

 俺は誰もいない草原で一人で死んだ。

 

 

 

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