第28話
普通の斧の動きは遅い、だから余裕で避けることが出来る。
勢いよく振り下ろされたそれを身体を少しズラすだけで避ける。ヤマトの家にいるおかげでこんなこと朝飯前だ。
「ふんっ!」
大仰な声を上げてきりぼし大根は斧を横に振るが、しゃがんで避ける。
俺はアイテムを選択して、毒投げナイフを持つ。
「これはどうだ!!!」
距離をとりつつ、連続で五本投げる。一本でも当たれば毒ダメージがジワジワと相手を追い詰める、がどこに当たっても毒エフェクトが入らない。ナイフも当たった瞬間に消えるし。こいつ何個ダメージ無効化してるんだ……。
そう考えている間もきりぼし大根はぶんぶん斧を振って攻撃してくる。しかし、こいつ斧の様な重い近接武器を使ったことがないのだろう、まったく当たる気がしない。たぶん俺に対する意趣返しで斧を持ったらしいが仇となっているようだ。
「なんで!当たらない!!!」
きりぼし大根が無駄に、むっだーにいい声で言う。
「どうせあんた俺が斧使うって聞いたからソレ持ってきたんだろうけど、使い慣れてないもん使うからそうなるんだよ!」
「ちっ」
悔しそうな顔してる。ざまぁみろ!!!!しかしながら俺が攻撃する手段がないのがやばい、どう切り抜けようか……。きりぼし大根も何個もダメージ無効化しているから武装の限界時間が短くはなっているはずだけど、実際どのくらい時間があるのかはわからない……。何かないか……何かないか……。
物理的にダメージを与えられない以上、手段は一つしかない!
「あんた、ヤマトに粘着して通――――」
報されたらしいな!と言おうとしたが、今までで最速の縦振りが来た。ギリギリで避ける。今のはちょっと危なかった。
「……」
きりぼし大根は無言だ。相当効いたようだ。こいつも俺に精神攻撃してきたからお相子だよね!!効いてないけど!
「だいたい、付き合ってる噂とかあんたが流したんだろ?」
「……」
「あと聞いたぞ?ヤマトが無限王になる前にクエストで一緒になって離席中にパンツとか谷間覗いてたの」
きりぼし大根の動きが止まる。
「だからどうした」
……えっと、どれに対しての「だからどうした」なんだろう。
「いや、結構引くというか……」
「引く?付き合っていたのにか?」
「あー……」
あー……。これは話しても無駄だな。
「君はなんなんだ、知り合ってどのくらい経つんだ?おい」
「俺?俺は別に一昨日初めて会っただけだが」
それを聞くや否や、きりぼし大根は斧をいきなりぶん投げた。
「おわ!」
予想外の動きだったが俺は身体を捻って避ける。斧ははるか後方に転げた。
そして、きりぼし大根は俺を呆然とした表情で見ていた。
「一昨日?はじめて会った?なのに次の日会って一緒に車に乗って何処かに行って!?今日は入り口までお見送りか!?あぁ!?おい、お前なんなんだ!?はぁ!?」
だんだんと冷静さを失って、さっきまでの無駄にいい声はもう消え去っている、表情も笑っているのか泣いているのか怒っているのかもわからない顔をしていた。
え?待て待て、車に乗ったの知ってるの!?は!?気持ち悪っ!聞いてたよりも気持ち悪い!しかも絶賛ストーカーなうだし!!!
「しかもお前、試合終わった後にパァンツ見せてもらってただろ!ご褒美か!!ご褒美なのかよ!!!」
「……うっわ……」
「あー、わかった。お前ヤマトの犬か?金でも貰って負けてやったついでにご褒美貰ったんだろ?おい!!負けてやったんだろ!!!」
「おい」
俺はそれを聞いた時、身体が勝手に動いていた。
ブーストジャンプ。
それを使った瞬間、一気に接近し、きりぼし大根の歪な顔が目の前にあった。雷天黒斧は効かない。だから俺は、思い切りその顔面を殴った。
「ぺごぉっ!」
俺の拳はこのクソ野郎に届いた。ダメージは大したことないが、勢いの乗った拳はたしかに通じ、きりぼし大根は気持ち悪い声を出して地面に倒れた。
「謝れ、クソ野郎。ヤマトに……。俺に!!!」
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