第16話

 「翔ちゃん!!!」

 カレンは駆け寄ってきた。この際本名呼びは勘弁してやる。実際に刺されたわけではないが、こう感覚付きで体験するといい気持ちはしない。おしっこちびってんじゃないのかとちょっと心配してる。

 決闘が終わると壊れたり破れたりした装備がジワジワと直っていく。基本的に対人戦では装備は壊れても元通りになる。ヤマトはよく見るとあられもない姿になっていた。俺の視線に気が付いたのかヤマトは後ろを向いた。

 「あんまり見らんで」

 いや、そんなこと言われましても……俺を串刺しにしてよくもまぁすぐに顔を赤らめられるな。それにしても意外とこいつのアバター胸と尻が主張してらっしゃる……。

 そんな事を思ってるとカレンが俺を泣きそうな顔で見ているのがわかった。

 「大丈夫?」

 「大丈夫だよ。別に怪我するみたいなわけでもないし」

 「でも!ぐっしゃあって貫通してたよ!?結構えぐかった!」

 「……そんなに?」

 カレンは小刻みに頷く。どんだけやばかったんだろちょっと気になる。

 「満足したか?」

 俺はヤマトに投げかけた。

 「うん。ありがとう。大丈夫だとは思うけどあなたもカレンさんもここで見た私のユニーク武装の話は―――」

 「大丈夫、それは言わない」

 「うん!言わないよ!」

 それを聞くとヤマトはクニツクリを片づける。

 「だけど、あの武装、誰にも見せたことないのか?」

 いくら絶対王者だとしても世界最強を決める無限王杯の決勝の相手は相当な強さのはずだ。

 「あなたたち入れて四人しかないかな……」

 「無限王杯の決勝とかはあれなしで勝ったのか?」

 「ん?あなた、私の試合観たことないの?」

 「もともと翔ちゃんは対人戦に興味なかったんです!」

 カレンがフォローを入れてくれる。

 「……無限王杯の決勝は相性が悪かったのよ。だから違う武器で戦った」

 話していると、装備も完全に復活した。それを確認するとヤマトはこちらを振り向いて続けた。

 「よし、帰ろう」

 「あ、でも翔ちゃんのスキルレベル上げてない!」

 カレンが言う。

 「あ、そうだ、敗者復活は明日だし……」

 思い出してメニューを開くとメッセージが来ていて、明日の対戦表が送られてきていた。最初の相手はガルムって奴らしい。動画とか見て予習しとかないと……。俺はどうしようか、ユニーク武装を使えると言ってもこれはヤマトのおかげだし。テンペストイーグルで行くしかないか……。

 いろいろと思案しているとヤマトが口を開く。

 「わー……きりぼし大根負けてるのか……」

 「きりぼし大根?」

 ヤマトも敗者復活戦の対戦表を検索して見ているようだ。確かにきりぼし大根の名前がある。

 「誰?」

 「はぁ……あなたほんと知らんとね、きりぼし大根は去年の白王杯優勝者」

 つまり現白王!?

 「まじか、白王様が初戦で負けるのか」

 「そりゃあ負けるでしょう、人間だもの」

 ヤマトはなぜか半笑いで言った。

 「とりあえず今日は疲れたからこれでログアウトしよ、帰るのもめんどくさいし」

 ほんとこの王はマイペースだ。

 「いや、俺はなんか準備しないと」

 「準備ならしたやん?その雷天黒斧」

 「いやいや……。それは!」

 先を続けようとしたが「お前の家にいるから」と言えなかった。

 するとカレンがきょとんとした顔で。

 「翔ちゃんニューワールド借りたんでしょ?あ、でも原因はポケットWi-Fiだったよね!ん?でも翔ちゃんは今もポケットWi-Fiで……え?でもユニ武装出せたし?え?」

 よし一回解散しよう!

 「アー!ヤベ―!メシヨバレタワー!!」

 必殺!飯呼ばれた逃げ!!!!

 「あ、そうなの?あー。もうこんな時間か、あたしも呼ばれるかも!またあとでやろ?」

 カレンも何とか乗ってくれた!よし!

 「疲れたし、やれたらやるわ!」

 「そか、今日疲れたもんね。じゃあ、また!ヤマトさんもまたね」

 カレンは手をフリフリと振ってログアウトしていった。カレンのお母さん、物分かりがいい子に育ててくれてありがとう……。

 ヤマトの方を向く。小さくお上品に手を振っていた。

 「おい、どうすんだよ。微妙にバレそうなこと言わんでくれ!」

 「なに?彼女なの?車でも仲良かったけど」

 「違う!」

 「ならいいやん、必死にいろいろ隠すからめんどくさかったやん……」

 「俺にも色々あるの!!」

 やだ!なんか俺が乙女みたいになってる!

 「って、どうするん明日……。俺の家じゃ雷天黒斧出せないんだけど」

 「あぁ、それ?とりあえず、敗者復活できりぼし大根に当たるまでは今まで通り、テンペストイーグルで戦えばいいから」

 「え?」

 「一度も当たらずに勝ち抜けたらそれでもいいけど、きりぼし大根にはギリギリまで武器を見せない方がいい」

 「いや、見せるも何も、家じゃユニーク武装出せないって!」

 「あー。そうだった勝ったら言うこと聞くんだった!」

 ヤマトは人差し指を立てて「そうそうそう」とわざとらしく言った。ていうか、承諾してないんだけどね!それ!

 「あなたはこれから私の家に通いなさい」

 はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る