第13話
開始のブザーが鳴った。
ヤマトは地面を蹴った。破裂音が空間に響く。
一直線で真正面に跳んできた。
俺は動かずに雷天黒斧を高く掲げた。難しいことは考えない。これをタイミングよく叩き落とすだけ!
「いくぞ!」
目の前に来た!今だ!
俺は勢いのままに叩き落とした。
刃が地面に突き刺さる。
しかし、ヤマトは直前で右に逸れていた。
「!」
ヤマトは笑っている。微笑みなんてもんじゃないこれは弱い敵を殺すときの笑顔だ。それを見て寒気がしたが、迷わずテンペストイーグルを取り出した。
発砲。一気に三発。
ヤマトは短いスカートを翻し、側転で避ける。すかさず避けた先に五発撃ち込む。
しかし、ヤマトはそれすらも腕の小さな小さな盾で弾いた。
「ちっ!」
俺は舌打ちし、次の挙動に目を配る。ヤマトはクニツクリの柄を長めに持っていた。
「ほらほらぁ!!その斧を上手くっ!!!使え!!!」
なんとも楽しそうな声でヤマトはクニツクリをバットのように振る。
やばい、これは直撃する。このコースだと俺が球になってホームランを決められる。
ブーストジャンプを使ってバックステップ。ギリギリで避ける。
ヤマトも外したのを確認したかも分からないうちに、自分にライジングスキルをかけて加速し、跳躍し、追いかける。
着地。
左前方にヤマトが来る!
発砲。
ヤマトは確かに左前方に来た!
しかし、こいつ、クニツクリを先に地面に突き立てて着地した。弾丸はクニツクリに当たり、情けない音をさせただけだった。
「くっそ!」
「あはっ!」
ヤマトは笑う。そして地面に突き立てたクニツクリの先端からジェットのような噴射が行われた。は!?何それ!?
それはすぐさまヤマトが掴まったままロケットのように俺の方へ飛んだ。
俺を通過し、右後ろでヤマトはクニツクリを構える。
「視えてる?」
ヤマトは言う。
「!!」
俺は視えていた。
振り返り、クニツクリの一撃を雷天黒斧の腹で受け止めた!
「ぐっ……く!!」
衝撃なんかは伝わらないが、これは現実だったなら身体が反対に折れてしまっていただろう。クニツクリの向こうのヤマトは歯をいっぱいに見せて笑っていた。
「ああらぁぁっ!!!」
ヤマトを弾き返す。
なんとなくわかってきた、確かに俺が今までやっていたインフィニティはインフィニティじゃなかった。俺は何も視えていなかったんだ。
ヤマトはくるりと回転して着地した。
「わかった?」
無限王はクニツクリを片手で持ち、俺に向ける。
「俺はちゃんと視えてなかったって事だろ?」
「そう」
不敵な笑みを見せつつ首を傾げる。その姿は何とも妖艶で誘われて近付いてしまえば殺されてしまいそうな恐怖をも感じた。
「でもそれだけじゃないとよねぇ……」
俺にこれ以上何を感じろと?とにかくヤマトに勝たないと……。タクシー代はなんとか払えるが、コイツの事だ、レンタル料でボッタクってきそうだ。あと地味にカレンにバラされるのも嫌。
「ねぇ、その斧まだちゃんと性能引き出せてないんじゃないの?」
「そんなこと言われても……」
ユニーク武装は特に説明がないのも特徴で、自分で研究していかねばならないものらしい。確かに各ユーザーに配られるオンリーワンの武装なんかに説明書なんて作っていられないわな。
「早く引き出せないと倒しちゃう……。よっ!!!」
ヤマトは真上に高く跳ぶ。
「いきなりかよっ!」
俺は雷天黒斧で受けるように構える。パンツが見えようとそれどころではない!黒!!
「アアァァァ!!」
ヤマトは雄叫びのような声でクニツクリを叩きつける。
「んぐっ!」
何とか受け止めた。足が微妙に地面に沈んだ気がする。
ヤマトはすぐに地面に降りると俺のガラ空きになった脇腹に蹴りを入れた。
「!!」
軽く三メートルほど吹っ飛ばされ、地面に転がる。痛みはないが脇腹に刺激が走った。右上のHPゲージを見ると少し減っていた。今回初めてまともなダメージ。
ヤマトを確認すると、すでにスキルを使って加速し、こちらに接近してきていた。
俺は急いで立ち上がり、構える。やられっぱなしは性に合わない!!
ヤマトは下段からクニツクリをカチ上げてくる。
俺は両手持ちで上段から迎え撃つ!
クニツクリと雷天黒斧がぶつかる。
「くっ……」
何とか一撃を受け止められた。下から来た分威力が少し落ちている気がした。じりじりと鍔迫り合いのような状況になっている。
どうするか必死に考える、今持っているスキルや魔法を戦略に組み込んでみるが上手くいかない、そりゃそうだ、俺は今まで銃で戦ってきた。装備もスキルも魔法も何もかも銃用なのだ。
「くっそ……」
ヤマトを見るとそりゃもう楽しそうな笑顔だ。ふざけやがって……。そうやって睨んでいるとヤマトの目線が一瞬違う所を見たのがわかった。俺もそっちを見てみると、雷天黒斧の柄を持っている手のもう少し下の方にボタンっぽい少し浮き上がっているパーツがあった。
ん?なんだこれ。
この鍔迫り合いを維持しつつそのボタンの方へ手を持っていく。
するとヤマトが俺の手の動きを見て、一瞬だけボタンの方を見た。そして俺と目が合う。これ絶対なんかあるだろ!よっしゃに触ったろ!
俺は手を一気に滑らせてそのボタンを握った。
それはやはりボタンだったらしく、握り込むとカチッと音をたてた。そして。その瞬間、雷天黒斧から落雷の爆音が響いた。
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