レベル3 一般人から冒険者へ格上げしました

 夜子は届いた[冒険書]を隅々まで読んだ。

 仕事柄、重要書類を隅々読んで不備がないように動いていたので、言わば「職業病」と、いうやつなのだろう。

 

 途中で気になる項目を見つけた。それは「ジャージと運動靴を装備すること」だった。

 「...ん...?ジャージ?運動靴?」

 怪訝な顔をしつつ夜子は、読み進めていくと


《冒険の基本は徒歩ですので、歩きやすい靴と動きやすいジャージを当社は推進しています。ジャージや運動靴が無い方は、当社でお貸ししております》


なんて健康的な感じなのだろうと夜子は思った。

 「どーするかなー?ゆっくり休みたいしなぁ...でも、することがないから暇な休みにはしたくないしな。そもそも怪しい感じの所に行くのも」

 

うーんうーん唸って考えていたら、部屋の中が薄暗く感じた。

 夜子はパッとベランダを見たら綺麗な夕焼け空が見えた。

 今まで漆黒な空しか見ていなかった夜子は、この綺麗な夕焼けを見つつ、まだ、夢がたくさんあった10代の頃に大好きな小説を読み更けていたのを思い出した。

それに、読むのに飽き足らず自分で小説を書いたことがあったのも思い出した。


 高校の三者面談で、小説を書いて仕事をしたいと担任と両親に言うと猛反対をされ、泣く泣く就職の選択をした。

 就職先は今の会社に決めて10年以上も働いていてきた結果、お局の位置になっていた。

 

そんな苦い思いを巡らせていたからなのか、無意識に「何歳でも夢は叶えられる...か...」と、口に出していた。

 その瞬間、冒険書に書かれていた合言葉が光を放ち、夜子が座っていた周りに魔法陣が勝手に出てきて、これも光を放った。

 「ぎゃあぁ!!何これぇぇ!!」

 女子ならぬ悲鳴を上げて立ち上がり、その場を去ろうとした瞬間にブラックホールが現れ、王道中の王道な感じで異世界へ夜子は落ちていった。


 ドスン!と、何かの上へ落ちた夜子は「イタタタ...」とお尻をさすった。

 地面ではない柔らかさだったので恐る恐る下を見ると「よぅこそぉ...異世界へぇぇ」と、夜子へ歓迎する言葉を述べつつ、伸びきっていたのは見惚れるほどの綺麗な女の人だった。

 「きゃあ!ごめんなさい!」

 慌てて夜子はその彼女から退き「大丈夫ですか!?」と、手を差し出して起き上がらせた。

 「大丈夫!」とニッコリ笑い「ここの地面は少し柔らかいの」と、教えてくれた。

 夜子は地面を触ってみると、フワフワな絨毯が敷いてあるのか?と思う様な柔らかさだった。

そこで、綺麗なお姉さんが言っていたことに納得した。

 「あの、ここはどこですか?」と、お姉さんに聞こうとした瞬間に「テレレッテレーー。一般人から冒険者へとレベルアップしました」と、電子音が遮った。

 この音は夜子の近くで聞こえた。

 何事かと上を見たりキョロキョロと周りを見たりしたが、沢山の人が歩いているだけで自分に向けて話している人はいなかった。

 着ている服に何か付いているのかとペタペタと手で触っていたら、ジーパンのお尻のポケットに入れていたスマホを見つけた。

 ここはネットは繋いであるのかと見ると、先ほど聞こえた電子音が文字となって画面に表示されていた。少し気味悪いと思った夜子だが「下へ」と書かれていたので画面をスクールしていくと

『冒険者になるための条件は「勇気を出して新しい事に一歩踏み出すこと」でした。蒼井様はその条件を満たしたのでレベルアップしました』

 これを見た夜子は(ちょっと面倒くさそう)と感じていた。

ここで、一般人の夜子は「冒険者 夜子」へと格上げになったのである。

 



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