シキを巡るリンネ

…わいわいがやがや…

俺と隣のグレープさんの渾身の叫びは見事に彼女たちの騒ぐ音で消え去り、上書きするかのようにマーゲイさんの興奮しきった声が響き耳の鼓膜を刺激する。


「あちゃー…こりゃ駄目そうだな…」

「だんね。僕らの大っきい声がかき消されるとかホンット変わってないねマーゲイも…」


”変わってないね”…?

「あの…PPPさんとはかなり前からお知り合いなんですか?」

「結構長いね、フルルちゃんとはもうフレンズになってからずっとかも?まぁ…他の子とも仲いいよ?マーゲイはアイドル好き同士だからね、前から知り合いでねぇ~…」


へぇ…と適当に聞こえそうな返事をした。

興味が無いんじゃ無くて、ただただ感心するときはこう言ってしまう。


「これ…結構キツいね~…」

「ですねぇ…」


おそらく人生経験は彼の方が上。そう思うとどうも敬語が出る。まぁいいんじゃないかなとは思うが。


と、そんな所に寄ってくる影が。

コウテイさんだった。


「すまないウチのメンバーが…大丈夫かな…?」


「ハハハっ全然大丈夫ですよ…」

笑い飛ばしたいのもあるが、なにより心配かけちゃ悪い…そう思うと笑ってる。


「今外すよ…ホントごめん…」

「大丈夫だよ~全然へーきぃ!」


ハラリと紐はほどけ、フローリングにかさっと落ちる。


…ってんなこといっとる場合かクッソ!

目のやり場に困るって!なんで後ろに回ってほどくんじゃ無くて、こう、なんと言えば良いのか…かばう感じ?でほどくんだッ!


とにかく俺は死んだ()

グレープさんは慣れてるからなのかケロッとしてらっしゃる…


___________________

___



しばらくして口の中にじゃぱりまんを突っ込んでもしゃついた。カレー味だった。



「そうだ!シキ君…だよね?」

「なんですかグレープさん?」

「君…シキって呼ばれるの馴れちゃったね?」

「…えぇ…まぁ」

なんだ…何が言いたい?

「僕、君を探すように頼まれたんだよね…ここ、キョウシュウのフレンズとしてね。」



そうだ、俺を探す目的はなんなんだ…

「誰が俺を…あのクソ共ですか…?」

「…クソかどうかは知らないけど、多分違うね。君なら聞いたことあるよね?」


グレープさんは淡々と進める。俺からしたら大問題だがなぁ…


「一人の女性…”ミライ"だよ。分かるよね?」

「あぁ…懐かしい…って!ミライさんがいたらもしかして…?」

「うん、君のお姉さんがいらっしゃるよ?」


あぁ…まぁ姉さんならいいか…

懐かしいなぁ…もうどんだけ家に戻って無いのかな…家を出て"人生の休暇"を使って旅を…2年ちょっとかな…

もちろんあんなクソの穴に帰るつもりは無い。姉さんの研究を踏みにじった非道な連中の家に…!


俺の血の繋がらない姉さん

姉さんの名前はカコ。

もう長らくあって無い。絶滅種の復元…だったっか…姉さんの研究。


俺の遠い遠い親戚の姉さん

それがミライさん。

動物園に行って働いているんだっけ、良く遊んでもらったや…


そしてこの俺シキ。

生まれも育ちも姓も名も分からなかった、

”放浪する運命"の持ち主。


実の親の名前なんざ知らねぇ。

カコ姉さんも…親が居なかった。

俺とカコ姉さんは、ミライさんの家系の親戚に引き取られて…


最悪だった。

逃げたんだ。

俺は旅人として、

姉さんは学者として。


「…そしてキミの名前…」

「あぁ…俺は…」


名乗るよ。

リネン。


これが俺の”名前"



四季シキを巡る輪念リネン


姉さんが一晩かけて、原稿用紙、コピー用紙、紙という紙を全部使い果たして悩み悩んで付けてくれた”名前”


_____________



カコとミライ、そしてリネン。

彼らが逃げた先が奇しくもパークだと全員が知るのはまだこれから…

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