第23話 閑話・エーヴァの独白
私はディレ帝国第二王女のエヴゲニーヤ。
親しき者には「エーヴァ」と呼ぶことを許しています。
姉と妹はそれぞれ伯爵家と侯爵家に嫁いでおります。
なので、私が王家の血を残すことになりました。
私の相手は婿となり、帝国の王になる定めです。
そんな私がセイヤー様を召喚致しました。
正直に申しますと、勇者伝説はあまり信じていませんでした。
更に言うと、どうせ召喚されてくる勇者なんて「若くて」「逞しくて」「かっこよくて」「正義感で」「愚直」な感じかと思っていました。ぶっちゃけると私のタイプではまったくありません。
そういう輩は騎士にも多いのですが、さっさと魔王を退治して褒美と共に目の前から失せてほしいと思います。暑苦しくてうざったいのです。
大体、若い男たちのあの卑しい視線。あれがダメなんです。
わかっています。私が美しく、男を奮い立たせてしまう身体だということは。
しかし、この程度のものに右往左往する男なんて興味ありません。
私はちょっと枯れかけている男性の方が好きなんです。
その点、セイヤー様は想定外でした。
私好みの年齢層ですし、私ごとき小娘の大きな胸などには興味もない様子。ナイス枯れかけでした。
しかも若造と違って思慮深く、頭の回転が速いのです。一緒にいてこれほど頼りになる男性はいないでしょう。
それに、セイヤー様は天才です。
天才と言っても神の如き完璧な存在ではありません。魔法に関して天才、経営に関して天才なのです。
魔法は全系統、全血統魔法を扱えるばかりかご自身でも魔法を作り上げてしまうほどで、おそらくセイヤー様は魔力さえあれば全知全能に等しい力を振るわれるでしょう。
魔王? おそらく瞬殺です。
但し、弱点もあります。
セイヤー様から告げられたのですが、女性が接触するとセイヤー様の魔力は低下するそうです。
性行為などすれば魔法を繰れなくなるのではないかと心配され、スキンシップ程度の接触ですら避けているように思えます。
これは由々しき問題です。
もし魔王軍が女ばかりで色仕掛けしてきたら………あ、問題ないですね。セイヤー様は枯れかけておられますので、色仕掛けでどうにかなるタイプではありません。
なんにしても、枯れかけの純血は私のものです。
魔王討伐の暁には、私がいかなる手段を用いてでも、セイヤー様から搾り取るつもりです。
それで魔法の力がなくなってもいいのです。私がすべての面倒を見ますから。邪魔するものがいたら例え父や母であっても許しません。
話が逸れましたか?
ああ、そうそう。それと、経営。そう、経営なんですよ、セイヤー様がとんでもないのは。
ディレ帝国の時間概念や労働概念をすべて塗り替えたと言っても過言ではないでしょう。
その存在に良し悪しあった「ギルド制度」も冒険者ギルドや一部の職人ギルド以外はすべてなくなりました。
その解体劇の最中、アップレチ王国の間者が商業ギルドに入り込んでいることもわかりました。魔王討伐後は国家関係を考えなければなりませんね。
セイヤー様は、たった半年で「エーヴァグループ」によって帝国を近隣最大の商業国家にしてくれました。今では帝都が「エーヴァ」と呼ばれている始末でして、私の名前を社名に冠して頂けたのは恥ずかしいやら、誇らしいやら……。
魔法に頼らないインフラの整備も進み、ディレ帝国は世界一の文明国家になったことでしょう。
そんな勇者様ですが、人付合いがちょっと下手です。
そんな欠点も愛おしく感じますよね。
すべてが完璧な神の如き方であれば、畏れ多くなってしまうところでしょうが、そうではないのですから。
セイヤー様のお側には、私と侍女のエカテリーナが常に控えております。
私は未来の妻として当然付き添いますが、雑事をする者が必要なのでエカテリーナの同行を認めています。
彼女はちょっと………どうやら私のことを信奉している狂信者のようでして………けど、それでもいいのです。
なぜ? それはセイヤー様に色目を使わないで済む女だからです。私の妻の座を脅かす可能性がある者を同行させるはずがないではないですか。
いろいろセイヤー様への態度が酷いとは思いますが、それによってセイヤー様がエカテリーナに劣情を持てなくなる……ふふ、我ながらいい人選をしました。普通の侍女であればセイヤー様が気に入ってしまう可能性がありますからね。
もちろんエカテリーナは我が帝国の「礎」としての役目もあります。
礎とはなにかと?
勇者様の子を残すという仕事です。
もしも(ありえませんが)勇者様が魔王に破れた場合や、勇者様の没後にその血筋が残っていることは、国としてはとても重要な事なのです。
過去にこの世界に呼ばれた勇者たちの血は、残念ながら僅かにしか残っていないと聞いております。さらにその血は薄まり、本来の勇者の力は殆ど残っていないとか。
ですが、その力は絶大。他国との関係上、勇者がいるのといないのとでは雲泥の差がでます。
なので、それは許します。愛の無い生殖行為ですから許します。ふふ、私は寛容ですから、国のためであれば……私のあとであれば……許します。
ですが、さすがセイヤー様。枯れかけは伊達ではありません。そういう睦事には興味を示されない。素敵です。
私に対しても「まだ18歳だろう……」と抱いてくれません。もういい年なのですが、セイヤー様のいた世界の常識では「まだまだ子供」なのだそうです。
エカテリーナにも興味を示さなかったセイヤー様ですが、最近ちょっと嫌な予感がします。
魔王軍のダークエルフ、将軍のヒルデさん。彼女の女とは思えない肉感に、たまに視線が泳いでいるのです。
確かに破廉恥な格好をしているので、どこを見ていいのかと慌てるのはわかります。女である私でも見るのが恥ずかしく感じるのですから。
ですがヒルデさんが「ぜひ剣術の手ほどきを」とセイヤー様に密着してハアハアジュルジュルと顔を赤らめている様は看過できません。
私が最初。これは譲れません。
それと、もしセイヤー様に抱かれたいのであればディレ帝国の軍門に下りなさい。
え、もちろんです、って………わかりました。ダークエルフ族は我が帝国の一首族として迎えましょう。なんですかダルマ経典って? まぁ、それはいいんですが、よろしいですよね、セイヤー様? いいことしましたよね? 私、いいことしましたよね?
えへへ。今夜この砦の貴賓室を借りておりますの。
あ、そうでしたね。魔王討伐が先です。わかっています。
しかしですね……私と寝たとしても、その魔法の力は消える気が全くしないんですが……ただ単に今まで女性と接触してこなかったせいで、ちょっとしたスキンシップでも動揺して魔法がコントロールできなくなるだけではないのかな、と。
あ、これは黙っておきましょう。
セイヤー様の貞操をご自身で守っていただくために!
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