第30話 那国王
一方的な展開だった。
少年が出したと思われる、恐らく魔法であろう光はただ、まぶしいだけで黒い象はなにも感じていない様子だった。
少年は象の鼻に殴られ、飛んでいく。
「ねぇ!どうするの!死んじゃう!」
パニックになった。
自分の目の前で誰かが死ぬのは嫌だ。
死なないと約束したものの、自分から死のうとしないことはできても外部から与えられる死についてはどうしようもない。
「大丈夫だぼん。リヴはあの少年が生きることだけを祈っていればいいぼん」
巨大な空飛ぶトドは落ち着いて言う。
「ボボンさんは強いんでしょ?助けてあげなよ。」
「ぼんはリヴを守らなくてはいけないぼん。リヴになにかあったら少年は死を受け入れてしまうぼん。」
よく理解できなかったが、とにかく大切に守ってもらえるようだ。
少年は何本もの木を倒し、ようやく止まった。
少年は上を見上げ呆然としている。
「ねぇ、勝てるの!?倒せるの!?全然歯が立たないみたいよ!大丈夫なの!」
「大丈夫だぼん。リヴは願うんだぼん。」
また同じようなことを言う。
自分には祈ることしかできないと言われているようで悔しかった。
実際、祈ることしかできずそれがまたさらに悔しさを膨らませた。
象は物凄い勢いで少年を連続で殴り付ける。
もう見ていられない。
少年は地面に強く叩きつけられた。
象は地面に張り付く少年に向け鼻を高く振り上げ、振り下ろす。
もう、だめだ。
そう思った。
象の鼻は物凄い勢いで少年を確実にとらえた。
しかし、少年は裏切った。
先程までは簡単に弾き飛んでいた体は何事もなかったかのようにその場にあった。
きっとなにかが起きた。
象はもう一度鼻を高く振り上げる。
大気が震え、鼻に黒いオーラが集中している。
地面に張り付いたように動かない少年にもう一度振り下ろした。
しかし、少年にはなにも起きていないようだった。
「な…何が起きたの…?」
理解できなかった。
ただ、分かるのは少年が無事だということだ。
もうひとつ、象が間違いなく自分の方をにらんでいる。
なにかしてしまったのだろうか。
少年は天を仰いだままなにかを叫んだ。
光の柱が大地から天へと立ち上る。
象はそのまま消えてしまった。
「リヴ!少年のところへいくぼん!」
急いで少年のところへ飛んでいく。
「大丈夫?!なにをしたの?」
少年は出しづらそうに声を出す。
「ごめん……消しちゃった……」
「仕方ないぼん。リューバは死の神の加護を受けすぎたぼん。そなたの魔法でもどうすることができないということは、他のだれであっても無理だったぼん。」
少年は申し訳なさそうに見つめてくる。
涙が溢れてきた。
「本当に……バカ……」
生きてくれて本当によかった。
自分のせいで死ぬのではないか、自分と出逢わなければことのようなことにはならなかったのではないかと色々な考えが頭をめぐっていた。
少年は目を薄く開け、言った。
「リヴ……ありがとう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自室にいると突然の揺れを感じた。
なにやら騒がしいぞ、と部屋を出ると兵士たちがどたばたしている。
「なにがあった!」
衛兵に話を聞く。
衛兵は急ぎながらも立ち止まり姿勢を正して言う。
「陛下!何かが城を襲撃しているようです!」
「何かとはどういうことだ!人か?獣か?」
「黒き獸です。神獣ではないかという情報もあります。」
「まず状況を把握せよ!いいか、城を守るのだ!」
「はっ!」
黒き神獣は最近この国の村を襲ったと聞いていた。
その獸がとうとう城を落としに来たのだろうか。
しかし、なぜ、神獣が人を襲うのか理解できなかった。
どれだけ考えてもわからない。
どのような獸なのかも。
自分の目で見なければ。
城の一番高い塔へ上る。
普段はめったに上がることのない場所を必死でかけ上がる。
その間も揺れは続いていた。
塔へ上り外を見るとそこには本当に得たいの知れないものがいた。
象のようであるが、漆黒の毛に覆われている。
そしてなによりも黒く透けている煙のようなものを全身にまとい、攻撃の一撃一撃はどの生物よりも威力があり、早かった。
全身の力が抜け、その場に倒れる。
もう、どうしろというのか。
何をしても守ることは叶うはずがなかった。
しかし、神に願う。
「神よ。おまもりください。」
なにも起きないことは理解している。
願っても状況は変わらない。
しかし、それしかできない。
神に願った。
先程よりも強く。
しかし兵士達は一撃でやられ、一部のものはどこかへ飛ばされ、一部のものは壁に当たり、一部のものは踏まれていた。
その光景は子供が玩具で遊ぶように簡単にやっていた。
「もう……この国は………。?!」
諦めたとき揺れがおさまった。
何が起きたのかは分からない。
しかし象は攻撃をやめたことだけはわかった。
誰かと会話をしているようだった。
目を凝らしてみると、それはまだ決して大人とは言えない少年だった。
少年は象と戦う。
はじめは少年は瞬殺されるのではないかと思った。
心の中ではほんの少しの希望があったが、案の定、象は一方的に攻撃を少年にした。
しかし、少年はそれでも死んでいないようだった。
「がんばれ。」
自分の力のなさを恨み、少年に将来を任せた。
突然地面から光が上がった。
気づいた頃には象はもういなくなっていた。
「あの少年は………?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
リヴがいなければ確実に死んでいた。
心から感謝した。
リヴは涙を流して、生きて帰ったことを喜んでくれているようだった。
トドの方を見るとなにやらムカつく顔をしている。
いつもの顔なのだが、なにかムカついた。
二人で喜び合っていると、それを遮るかのように声が響いてきた。
「そこの者よ!そなた達はどこの国の者ぞ。」
城の方から聞こえてくるのはわかったため城の方を見る。
しかし、いるのは兵士と思われる鎧の者達だけで、声の主と思われる人物はいなかった。
とりあえず答える。
「恵国です!」
兵士達が走ってくる。
そして兵士たちに取り囲まれた。
また、どこからか声が聞こえる。
「お主らの名を申せ。」
「ぼんはボボンというぼん。」
兵士達はトドがしゃべったことに少し驚いたようで、おぉと色々なところから聞こえる。
「リヴといいます。」
リヴの美しさはどこの国でも認められるようだ。
リヴが話した途端にざわついていた兵士達は静になり、じっと見つめていた。
「リヴよ、そなたはどこの国の者だ。」
「那国です。」
リヴも誰が話しているのかわかっていないようで声のする方に語りかけていた。
少し沈黙を挟んだ後、また声が聞こえる。
「そこの恵国の者よ、お主は何者だ。先程の獸のことはなにか知っておるのか。」
「僕はロース。魔導師です。先程の獸のことは僕のとなりにいるコレがよく知ってます。」
「コレってなんだぼん…」
トドに突っ込みを入れられた。
誰もなんのリアクションもしたかったため、少し恥ずかしかった。
突然、先程よりも大きな声が響く。
「兵士達よ!今からその者達は我が国の恩人として丁重に迎え入れる。失礼のないように迎え入れるのだ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少年達はあの象を倒した。
巨大で正体の分からない象を。
その少年たちをもてなさないはずがない。
しかし、さらにもてなす必要があった。
それは少女の存在だ。
少年と共にいる少女は美しかった。
その美しさに目を引かれたというわけではない。
もちろん、引かれなかったといったら嘘にはなるが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
玉座の間。
それは王の威厳を示す場所だ。
だからこそ、動揺を見せてはいけない。
威厳ある態度で座る必要がある。
「さて………リヴ殿。」
「はい。」
少女はかわいらしい声で返事をした。
「そなたは本当にリヴというのか?」
「はい。産みの親がそう名付けてくれました。」
その言葉を聞き自分で顔がひきつるのを感じた。
しかしできるだけ表情が変わるのを抑える。
「産みの親というと………亡くなられたのか?」
「いいえ、分かりません。育ての親に一度聞いたことがありましたが、なにも答えてはくれませんでした。」
「そうか………そなたは見た目は美しいが………女なのか?」
とてつもなく失礼な質問だ。
この美しい少女に女かどうか聞くなど愚問中の愚問である。
しかし、自分の勘が正しいのか確かめる必要があった。
「………どういうことでしょう?」
少女は眉間にシワを寄せ完全に不信感を募らせていた。
それによって自分の勘が間違えているとするのは早計だ。
話を聞いてから判断せねば。
「女か?」
少女は目をつむり、決意したかのように答えた。
「ちがいます。」
光を求めて ごんぞう @tatata68
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