第24話 リヴの村
「マヨネーズ」
少年は不思議な言葉をいうともうそこは那国と恵国の境界線だった。
相変わらず何もない場所を夕陽に照らされ歩いていく。
「ねぇねぇ、どうやって魔法を覚えたの?」
不思議に思えた。
魔法というものは身近で使える者はいなく、そもそも那国で魔法というものは本当にごく一部の者が使うものだった。
「え、普通にイメージだよ!」
簡単だと言わんばかりの顔で少年は答えた。
この顔には少し腹が立った。
なれなれしい態度にも腹が立った。
命を助けてもらったがそれでもまだ心の壁をつくっておきたかった。
「へー、そーなんだー!」
とりあえず笑顔と元気で興味がなくなったことを悟られないようにごまかした。
「歩くのも面倒だし、疲れるから飛んでいこっか!」
よく理解できなかった。
(飛んでいく?さっきの魔法みたいに?)
困惑した顔をしてしまったのか。
少年は顔を見つめてくる。
(うわ……きもちわる…)
少年はにやりと笑う。
顔を見つめ笑顔を返すがその心のなかは真っ黒だった。
(ほんと引く……。キモいんだけど…。変な格好だし。これがかっこいいと思ってるのかな………きもちわるっ。一緒に旅するの嫌だな……)
「タルタルソース」
!?!?!!!!
急に足に体の重みを感じなくなった。
それはまるで宙に浮いているかのような、不思議な感覚だった。
ふと気づくと例のキモい少年の姿が見当たらなかった。
しかし、夕陽に照らされた影は確かにある。
(……上?)
見上げるとそこに少年がいた。
間違いなく宙に浮いていた。
「えっ?!」
驚いた。
少年が浮いていることに。
そして、自分も浮いていることに驚いた。
先ほど感じた感覚は勘違いではなかった。
足の裏と大地の間には大気があるだけだった。
「びっくりした?はじめて?」
少年に少し自慢げに言われた。
なんなのだろうか。
一度鼻につくとこれほどまでに気になるのか。
「自分が思うように動けば動けるよ!」
そういわれてもうまく行くはずがなかった。
少年はその姿を見てか、スーっと近寄ってきた。
ビクッ
少年が手を握ってきた。
そのまま上昇する。
「こんな感じで空を飛んで行こう!」
いや、どんな感じだよ。といった感じだ。
もちろん空を飛ぶ感覚はわかった。
しかし手を突然握られた衝撃でそんなことはどうでもよかった。
(キモすぎるんですが………あぁ早く手を洗いたい…。)
心の中は真っ黒だ。
少年に向けて微笑む。
「ありがとう。」
名一杯のひきつった笑顔だった。
少年は気づいていないようだった。
しかし、一つわからないことがあった。
(どうして……こんなに嫌いなんだろう……。)
顔は好きではないが不細工とは思わない。
性格も…悪くはない。
しかし、なぜか嫌悪感が湧き出てくる。
どうもこれは『生理的に』受け付けない、というものだ。
「行きましょうか!」
黒リヴを心にしまい、笑顔を振り撒いた。
「うん!!」
二人は那国の中心地へ飛んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とても気分がよかった。
夕陽に照らされるという良いムード。
リヴが優しく接してくれることが嬉しかった。
そして何よりリヴはよく笑顔を見せてくれる。
先ほど勇気を出して手を握ってみたが、少し驚いた様子だったが、嫌そうではなかった。
(このままいけば……。夜も一緒に寝たり………んふふ。)
心の中のこうたはニヤリと笑う。
下の方のこうたはニョキリと動く。
(あぁ……こんなことだめだ……。)
なんとか抑えねば…と話を変えることにした。
「結構来たけど村はどの辺?」
「もうすぐだと思う!あっ!あれをこえたところ!」
リヴが指を指す方を見ると荒れ地から突然森林地帯になっているところが見えた。
森林は夕陽に照らされ、何とも言えないきれいな緑色をしていた。
そのまま飛んでいき、森林地帯に入る。
(広っっ……。東京ドーム何個分だ……。)
目に入ってきたのはアマゾンのジャングルやロシアのタイガの森よりも広いのではないかと感じた。
「広いなぁ」
広大な自然を前に自分が小さく感じた、なんてかっこつけて自分に酔いしれた。
「あら、知らなかった?那国は国の九十%以上が森林よ。あとの十%は今通ってきたような荒れ地だけど。」
「自然豊かなんだね…。生活しにくくない?」
つい、口にしてしまった。
「まったく。」
なかなか鋭い眼光でにらまれた。
口は真一文字に閉じている。
どうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
「ご…ごめん!嫌な意味じゃなくて……ふつうに……その…。」
口をゴモゴモ動かすがうまく言葉が出てこない。
上手い言い訳も出てこなかった。
リヴは睨むのをやめ、森林に目を落とした。
「あの辺り!」
指を指した方を見てもただの森林にしか見えなかった。
先ほどの腹いせではないかとも思ったが、とりあえず信じて指差した方へ降下する。
近づいていくと森林は自分の知っている日本のものとは少し違っていた。
アフリカのバオバブのような変わった形の木やタイガのような針葉樹、キノコのようなリュウケツジュ、そして檜や杉のような木。
自分の住んでいる世界では絶対に共生することのない植物が目の前に広がっていた。
(この世界では気候とかあんまり関係ないのかなぁ…)
そんなことを考えつつ、降下していく。
さらに近づくと、木々の下に村のようなものが見えた。
「あそこ?」
「うん。」
そっけない返事だなと思いながらどんどん近づく。
もう夕陽も落ちそうで薄暗くなっていた。
見にくかったが、火のような明かりがちらほらついていたため、それを目標に降りた。
木々の間を抜ける。
周りにはツリーハウスのような木をうまく利用した建造物がいくつかあった。
地面まで降りると目を奪われた。
ツリーハウスのようだと思った家は綺麗な状態だったが、地面に建っている、普通の家はなにかに襲われたように所々こわされ、人の気配もなかった。
「ひどいでしょ」
なにも言葉が見つからなかった。
何を言うことが正しいのかわからなかった。
「別にいいの。もう受け入れたから。けど…皆はどこにいるのかな……。」
得たいの知れない植物が生える村のなかを歩く。
「ライラ…?ライラか!?」
声のした方を二人同時に振り向いた。
そこには大人と思われる黒髪の人間が幾人かいた。
「ライラ……?」
ライラとは誰のことかわからなかった。
「リヴ…ライラって誰……?リヴ?」
リヴに聞こうと横を見る。
リヴは少し怯えているようだった。
「ライラ!今までどこにいってたんだ!今すぐあの魔獣のもとへ早く行くのだ!」
ライラとはリヴのことらしい。
「嫌だ!私は死にたくない!」
「お主が犠牲になれば村人がこれ以上殺されることはないのだ!馬人に襲われボロボロの村をこれ以上苦しめないでほしい…頼む!」
「嫌だ!」
村人もリヴも必死だった。
「あのー…」
村人の視線がこちらを向く。
「僕が……その獣を倒しますよ…?」
村人達は目を見開いた。
人間達の奥から腰を曲げた白髭、白髪の男が出てきた。
「そなたは…?」
「ロースと言います。一応魔導師です。」
「おぉ!そうですか!では、頼んでもよろしいですかな?」
「ちょ…長老!いいのですか?」
老人は軽く頷いた。
意外に素直に受け入れられたようだ。
「はい、わかりました。」
「道案内はライラに頼むといいでしょう。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「長老!良いのですか?」
ツリーハウスに幾人か長老を囲んで話している。
「良いのだ。」
「なぜですか!ライラを生け贄にしなければ我々もそのうち殺されます…」
「あの者が倒せばそれで良い…」
「倒せるのでしょうか!」
「倒せなかった場合を考えてライラに案内をさせたのだ」
長老はニヤリと笑う。
幾人かの村人もニヤリと笑った。
「村長……あなたは……悪ですなぁ」
江戸時代のようなやりとりであった。
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