第14話 異質なモノ

「団長!もう少しいくと恵国に入ります!」


 隊列を組みながら馬人達は恵国へと進んでいた。

セレンが団長に続けて言った。


「昨夜話したことが事実だとしたら、死の王と同等の持っているということも考えられますが、どうでしょう!」


「アイラン、どう思う?」


 団長はアイランに知恵を求めた。


「正直、未だに信じることはできませんな。しかし、もし、本当にいたら逃げるのが懸命でしょうな。死の王と同等ということは、今度は片腕だけでは済まないでしょうな…」


 そういってアイランは団長の左腕に目線を移す。

団長はアイランの様子を眺めながら、少し考え、はっきりと言った。


「死の王は…勝てる気がしん!これだけは自信がある。あの日のことを今でも思い出す度にあのとき感じた痛みや悲しみ、憎しみ…全てをはっきりと感じる。もう二度と…あんな目には合いたくない…」


 少し震えるような仕草をした。

その仕草をみて、セレンがハキハキとした声で話した。


「団長!我々は今、人間を狩りに来ているのです!そのような弱気はおやめください!」


 恐怖を思い出させるなといわんばかりの剣幕で団長に迫った。

団長はそれに圧倒されるような形で頷いた。

そこから会話も特になく、しばらく馬人の集団は走った。

草原の中を。

すると木でできた、簡素な柵に囲まれた村が見えてきた。


「あの村です!」


 セレンが叫んだ。

団長はそれを聞き、気を引き締め直す。


「あの村で最後の狩りだ!さっさと終わらせホーセンへ帰るぞ!」


「おぉ!」


 馬人達…二十名ほどが一斉に村へと押し寄せる。

村への門はあるが、馬人達にとって柵が柵の意味をなしておらず、柵をなぎ倒しながら四方八方から村を襲う。


「馬人だ!」

「逃げろ!」

「助けてくれ!」


 村人の様々な声が飛び交う中、馬人達は作業に徹した。


馬人達が行うことは三つ。

一つは動きを止めること。

二つは首を取ること。

三つは血を抜くことである。


 馬人達は次々に手に持っている武器で斬り、馬の脚で潰した。

馬人達にとって人間は水から揚げた魚のようなものだった。

気さえ抜かなければ傷さえつけられない、そんなものだった。

作業中は人間がよく鳴く。

斬られたとき、首をとられる前、それを見ているものが助けを請う声だ。

今回も人間の声があちこちから飛び交う。

しかし、いつもと違うことが起きた。


「団長!あれは!」


 団長はアイランが指差した方を見た。

一筋の光が飛んでいく。


「ちっ…人間が…!」


「だ…団長…あれはなんなのでしょう!」


 セレンが少しおどおどしながら聞く。


「あれは恐らく城への救難信号だろう。まぁ…気にすることはない。軍隊が城からここまで来る間に終わらせて帰ればいいことだ!急いで作業を終わらせろ!」


 セレンはせかせかと作業に戻る。

血を抜いた人間を荷車に積む。


(はやく終わらせないと…昨日聞いた者が…くる…)


 よほど怖いのだろうか。

セレンの顔は青ざめている。

その時、セレンの目を釘付けにすることが起きた。

先程まではなにもなかったところになにかがあった。

そこには漆黒のローブを纏い、漆黒の杖を背負う者がいた。

それは明らかに異質だった。

背中の杖についている宝石の輝きがより一層、その者の異質さを輝かせていた。


「だ…団長!!!!!」


 その声に周りの者も気づいたのだろうか。

まだ残っている人間はそのままにして、その異質な者を囲んだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 不思議な夢を見た。

全く知らない男がトラックに轢かれて死ぬ夢。

しかし死ぬ前に一瞬目の奥に生きる力とでもいうべき、力強さを感じた。


 ベッドでゴロゴロしながら考えた。


 (この世界に来てもう三日目か…長い夢だなぁ)


 もうはやく夢が覚めてくれないかと考えるほどだった。

昨日貰った杖を眺めながら自分の魔法について考えた。

よくよく考えるとものすごくダサい。

トンカツ、マヨネーズ、ソース、タルタルソース…

全てトンカツにかけるものだが、センスの欠片もない。


(一応僕の好きなトンカツとかけるソースにしたけど…ダサすぎる…)


 かといって今さら変える気もない。

夢だから適当でいいはずだ。

しかし……センスのなさを許すことのできない自分がいる。


(一応…呪文、いちいち変えた方がいいかな…どんな魔法が出せるんだろうか…試したいな…)


 ベッドをゴロゴロしながら色々と考える。

軍団長に相談しようと思った。


(軍団長~、聞こえますか~)


 すぐに軍団長の声が聞こえる。


(魔導師殿!どうされた!少々立て込んでおりまして。)


 マリフ軍団長の声は焦っているようだった。


(どうかしたんですか?)


(ある村が馬人達に襲撃されているようです。いますぐ向かわねば…他の村も犠牲になる可能性が。)


 マリフはその村のことは諦めかけているように聞こえた。

それには少し腹が立ったが、丁度、魔法が使いたいと思っていたところだ。


(あ、僕いきます。)


(え…よろしいのでしょうか…?!)


(はい、行かせてください。)


(それは…助かります。襲撃されている村を助けてください。おねがいします。)


「マヨネーズ」


「ま、魔導師様…」


 マリフの目の前に来た。

マリフは城門前で兵をまとめていた。


「今回は一人でいきますね…軍団長、場所はどこでしょうか?イメージを…」


「わかりました。魔導師様の邪魔になるのであればそれでかまいません。」


 食いぎみで軍団長が話した。


「マヨネーズ」


 そこは人々の悲痛な声が飛び交う、地獄絵図のような光景があった。

すぐに馬人達に囲まれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それは突然現れた。

漆黒に身を包んだ異質な者は動こうとしない。


「団長…これが例の者の可能性もあります…気をつけないと…」


 アイランが異質な者から目を離さずに言う。

皆、口々になにか相談をしているが、目は異質な者から離そうとしない。

感じ取っているのだろう。

この感覚を。


 異質な者が口を開く。


「襲うのをやめてください。」


 驚いた。

その異質な者の正体は人間の少年だった。

少年だとわかった瞬間、馬人達の張り詰めた空気が緩んだ。

誰かが口を開いた。


「人間の子供よ。その勇気は認めるが死にたくなければ今すぐ逃げよ。逃げないのならば死を与えよう。」


(子供相手に…馬人を恐がらせるつもりか…?)


 子供は目線をその馬人に向ける。


「トゥンカツ」


バタリ


(!?!!!!)


 力が抜けたかのようにその馬人は倒れた。

周りの馬人が確認するが、どうやら死んでいるようだった。

何人かの馬人が少年に怒鳴る。

セレンやアイランはそれをやめさせようとするがもう遅かった。

怒鳴っていた馬人達は少年に斬りかかる。


「トゥンカツ」


 少年のその言葉は無慈悲にも斬りかかった馬人達の命を奪った。

それらを見ていることしかできなかった。

周りを見ると残りの馬人は自分をいれて五名しかいなかった。

それをみて恐怖がよみがえる。

死の王と戦ったときと同じ感覚だ。


(だめだ。このままここにいては、皆死ぬ。この者は死の王と同等だ。間違いない!)


 全身の震えをなんとか抑えようとするが、どうしても小刻みに震えてしまう。

他の馬人も同様に畏怖の念を感じているが自分だけは感じてはならない。

団長としてなす事を成さねばならない。



「少年!我々はここで手を引く!」


 少年に向けて話した。

一言二言で、かなり精神を削る。 

少年は近づいてくる。


(マズイ…)


「団長…」


 アイランが絞り出すような声で助けを求めてくる。


「逃げろっ……!ついてこい!」


 少しでもはやくこの恐怖から逃れたいという感情しかなかった。

他の四人は自分についてきているだろうか。

自分ではない足音は聞こえる。

おそらくついてきているはずだ。

では、あの少年は。

振り向く余裕などない。

振り向いてはいけない。

一秒でも遅れたら死ぬ可能性がグンと高くなる。

とにかく必死で走った。


 とにかく走った。

まだ、太陽はそこまで上っていない、朝に。

走った。


「団長!もう少しいくと霧がよく出る地域に入ります!」


 正直、あの少年が追いかけてきていたら霧など関係ないだろうと思いながらも、霧の方へ行く。

畑らしきものがあるが、そんなものは無視して走る。

真っ白な霧の中、朝日に照らされ、人影らしきものが見える。

それが人だと認知できたとき、少し安堵の気持ちが馬人達の間に漂った。


「おい、そこのお前!ここはどこだ!」

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