第43話

翌日の愛菜は昨日とはうって変わって、カジュアルな、でも清楚で好感度の高い、理想的なお仕事ファッションに身を包んでいた。


「おはよう、明穂、今日もかわいいね」


愛菜は出勤二日目とは思えないほど、部署になじみまくっていた。


コーヒーの置き場所もお菓子の補充も、アシスタントロボ任せではなく彼女自身がやっている。


一日でその場所を把握したのだ。


「おっはようございまーす!」


一番最後に出勤してきた七海ちゃんが、元気よく現れた。


そんな彼女に、愛菜はにっこりと笑顔を向ける。


七海ちゃんの笑顔が、一瞬にしてムッとなった。


「七海ちゃん、おはよう」


愛菜の気軽な挨拶も、彼女は無視して通り過ぎた。


そんな七海ちゃんに全く気兼ねすることなく、愛菜はスマホのレンズを向ける。


七海のPP1789。


愛菜は笑った。


「あら、七海ちゃん、芹奈さんから教えてもらった、PPアップの秘訣、それを参考にして、初めて1800越えたって、前に喜んでなかったっけ?」


「私の日記、勝手に読まないで下さい」


「ネットで世界中に公開してるのに?」


愛菜は七海にすり寄る。


「実は、私もここに入る前に、すっごい努力して、初めて1800を越えたばかりだったの、だから、もの凄く親近感が湧いちゃって、それで、私も一緒にやれればいいなーって……」


彼女は、自分のスマホを操作した。


その画面に、彼女の顔がこわばる。


七海ちゃんはそれを見て、冷ややかな態度で愛菜に応じた。


「だからなによ」


何かを言いかけていた愛菜は、それを途中でやめた。


今度は七海ちゃんがスマホを取り出すと、愛菜に向ける。


「大体、そんなふうに他人のPPを見ることが失礼なんだって、そういうPPリテラシーは……」


カシャリと音がして、愛菜のPPが測定された。


愛菜のPP1795。


七海ちゃんは、遠慮なくプッと吹き出す。


「あなたよりは高いわ!」


愛菜は、完全に動揺していた。


「それがなによ、PPに多少の上下があることは、当たり前じゃない」


「昨日はちゃんと1800を越えてたのよ!」


愛菜は自分のPPの変動履歴を見せる。


七海ちゃんは、それを笑い飛ばした。


「あははー、はいはい越えてた越えてたー! 昨日はねー」


七海はけらけら笑っている。


愛菜はぐっと拳を握りしめた。


「私も始めたから、芹奈さんの行動指示リスト」


「へーそうなんですか? でもそれ、私と明穂さん専用だったんですよねー」


「なんですって?」


「だから、いくらあんたが内緒で進めようったって、そうはいかないわよ」


七海ちゃんは、くるりと愛菜に背を向けた。


「二人の専用って、どういうこと」


「どうしてあなたがそれを?」


芹奈さんの言葉に、部屋中が静まり返る。


愛菜は縮こまった。


「すみません。昨日、明穂に教えてもらったんです。いけなかったですか?」


「いいえ、特に問題はないわ」


「私も、芹奈さんみたいに、PPを上げたいです」


芹奈さんは、愛菜を見下ろした。


「私が明穂ちゃんに教えてあげたのは、別に七海ちゃんと二人だけのためってわけではないの。あなたにも、充分効果はあると思うわ」


「本当ですか?」


「えぇ」


芹奈さんはそう言うと、自分の席につく。


「明穂ちゃんも、ちゃんとすればいいのに。そうしたら私や七海ちゃんみたいに、PPが上がるわよ」


愛菜は、ほっとしたように胸をなで下ろす。


またこの話しだ。


どうして終わった話を、今さら蒸し返すんだろう。


「私は、私なりの方法で上げるし、維持するから……、大丈夫です」


そこにいた、みんなの視線が集まってくる。


すごく嫌な気分。


居心地が非常に悪い。


私はそんな気分を振り払うようにデスクに座ると、すぐに仕事を始めた。

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