第五章 領地発展編

第149話 野球

 王都から自宅に戻ってきた翌日。

 俺は朝起きてから、その辺を散歩していた。


「あっ、コウ様……」


 井戸の所で、水を汲んでいたフィリスにばったり出くわした。

 なぜかフィリスは、水を組み上げた桶をばしゃっと落とす。

 そして、血色の悪い顔を赤らめて、女の顔をした。

 なんかいつもと違う反応だ。

 一体、なぜ。


「……それは、その……もう私達、一線を超えちゃったわけですから……」


 フィリスはそんなことを言ってモジモジする。

 はて。

 いつフィリスと一線を超えたのだろう。

 尻の穴は舐められたが、まだフィリスを抱いてはいないのだが。


「……それも立派な粘膜接触です。先日は、その……私の初めてをもらってくれて、ありがとうございました」


 フィリスはペコリと頭を下げた。

 うーん。

 何かが違う気がする。


「……フィリス。今度ちゃんと抱いてやるから、そういう事はその後で言え」


「えー! ちゃんと抱いてもらいましたよう。……ちょっぴり苦くて、美味しかったです」


 フィリスは恥ずかしそうに手を握りしめている。

 どこか可愛いらしいのだが。

 何が苦かったのかは怖くて聞けない。

 というか、こじらせるにも程がある。

 一刻も早くちゃんと抱いて、女の悦びみたいなのを教えてやったほうが良い気がしてきた。


「……フィリス、ちょっと今時間あるか? あるなら、気持ちよくしてやる」


 朝っぱらからフィリスの小さな肩を抱いて迫ってみた。


「……気持ちよくって何してくれるんですか? やっとうんち食べさせてくれる気になったんですか!?」


 フィリスはキラキラした物凄くいい顔で、ドン引きすることを言い出した。

 え、何言ってんのこの子。


「……いや、それはちょっと」


 思わず普通に拒絶してしまう。


「なんだー、違うんですか。またいつもの思わせぶりですか? ……まあ、今日はおしっこで我慢してもいいですけど」


 フィリスは物凄く不満そうに、再び引く事を言っている。

 なぜ排泄物から離れないのか。


 今日のフィリスは久しぶりにメイド服姿だ。

 清潔感のあるメイド服に整った顔立ち。

 どこからどう見ても、美人なメイドさんなのに。

 口を開けば汚物の話題ばかりとは、これいかに。


「……なんというか、そろそろフィリスの処女が欲しいななんて……」


 なんか噛み合わないので、思わず小声になりながらボソボソと話す。


「しょじょお? そんなの欲しいんですか? ……まあいいですけど。その辺でします?」


 全然興味無さそうに、その辺の茂みを顎でくいっと指すフィリス。

 なんだろう。

 物凄くヤる気が削がれる。

 もう少し恥じらったり、期待したりして欲しい。


 さっきから爽やかな朝日が差し込んでくるし。

 こんないい天気の日に俺は何をやろうとしているんだ。

 もう、今日はいいかな……。


「……また今度にしようか」


「もー! なんなんですかー! それより早くうんちかおしっこ下さいよー! もう私たちは他人じゃないんですし」


 そう言って、フィリスは恥ずかしそうに俺の手を握ってくる。

 可愛かった。

 でも、ベクトルがわからない。

 どうやってこいつを攻略すればいいんだろう。



 そんなちょっとした悩みを抱えながら、フィリスとを連れて散歩を続けた。


「おお、領主様。おかえりなさいませ。王都は如何でしたかな?」


 すると、同じく散歩していたらしいロビンジジイに声をかけられた。

 ロビンジジイは、相変わらず顔全体が真っ白な眉毛やら髭やらに覆われていて、その表情を窺い知ることが出来ない。

 ただ、声音からすると機嫌が良さそうだ。


「なかなか楽しかったぞ。そういえば、子爵に出世してセラン荒野全域が領地になったんだわ」


「……それは、なんとも……もう立派な大領主様ですな。私も領民として鼻が高いです。そうですか……孫のような年齢の領主様が、子爵様に……。本当に若者の成長は早いものですなあ」


 そう言ってロビンジジイは、髭をくしゃりとしながら俺を仰ぎ見る。

 なんか少し、くすぐったい気分になった。


「……貴様が子爵とは……世も末じゃな」


 そう声をかけてきたのは、近所のもう一人のジジイ、ヴァンダレイジジイだった。

 ヴァンダレイジジイはいきなり失礼なことを言ってくる。

 というかどうでもいいけど、このジジイ既に剣を抜いているのはなんなんだろう。

 抜き身の剣を持って徘徊するジジイって結構末期的な気がするのだが。


「ついでにハイランダーにもなって、なんか国の名前がついた剣ももらったぞ」


 付け加えるように、そんなこともドヤ顔で言ってみた。


「……むう。ハイランダーとは……。先代のハイランダーは伝説の大騎士じゃぞ。それを貴様なんかが……にわかには信じられんが」


 なんかとか。

 更に失礼な事を言っているが、ヴァンダレイジジイに言いたいことは他にあったので気にしない。


「そんなことより、ゼービアさんってジジイの孫だったんだな。かなりいい女じゃんかー! このこのー!」


 王都でゼービアさんにはお世話になった。

 具体的には乳を揉ませてもらった。

 今後処女も貰う予定なので、祖父であるヴァンダレイジジイにはよろしく言っておかなければなるまい。


「……貴様ゼービアに何をした? というか、嫁入り前の娘を女呼ばわりとは……無礼極まりない奴。斬るべし!」


 そう言ってヴァンダレイジジイは抜き身の剣を正眼に構える。

 つうか、斬るべしじゃねえから。

 なんですぐに刃傷沙汰にしないと気がすまないのだろうか。

 何をしたも何も乳しか揉んでねえっての。

 というか、俺はゼービアさんを褒めたのに。

 それで剣を向けられるとか理不尽にも程がある。


「まあまあ、ヴァンダレイ殿……」


「止めんでくだされ、ロビン殿。このクソ野郎を生かしておいては、うちの孫娘達の貞操が心配ですじゃ」


 良心的なロビンジジイがなんとかなだめようとするが、狂気に染まりきったヤバイ目をしたヴァンダレイジジイは剣を収めようとしない。

 まあ、確かにゼービアさんもアンも貞操を頂こうとしているので、俺には、てへ☆としか言えないのだが。


「……おい、人間。さっきからコウ様に失礼だぞ」


 そんな時、フィリスが前に出て、その小さな背中で俺をかばってくれる。

 おお、頼もしい。

 そういえば、かつて軍隊でも連れてこないと倒せないと言われたフィリスさんだ。

 カンナさんにいつもボコられているので忘れがちだが、十分に人間離れした強さのフィリスさんなら妖怪ジジイを止められるかもしれない!


「……うきゅう」


 しかし、一瞬のうちに投げ飛ばされたフィリスは情けなく目を回していた。


 ええー!?


「黙っておれ、吸血鬼の小娘が!!」


 軍隊レベルのフィリスを簡単にあしらうとか。

 このジジイどんだけなんだよ。

 やっぱり人間じゃないのだろうか。


「ま、待てって。別にゼービアさんには何もしてねえよ。ちょっと乳を揉ませてもらっただけで」


 挿れてないのを強調したくて、ヴァンダレイジジイにそんな事を言ってみた。


「…………」


 ヴァンダレイジジイはピタッと止まる。

 そしてわなわなと震えだした。

 あれ。

 なんか更に怒ってる気がする。

 ゼービアさんの処女膜は破いてないのに、なぜ????


「乳qうぇrちゅいおp@!!!」


 そして、よくわからないことを叫んだヴァンダレイジジイは、鬼となって襲い掛かってきた。




 数時間後、ボコボコにされた俺は地べたに横たわっていた。

 口に溜まった土を吐き出しながら、身を起こす。


「う、うーん、コウ様?」


 同じく気がついたらしいフィリスが、俺を気遣ってくれる。

 二人してヴァンダレイジジイにあっさりとボコられてしまった。

 くそ、なんなんだよ、あのジジイ。

 孫が美人じゃなかったら、さっさと村から追放するのに。


 ちなみに、俺とフィリスをボコったヴァンダレイジジイはハアハア言いながら立ち去っていった。


「……なんなんですか、アレ。私とコウ様が揃っていて勝てないとか……カンナ姉様並じゃないですか……」


 そういうこと言われると絶望するので言わないで欲しいのだが。


「まあ、モンスターみたいなものだと思え。意味もなく襲ってくる」


「……はあ、迷惑ですね」


 まったくだよ!

 こっちにはボコられる覚えなんてないっていうのに。


「……大丈夫だか? 領主様……」


 そんな時、俺を心配した村人たちが声をかけてくれた。

 ロビンジジイと一緒に越してきた新規住民たちだ。


「ほれ、水汲んできただ」


 ご丁寧に竹筒に入った水まで渡してくれる。


「……ありがとうございます」


 同じく水を渡されたフィリスが、珍しく人間相手に丁寧な言葉を返していた。


「それにしても、領主様達とヴァンダレイさんの稽古、すげえ迫力だっただ。思わず見入っちまったよ。……お嬢ちゃん、小せえのに強えなあ」


 村人の一人がそんな事を言って、フィリスの肩をポンと叩いている。

 フィリスの正体については、まだ知らないらしい。

 水をくぴくぴと飲んでいるフィリスは肩を叩かれても気にしてないようだ。

 というか、決して稽古をしていたわけではないのだが。


「兇状持ちのジジイに襲われてただけだ。つうか、見てたんなら助けろよ」


「そんなの無理だ。オラたち普通の農民だべ」


 その割には農作業をしているようには見えないのだが。

 農民なら農民らしく畑を耕してろよと思うのだ。


「んだども、領主様の畑勝手に育つし、やることなくて毎日暇なんだ」


 どいつもこいつも。

 筋肉も同じような事を言っていた気がする。

 農家って思ったより暇なお仕事なんだろうか。

 まあ、それならそれでいいのだが。

 楽して生きれるなら、それに越したことはない。

 死ぬほど働いたって、稼働時間過多で労働局に怒られるとか理不尽な事を言われるだけなのだ。

 じゃあ、仕事の量を減らせよと思う。


「……暇な時は何して過ごしてるんだ?」


 ふと気になったので聞いてみた。


「そりゃあ、みんなでたまってダベったり、昼寝したり、風呂屋に行ったりだべか」


 なんというか。

 とても健全とはいえない毎日を過ごしている。

 俺に話しかけてくれた農民たちは皆30代くらいに見える。

 働き盛りに何してんだよと思ってしまうのだが。


「……領主様、なんかおもしれえこと知らねえべか?」


 面白いこと?


「女を抱く」


 即答していた。


「……そりゃあ、領主様くらいきれえなカカアいっぱい抱えてれば楽しんだろうけどよ。うちのカカア抱いたって楽しくねえべや」


「おらまだ結婚してねえし。……領主様、誰か女紹介してくれねえか」


 紹介できる女はラッセルの妹くらいしかいない。

 それはあまりに可哀相なので、何も言えなかった。

 それにしても、女を抱く以外で面白いことか。

 うーん。


「野球でもしてれば?」


 俺の言葉に、村人たちはキョトンとした顔をしていた。

 え、何その反応。


「ヤキュってなんだべ?」


 まじかよ。

 野球知らないのだろうか。

 国民的スポーツなのに。

 そういえば、異世界だったわ、ここ。

 ふむ。


「よし、今から俺が野球を教えてやろう」


 ちなみに、俺は結構野球が好きだ。

 完全に観る専門だが。

 高校3年生の夏ごろにハマった。

 もう少し早く、野球の面白さに気づいていれば、野球部とかに入ってもう少しリア充よりの人生を歩んでいたかもしれない。

 今更だが。


 そんなわけで、まず土魔法でバットを作ってみた。

 本当ならば、木製バットを作りたかったが、俺の木工スキルはまだその域にまで達していない。

 作れるのは、丸太と木板だけだ。

 なので、今回は土魔法で我慢する。

 一応、オーバーロードさせて作ったので、強度的にはかなりのもののはずだ。

 重さは、バッティングセンターで借りた金属バットを意識した。


 次に、ボールは拾った適当な石ころを芯にして、その周囲に裁縫スキルで羊毛をぐるぐる巻きにした。

 本当ならば、この後、牛革なんかでちゃんと表面を作りたかったが、革細工スキルは取得してないので、ウールでそれっぽく加工しておいた。

 一応、見た目は野球のボールっぽくなっている。

 かなりふわふわしているので、全然弾まなそうだが、最初はこんなものでいいだろう。


 これで道具は完成である。

 グローブとかはいらんだろう。


「それじゃあ、これから野球のやり方を教えてやる」


 そう言って、俺の道具作りを珍しそうに見物していた村人達に説明する。

 最初にいた奴らだけではなく、いつの間にかかなりの村人が集まっていた。

 村中の男は殆ど来ているのではないかというレベルだ。

 ピートやラッセル、ソフィさんのとこの筋肉の姿もあった。


「いいか? 野球とはな。このボールを投げる奴と、打つ奴に分かれてやる二人だけでタイマンを張る漢おとこらしいスポーツだ」


 いや、違うのはわかってますよ?

 でも、18人とかさ。

 集めるの無理じゃん。

 そんなに友達いるわけないもん。

 少なくとも俺には18人も友達はいない。

 いや、一人も……。

 まあ、そんなわけで俺仕様にマイナーチェンジして広めようと思う。


「ピッチャーがこのボールを投げて、バッターが打つ。ボールを打てたらバッターの勝ち、打てなかったらピッチャーの勝ちだ」


 そんな感じで、ストライクやボールなど、野球の簡単なルールを説明していく。


「……わかったか?」


 そう聞いてみると、みんななんとなく頷いている。

 まあ、やってみるのが早いかな。

 筋肉を呼び出して、バットを持たせた。

 俺は筋肉に向かって、下投げで軽くボールを放る。


「ふんぬらばっ!!!」


 筋肉は物凄い風斬り音を残して、バットを振るった。

 思いき空振りしているが。


「もっと力抜け。暑苦しいんだよ。このワキガ野郎」


 アドバイスがてら、ここぞとばかりに筋肉をディスっておく。

 ディスる必要があるのかという気もするが。


「わかりましたっ! もう一球お願いします!!」


 筋肉はそう叫んで暑苦しく構える。

 あの程度ディスったくらいじゃ全く効いてないらしい。

 きっと脳みそまで筋肉なのだろう。


「よし、じゃあ行くぞー」


 そう言って、もう一度軽くボールを放る。


「ぬぐわーーー!」


 何を脱ぐんだよと思うようなセリフで筋肉がブンッとバットを振るう。

 今度はちゃんとボールを捉えたようで、ボールは綺麗な放物線を描いて宙を飛んでいく。

 思ったより飛ぶな。

 50メートルは飛んだかもしれない。


「おい、ラッセル。拾ってこい」


 とりあえず、ラッセルを球拾いに行かせた。


「……アサギリ卿、私は8女のグゥイネスですわ」


 ラッセルはいつものネタをブツブツ言いながら、ボールを追いかけていった。


「いやあ、スカッとしますな! 日頃溜まった鬱憤が晴れるようです!」


 筋肉はそう言いながら、引くほどかいている汗を拭う。

 こいつに鬱憤なんて溜まっているのだろうかと思った。


 そんなわけで、俺がピッチャーになり、その場の全員で代わる代わるバッターをやらせた。

 簡易的なバッティングセンターのようなものだ。

 ちゃんと打てるように軽く投げたので、皆、楽しそう打っていた。


「どうだ? 楽しいだろ、野球」


 そう聞いてみると、皆嬉しそうに頷く。


「何セットかバットとボールを作っておくから、暇な時はこれで遊べ」


 そう言って、バットをボールを適当に作りまくる。

 それらをしまっておける簡易的な倉庫も土魔法で作っておいた。


「コウ様は変わった遊びを知っていますね。どこで覚えたんですか?」


 俺がバットとボールを量産するのを、ちょこんと座って横で見ていたフィリスがそんなことを聞いてきた。

 どこでって前いた世界だが。

 とは言え、せっかく誰も野球のことを知らないのだ。


「今、俺が考え出したんだ」


 そんな嘘をドヤ顔で言ってみた。


「…………天才!?」


 フィリスがまんまとそんなセリフをため息混じりに言っていた。

 まんざらでもない。

 可愛い奴め。

 うんこくらいあげてもいいいかという気になってしまう。

 やらんけど。



 しばらくして、皆は思い思いのペアになって、野球を楽しんでいた。

 結構飲み込みが早いな。

 そのうち、野球場でも作るか。


 そんな事を考えていると。


「コウ、俺たちもヤキュやろうぜ!」


 ピートがバットを持って話しかけてきた。

 ヤキュじゃなくて、野球な。


「おーし、じゃあ、ちょっと速めの球投げるからな?」


「おう! どんと来い!」


 ピートのくせに偉そうな事を言う。

 吠え面かかせてやんよ。

 そう思いながら、結構速めの球を投げてみた。


 カキーンっ!


 ピートがホームラン級の当たりを見せる。

 ば、馬鹿な。

 まあ、本気じゃなかったが。

 5%くらいの力しか出していないけど。


「……ラッセル、拾ってこい」


 ちょっとだけイラッとしながら、ラッセルを球拾いに行かせた。


「だから、私はグゥイネスですって……」


 もう良いから、そのネタ飽きた。


 結構な距離の球拾いに行かされたラッセルが、肩ではあはあしているのを尻目に、ボールを受け取る。


「……次はもうちょっと速くしてみるぞ」


 そんなわけで俺はさっきよりも少しだけ力を込めて、ボールを投げる。

 まだまだ本気ではない。

 5.5%くらいの力だろうか。


 カキーンっ!


 再びホームランを打たれた。


 その次もそのまた次も、ピートは面白いように俺の投げる球をホームランにしていく。


「……なんだろう。空振りする気がしない」


 ピートはそんな野球漫画の主人公みたいなセリフを吐いていた。

 何この無駄な才能。

 というか、ピートは意外とイケメンだ。

 もしも、ピートが前の世界に生まれていたら、今頃、超高校級のイケメンスラッガーとして女にモテモテの高校生だったのではなかろうか。

 そう考えると、そこはかとない殺意が湧いた。


「ちょっとマジで本気だすわ」


「おう! なんでも打ち返してやる!」


 ピートがそう言って、バットを構える。

 ちょっと雰囲気が出ていて、イラッとした。


 もうカーブとかスライダーとか変化球投げたいけど、にわか野球ファンの俺は投げ方がわからない。


 とはいえ、俺がさっきから全然本気じゃないと言っているのは、強がった嘘なんかではない。

 筋力ブーストがある俺が本気を出したら、ピートごときが打てるわけないのだ。

 野球にチートを使っても楽しくないと思って、本気は出さなかったのだが。


「どんな球でも止まって見える気がするんだ……!!」


 ピートが完全に調子に乗っているので、俺は仕方なく本気を出すことにした。


 メキメキっと全力でボールを握る。


 筋力145の速球を見よ!!!


 俺は大きく振りかぶって、全力でボールを投げた。


 ドカンっと砲弾が射出されるような音を残して、ボールがピート目掛けて飛んでいく。

 160キロなんて目じゃないほどの速度が出ている気がする。


「うおおおおお!」


 しかし、信じられない事にピートはそんな俺の豪速球にバットを当て――。


「げふうっ!」


 ――たのも束の間、バットは叩き折れ、そのままピートはダンプカーに衝突したように弾き飛ばされた。


 そのまま俺の豪速球は、後ろに建っていたヴァンダレイジジイの家に衝突して、そのまま家を破壊する。


「こりゃああ!! 誰じゃああああああ!!!」


 破壊された家の中から、怒り狂ったヴァンダレイジジイがアンを抱えて飛び出してきた。

 その姿は、漫画などの野球回でお決まりのカミナリオヤジそのもので。

 とりあえず、俺は腹を抱えて笑い転げてみた。

 そしたら、ヴァンダレイジジイに殴られた。

 え、酷くない?




 しばらくして、我が村では野球が大流行した。

 良い大人たちが、目をキラキラさせて少年のように日々野球に明け暮れている。

 暇を持て余すよりよっぽど良いので、良かったのだが。


「おーい、ピート。野球やろうぜ?」


 そんな感じでピートを野球に誘ってみると。


「……絶対にやらない。ヤキュ、怖い。死んじゃう」


 ガタガタ震えたピートは膝を抱えて蹲ってしまう。

 俺の本気の豪速球がよっぽど怖かったらしい。

 そういえば、あの後生死を彷徨ったってカー坊が言っていた(笑)。


 ピートが輝けたかもしれない唯一の才能だったのに。

 まあ、輝くピートなんて誰も見たくないと思うので良かった良かった。

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