第125話 レティーお嬢様の依頼 ④

 数時間後、村の広場に100人の村人が勢揃いしていた。

 老若男女様々で、皆、大荷物を背負っている。


「……この人達を俺んちまで瞬間移動させてもらえないかなーって思うんですけど」


 勢揃いした100人を見渡してみて、かなり無茶な事を言っている気がしてきた。

 空間魔法ってこんな大勢を瞬間移動させられるんだろうか。

 絶対に膨大な魔力を消費しそうだ。


「出来ないことはないですが……」


 できんのかよ!?

 さすが吸血鬼姉妹の長女。


 カレリアさんは小さくため息をつくと、俺を見つめる。


「先程、大体の事情は伺いましたが、アサギリ様がなぜこんな事をなさるのかがいまいちわかりません。確かにこの人間たちは哀れですが、この人間たちだけを救った所で、大本の問題は解決しませんよ?」


 カレリアさんの表情は真剣そのものだった。

 言いたいことは何となく分かる。

 大本の問題とは、フィンデル子爵家の圧政で民が苦しんでいるということだろう。

 フィンデル子爵家ではあちこちで農民反乱が発生しているという。

 恐らく皆似たような原因なのだろう。

 全ての民を救えないと意味はないとカレリアさんは言っているのだ。

 まあ、そうだけど。


「一体、なぜアサギリ様はこの人間たちを救おうとされるのですか?」


 再び、カレリアさんに聞かれてしまった。

 そういえば、さっき村長にも同じような事を聞かれた気がする。

 なんて答えよう。

 まあ、正直に言うけど。


「偽善ですかね」


 見捨てるのは気分が悪かった。

 とはいえ、それを善行と言っちゃうほど俺は若くない。

 要は自己満足だ。


 俺の答えを聞いたカレリアさんは目を丸くしていた。


「……意外と良いお答えですね」


 意外とって……。


「わかりました。ご協力致します。まずは、アサギリ様、以前と同じように私に触れて頂けますか?」


 協力してくれるらしいカレリアさんがそう言うので、俺は迷わずカレリアさんの胸を掴んだ。

 カレリアさんがビクッとする。

 え、だって触っていいって言ったじゃん。

 それにしても、良い胸だ。

 そんなに大きくはないが、良い形をしている。

 釣鐘型と見た。

 プロ? である俺には服越しにもわかるのだ。


「……そういえば、アサギリ様はそういう方でしたね。私の胸なんて触っても楽しくないでしょうに」


「いえ! すっごく楽しいです!」


 カレリアさんが間違った事を言うので、声を大にして叫んでいた。

 なぜだろう。

 周囲の村人やレティーお嬢様たちが引いている。

 とりあえず、カレリアさんの胸をモミモミしてみた。


「…………わ、私はセレナお嬢様やカンナのようにはなりませんよ」


 カレリアさんは無表情でそんな事を言ったが、その頬が赤く染まっているのを見逃さなかった。

 この女もそう遠くない未来にグチョグチョになるであろう。

 俺はそんな予言めいた事を胸中で呟いた。


 カレリアさんの乳に触れた俺の手をレティーお嬢様が握る。

 レティーお嬢様はもう片方の手で、自分の乗っていた馬に触れる。

 レティーお嬢様の馬に不満そうなピートが触れる。

 そうやって、筋肉も、村長も、村人全員もお互いに手でつながり合っていった。


 カレリアさん曰く、こうして皆で繋がっていれば同時に瞬間移動できるらしい。


「……俺、レティーお嬢様と手を繋ぎたかったな」


 ボソッとエロガキ(ピート)がそんな事を言っていたが無視した。


「皆さん、ちゃんと繋がりましたか? それでは、行きますよ!」


 そして、カレリアさんから膨大な魔力が迸った。

 すげえ、魔力……。

 たぶん、MP的には4桁いっていると思う。

 これだから吸血鬼は……。


 カレリアさんから放たれた魔力が、その場の全員を包み込んだ瞬間。

 視界が暗転した。

 そして、一瞬の後、見慣れた光景が目に入ってくる。


 そこは見紛うことなき、我が家の近所だった。


「ひいいい! こ、コウさん!?」


 そんな声を上げたのはミレイだった。

 どうやら本当に帰って来れたらしい。

 突然出現した俺たちに驚いたミレイは地べたで腰を抜かしている。

 ホントこいつタイミングいいよな。




 とりあえず、うちの村の入口付近を避難民の居住地とすることにした。

 そこには広大な荒野が広がっているだけで、空き地と言えば空き地なのだ。

 ルーナが言うには、この辺もれっきとした俺の領地らしい。


 100人の避難民達は皆、不安そうに戸惑っていた。

 突然、瞬間移動で知らない土地に連れてこられたら当然だ。

 まあ、あのままフィンデル子爵領にいるよりはマシなはずだ。


「急に帰ってきたと思ったら、こんなに大勢連れてきて! うう、お前に可愛がってもらう暇もないじゃないか! 2日も我慢してたのに! ばか!」


 涙目のルーナがミレイやメグと協力して、連れてきた皆に食料を配っている。

 悪いな。今夜たっぷり可愛がってやるから。


 新規居住地は、今現在はただの荒野なので、その辺に普通にスライムやウサギがいたので、全部狩っておいた。

 弱いがあいつらも一応モンスターなのだ。

 人が住みだすと、弱いモンスターはだんだん近寄って来なくなるらしい。

 しばらくは、見つける度に即殲滅しようと思う。


 家はなるべく早く土魔法で建てるつもりだが、それまでは野宿してもらう。

 と言っても、もともとの村には20軒くらいの家しか建っていなかった。

 それくらいなら数日で建てられるはずだ。


 後、水は村の井戸を使ってもらおうと思っている。

 一つの井戸だけでは心もとないが、すぐに枯渇すると言うことは無さそうだった。

 そのうち、新たな水源をなんとかしようと思う。


「……コウはすごいですね」


 レティーお嬢様がしみじみと話しかけてきた。


「私は何も出来ませんでした。本当にダメな女です」


 そう言って不幸オーラを全開にして項垂れるレティーお嬢様。

 幸せにしてあげたくなってしまう。


 レティーお嬢様はぱっと顔を上げると、俺に真摯な眼差しを向けた。


「今回の件、心から感謝いたします、アサギリ卿。父にもアサギリ卿のお陰で解決できたとちゃんと報告するつもりです。真相は言えませんが……。きっとフィンデル家として何らかのお礼があると思います」


 レティーお嬢様は俺に深々と頭を下げた。

 フィンデル家からのお礼は別にいらないので、おっぱいを揉ませて欲しい。


「……コウがもう少し早く貴族になっていたら、良かったですね。ご近所ですし、もしかしたら私はコウの元に嫁いでいたかもしれません。……子宝には恵まれなかったでしょうけど」


 レティーお嬢様は冗談めかして笑った後、再びどんよりと落ち込んだ。


「……レティーお嬢様と結婚できるなら、子供なんて要りませんよ」


 思わず本音を漏らす。

 むしろ大歓迎だ。

 つうか、子供とかいらないから。


 レティーお嬢様は感極まったように目を潤ませた。


「……コウ」


 レティーお嬢様が身を寄せてくる。

 今ならイケる!

 俺は直感的にそう悟って、レティーお嬢様を抱き寄せようとして――。

 モブキャラの糞ガキが脳裏に浮かんだので思いとどまった。

 くそ、あの糞ガキ。

 レティーお嬢様に触れるか触れないかの所で、手を彷徨わせる。


「……抱きしめてくれないのですか?」


 不安そうなレティーお嬢様のそのセリフは俺の琴線を刺激しまくった。

 あー、絶対に押し倒せるんだけどなー。

 あー、うー。

 もったいない!

 もったいない!

 俺はかなり迷った。


「……一応、聞きますけどピートの事をどう思ってるんですか?」


 これでレティーお嬢様が、はあ? ピートって誰ですか? ああ、あのモブ野郎ですかとか答えるなら迷わず押し倒そうと思った。

 何よりも優先すべきなのはレティーお嬢様の気持ちなので。


「な、ななな、なんで、突然、ピートが出てくるんですか?」


 しかし、レティーお嬢様は思い切り動揺していた。

 思わず白目を剥いてしまう。


「こ、こんな時に、あの人の名前を出さないで下さい。そ、それは、ピートとは昔から、そ、その……」


 顔を真赤にして照れるレティーお嬢様は、俺から一歩、二歩と遠ざかっていく。

 …………。

 まあ、そんな気はしてたけど。

 はあ。

 マジで、はあ。


「……お幸せに」


 それだけ言い残して、俺はレティーお嬢様の元から立ち去った。


「え? どういうことですか? こ、コウ!?」


 混乱しているレティーお嬢様の声を背中で聞き流しながらとぼとぼと歩く。

 こんな時は、ルーナの乳首を舐め回して自分を慰めよう。

 凹んだ時はアレが一番だ。



 そんな事を考えてとぼとぼしていると、ピートと出会った。


「ああ、コウ丁度よかったって――痛!!」


 問答無用でぶん殴った。

 今のはレティーお嬢様の乳を揉めなかった俺の右手の分。


 そして、これはレティーお嬢様の尻を撫で回せなかった左手の分だ!!

 そう思って、左手を振り上げた時。


「ま、待って! よくわからないけど、待ってくれ! お前に言いたいことがあったんだよ!」


 モブキャラがそんな事を言っている。

 まあ、冥土の土産に聞いてやってもいいが。


「お、俺、あれから一生懸命考えたんだ」


 ピートが切羽詰った表情で言う。

 ふむ。


「く、悔しいけど俺は弱いし、頭もそんなに良くないし、地位も名誉も金もないし……」


 突然、自分を卑下し始めるピート。

 何を言っているんだと思うが、否定する材料がない、というかその通りだったので、うんうん頷いておいた。


「だから、頼む! 俺の代わりにレティーお嬢様を幸せにしてやってくれ! お、お前にならレティーお嬢様を託せる!」


 そう言って、ピートは勢い良く頭を下げた。

 え、何いってんのこいつ。


「……お前、レティーお嬢様に惚れてんじゃないの?」


「ほ、惚れてるさ。惚れてるからこそ、信頼するお前に頼んでるんじゃないか! 頼むよ。あの可哀想な人を幸せにしてやってくれ」


 悲痛な表情で、絞り出すように叫ぶピート。

 俺は、そんなピートを。


「このフニャチン野郎!!!」


 思い切りぶっ飛ばしていた。


「げはっ!」


 あっさりと吹っ飛んでいくピート。

 ああ、やりすぎてしまった。

 ピートが弱者だということを忘れていた。


 ピートはぐったりとしたまま気絶していた。

 うーん、弱い。


「というか、お前、レティーお嬢様の気持ちを考えろよ!」


 とりあえず、そう怒鳴りながらピートをひょいっと抱える。

 もうこうなったら、気絶したピートを操ってレティーお嬢様を押し倒そう。

 結果的にピートとレティーお嬢様が結ばれることには変わりない。


 ピートを抱えながら、レティーお嬢様の姿を探した。

 あれ、どこにもいない。


「レティシアなら、つい今しがた帰ったぞ? お前によろしくって言ってた」


 ルーナがそんな衝撃の事実を告げた。

 まじで……。

 ピートがふにゃっている間にレティーお嬢様帰っちゃったの?

 あー、もうマジでこいつ救えないわ。

 とりあえず、気絶したピートをその辺にポイする。

 なんかどっと疲れた。

 疲労耐性持ちの俺が疲れるとか……。


「……もう食料は配り終えたのか?」


 とりあえず、ルーナに聞いてみる。


「うん! 全員に配ったぞ。なあ、ほめてほめて」


 ルーナは嬉しそうに甘えてきた。

 可愛い奴め。

 ルーナの頭をなでてやるとルーナは嬉しそうに微笑んだ。

 そのまま抱きついてくる。


「なあなあ、ここ数日、ホントに寂しかったんだ。……ちゅーしてほしいな?」


 ルーナは可愛らしく唇を寄せてくる。

 当然のようにその唇に吸い付いた。


 ルーナの甘い唇を舐め回しながら。

 俺はピートのことなんて次第にどうでも良くなっていった。


 もう二度とあんなやつ心配してやらないんだかんねっ!

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