第5話
「一ノ瀬、健。明日だからな」
「悪い、俺は少し遅れる」
「一ノ瀬、何かあるのか?」
「呼び出されたんだ」
「誰に」
「分からない、手紙が、机の中に入ってた」
いつの間にか、一ノ瀬の机の中に、ピンク色の折りたたまれた紙が置かれていた。
そこには、今度の日曜、公園の木の下で待っているとのことだった。
「お、デートか?」
「そんなんじゃないよ。わからない」
「一ノ瀬、モテるからな。いいさ、終わってから来いよな」
「そんなんじゃないって」
だけど、実際一ノ瀬の心は踊っていた。いつも蜷川達とばかりいっしょにいたから、女の子とはほとんど縁がなかったからだ。
これがもし、告白だったらと、そんなことを考えていた。
◇
そして次の日の日曜日、蜷川と、健はじっちゃんの家に来ていた。その敷地は広く、手前の広い庭に、その物置庫はあった。
そこには、木材があちらこちらに散乱し、羽の骨組みと思われるパーツが一部組みあがっているだけの状態だった。
「まだ、これだけ?」
健のその意見はもっともだった。それは空を飛ぶことはおろか、飛行機と呼ぶにはまだほど遠いものだったからだ。
「これから組み上げるのさ。組みだしたら早いと思う。だけど、胴体部分がまだ決まって無くてな」
「健、羽の向きを変えたい、そっちを持ってくれないか」
そして、2人が羽を持ち上げようとした時だった。一ノ瀬が遅れて到着したのだった。
「それで、どうだった?」
「告白、された」
その言葉に、蜷川も健もきょとんとなった。当の一ノ瀬本人はもはや放心状態で、まるで目が泳いでいるようだった。
「マジか!やったじゃん」
蜷川はやはり、一ノ瀬の背中をバンと叩くと、彼をたたえ、笑顔を向けてくる。当の一ノ瀬はいまだうわの空で、まるで何を考えているのかわからなかった。
「一ノ瀬、緊張しいだからな、彼女をちゃんとリードするんだぞ」
「うらやましいな、俺も彼女ほしいよ」
健は物欲しそうな表情で、そう話すのだった。健にも蜷川にも彼女はその当時いなかった。つまりは一ノ瀬が彼女を持った第一号となるわけだ。
「それで、今度の日曜、デートするって約束しちゃった」
そして、蜷川と、健は、一ノ瀬ののろけ話を聞かされることになる。
「だけど、おかしいんだ、彼女と一言も話したことないんだ」
「どこかで関わってるんじゃないのか?」
「分からない」
「あらいらっしゃい」
「ばっちゃん」
そののろけ話の途中に現れたのは、蜷川のおばあさんだった。おばあさんは、お茶とお菓子を持ってきてくれ、皆に挨拶をした。
「どうしょうもない子だけど、よろしくね」
蜷川は、うるさいという表情を作り、手を振るうけど、実際のところ、そんなに嫌そうな表情はしていなかった。
「また、この子の馬鹿に付き合って、ごめんなさいね」
「馬鹿ってなんだよ」
そんな2人の姿を見ているとほんとに仲がいいんだなと思える。そして、一ノ瀬と健は笑顔で挨拶を返すのだった。
「仲がいいんだな」
「俺はおばあちゃん子だからな」
結局その日は作業ははかどらず、一ノ瀬ののろけ話に花を咲かせるのだった。
あの日見た夢 ユウ @yuu_x001
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