第4話
「ちょっとした計画があってな。今じっちゃんの家で進めてる」
「どんな?」
「じっちゃんの家、広い物置小屋見たなところがあってな。そこで進めてるんだ」
「何を進めてるの?」
「俺は空を飛びたい」
一ノ瀬と健は愕然とした、それは誰もが夢見ること、だけど、成功する人なんてほとんどいないだろう。
だけど、蜷川の目は本気だった。その目は輝き、まるで他の物が目に入らないかのように、まっすぐに見つめられていた。
一ノ瀬は知っていた、蜷川が設計士を目指していたことを。
「材料はじっちゃんの家のあまりものの木材で作ってる」
「それ成功するのか?」
「今羽の部分を作ってたんだけど、風船見て思ったんだ。羽の揚力と風船と組み合わせたらどうだろうって思って」
「無理だな、風船は小さいし、何より、空気抵抗とか何かの関係でうまくいかないんじゃないか?」
「そうだよな……」
蜷川が明らかに肩を落とすのが分かった。蜷川の中では、いいアイデアだと思っていたのかもしれない。
もしかしたら、あの大空も近くなると。
「羽につけるのはわからないけど、前後につけるのはどうだろう」
「どうだろうな、なんとも言えないな……」
「こんな発想どうだ、風船に羽をつける」
「お前は窒素の中に入るのか?」
「そうだよな……」
「まぁなんだ、怪我しないようにな」
「なんだよ、お前らも手伝ってくれるんじゃないのか?だから話したんだ」
その言葉に一ノ瀬と、健は顔を見合わせた。確かに面白そうではあった。もし空を飛ぶことができたら、この大空を自由に飛び回ることができたら。
「そうだな、一度やってみるのも面白いかもしれないな」
「決まりだな」
3人は手をクロスさせ、一つの目標を誓い合った。
◇
「蜷川、飛行機のほうはどうだ」
一ノ瀬たちはその日も学校で、放課後ともなると、飛行機の話に没頭した。
「あまり思わしくないな。今度の日曜日、見てくれないか」
「あいつ気持ち悪いよね」
そんな一ノ瀬たちの耳に、女子が何かヒソヒソと話しているのが耳に届く。
その対処が誰かはすぐにわかった、それはクラスメイトの佐藤に向けられていた。
佐藤は生まれつき手が不自由で、それが理由かわからないけど、話し方もどこかしらぎこちなかった。
蜷川は佐藤の元に寄ると、佐藤の背中をバシっと叩く。
「佐藤、気にするな。お前がいい奴だってことは俺が一番よく知っている」
蜷川は、女子にも聞こえる大声でそう話す。一ノ瀬は蜷川のそんな行動はまねできないと思い、同時にさすがだと思うのだった。
「佐藤、元気出せ!俺はお前の見方だ!」
佐藤は少しきょとんとしていたけど、すぐに笑顔を取り戻し、口を開く。
「僕は平気だよ。ありがとう」
そして、蜷川は佐藤と何か話すと、こちらへ戻ってくるのだった。
「俺は、佐藤をほっとけないんだ。一ノ瀬は知ってるだろ。俺の親父、パイロットしてるんだけど、怪我してな、いま家で療養してるって」
「あぁ、知ってる。だから蜷川も憧れるんだろ、あの空に」
一ノ瀬は何気なく空を見上げた。
「だから、俺はやりたいことができないやつの気持ちがよくわかる」
「俺も同じ気持ちだ」
そして、一ノ瀬と蜷川は笑顔を交わすのだった。
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