アクセルミュージックは鳴り響く
目の前にある、手術中の赤いランプは未だ消えることなく灯りつづけている。
雄一郎に対する世間の評判は良くはない。どちらかと言えば悪い方です。だってそれはそうでしょう? なんてたって地元の暴走族に入っているのだから。今回の件も雄一郎が暴走族に入っていたから招いた結果とも言えます。そうでなければ、雄一郎はこんな状態にはならなかったし、藤代美代ちゃんもこんな酷い目には合わずにすんだはずです。とにかく、俺はすぐに藤代夫妻に謝りました。地に頭と膝をつけてです。腰が悪いお袋に土下座をさせる気にはなれなかった。親父が不在となったこの世で、謝るのは本当の長男であるこの俺の役目だからです。俺は、どんな罵声を浴びせられようとも殴られようとも、地に頭と膝が根を張る覚悟で謝り続けるつもりでした。それは藤代夫妻にとって、一人娘である美代ちゃんは何よりも変え難い宝物であると俺には充分に分かっていたからです。ですが、藤代夫妻の開口一番の一言に俺は心を救われました。
「お兄さん、どうか面を上げて。あなたの弟さんが、私達の娘を守り抜いてくださいました。島さん、どうかお顔をお上げになってください。私の娘はあなたの御子息のおかげで無事なのです。確かに良い噂は聞きませんが、立派な御子息様じゃないですか。勇猛果敢な日本男児ではありませんか」
「ですが……愚弟とお付き合いさえしていなければ、美代さんは!」
「お兄さん。雄一郎さんは娘の美代が惚れた立派なお方です。私は大切な娘が惚れた雄一郎さんを信じていましたし、それは家内も同じ思いでした。そして、雄一郎さんは命を賭して娘を守ってくださいました。あなた方も危篤に陥っている雄一郎さんを意の一番に心配しているはずなのに、こんな私共に謝って下さって……。むしろ謝るのは私達の方です。感謝してもしきれません。雄一郎さんは誠に立派なお方です。立派な日本男児です。どうか誇りに思ってください。だからどうか、私達にも祈らせてください」
誠心誠意に謝った所、逆に誠心誠意の謝罪とお礼を言われてしまいました。良かったなぁ、雄一郎。お前挨拶はすませているのか? 必ず生きて帰って来い。帰ってきたら結婚するといい。そうすれば
俺がそんな事ばかりを考えていると、目の前の赤いランプが消えて疲れ切った表情をしたお医者さんが出てきました。皆、固唾を飲んでお医者さんの言葉を待ちました。
『最善の手は全て尽くしました。助かる可能性は五分五分だと思ってください。ですが、先程も言ったとおり例え意識が戻っても何らかの後遺症は残る恐れがあります。このまま昏睡状態が続くことも……とにかく、今夜が山です』
――なぁ、雄一郎。お前必ず戻って来いよ。お袋が泣き崩れてるじゃねーか。お前は将来、島家を背負って立つ男なんだぞ。俺は島家の長男じゃないだろう? 俺は島家の血は引いていないだろう? 確かに親父はいい人だったよ。血の繋がっていない俺に本当に優しくて実の息子の様に接してくれた。でもよ、俺は本当は
なぁ、本当の親父殿。俺はどうしたらいいと思いますか? 力をください、勇気をください。俺に中園家長男たる覚悟をお与えください。そしてどうか、雄一郎をお救い下さい。島の親父殿、賢一郎はどうすれば良いのですか? どうか俺に力をください。どうか俺に前に進む勇気をお与えください。島家の長男と名乗ってもいい愛をお与え下さい。
ああ、俺は一体何を言っているんだ? 二人からはとっくの昔に、俺に愛を与えてくださっていたではありませんか。二人からは沢山沢山、本当に沢山の愛を俺は受け取っていましたね。見て見ぬ振りをして、気付いても気付かぬ素振りをして、知らぬ存じぬを貫き通してまいりました。情けない話です。見るに耐え難い姿です。俺はずっと逃げていたのです。
俺は中園賢一郎であり、島賢一郎でもる。そして、島雄一郎の兄である。その事実は例え何があろうとも変える事はできない。長男たるもの、謝る事が全てではない。長男たるもの、祈る事が全てではない。やるべき事が、やらなければ為らない事が長男には沢山とある。それが本当の長男たるものだ。――申し訳ない親父殿達。どうやら、ずっと現実から目を離していた様です。
(長男という現実から逃げて、仕事もせず俺は今まで何をしてきた? 何を残してきた? 弟と妹達に何か残してこれたのか? 何も残してはいないだろう? 親父のいないあいつ達に道を作る後ろ姿を見せるのが俺の役目だろう? それこそが長男が果たさなければいけない責務ではなかろうか!)
そうです。俺はもう逃げません。二人の親父殿、どうか賢一郎の健やかな成長した姿と立派な長男根性、しかと其の魂の眼に焼き付けてくださいませ。
「お袋ちょっと後は頼む。なに、すぐ戻るよ」
「戻るって、あんた何処に――」
「いいから。お袋は赤飯でも炊いて待っててくれ。俺は蕎麦でも打ってくるからさ」
「蕎麦でもってあんた……」
「“蕎麦屋中園”はまだ終わっちゃいねーし、島家も終わっちゃいねーさ。雄一郎は必ず生きて戻る。俺には分かるんだよ。二人の親父がそう教えてくれた……そんな気がするんだ」
「何を言って……あんたまだ昔の事気にしているのかい?」
「もう気にしてないさ。なぁお袋、俺は長男だろう?
「あんた……。はよ戻りや? 赤飯炊いて、待っとるさかいな」
「おう。俺もさ、美味い蕎麦すぐ持ってきてやるからな。待っといてくれよ」
待ってろよ雄一郎。賢兄がすぐ美味い蕎麦作ってきてやるからな。涎垂らしながら待ってやがれ。そういやもう一度聞くけど、お前挨拶はすませたのか? 起きたらちゃんと挨拶しとけよ。それでそのまま結婚しちまえ。俺の予想だとお前な、絶対に結婚できるぞ。もう相手の親公認みたいなものだ。それからお袋は俺に任せとけ。俺が最後まで面倒見るからよ。それに俺は蕎麦屋の倅だ。それも最高に巧い蕎麦屋の倅だ。だからきっと金の工面には困らないさ。お前は行けよ、行くんだろう? インターハイにさ。友達は任せとけ。賢兄が必ず守ってやる。だから安心して行って来い、雄一郎。お前のミュージックホーン爆音鳴らせて行って来い。全国に
――はて、どうしますか。槙島の野郎、轢けと言いよったがそれは痛いし困るなぁ。それに殺すと心の中で言ったものの、どうやればいいのやら。俺、喧嘩とかしたことねーし、そもそもノースゼロは走るのがメインだから武闘派チームではない。突出して武闘派なのが石上さんなだけで、他はからきしだ。……考えるんだ。考えろ、頭をフル回転させろ、俺は日本一のポイントガード(過去の話)の山岸洋介だぞ!
「槙島、轢き殺せって車ねーぞ。単車で轢いたら俺等も怪我するじゃねーか」
「ああ? グダグダ言ってんじゃねーぞ
「ったくよぉ、分かってるつーの。こいつで殺ればいいじゃねーか。昨日のガキみたいによ」
相手は五人。二人が単車に跨りケツに乗ってる奴が右手に金属バットを握りしめた。
「こいつやる気か? 昨日の奴といい、ゼロのガキ共は恐れをしらねーな。お前等に恨みはねーけどよ、俺も槙島も“石上”の野郎だけは許す訳にはいかねーからよ。悪く思うなや」
悪く思うなら何故島に手を出した。自分達がやっている事が間違ってるってこいつら分かってるじゃないか。なのに何故……よりによって女連れの島を狙って……。許さない、俺は絶対にお前達を許さない! 躱すのは止めだ。真正面から迎え討ってやる。こいつ等全員殺してやる! 相変わらずどう殺ればいいかは分からないけれども、とにかくぶっ殺す! ぶち殺してやる!
その時である。聞き慣れたエンジンの排気音が鳴り響いた。俺がよく知っている音だ。モリワキ管……島のGPZの音だ。さらに六連ミュージックホーンが近くでこだました。
「なんだこのホーン……時代遅れにも程があるだろ。ゼロの奴らか?」
その瞬間、ミュージックエアーホーンを上回る排気音が辺りの空間を包んだ。スロットルを回しただけの単調だった音は、アクセルを吹かし、クラッチで音階を変え、さらにギアチェンジでその音域を広げていく。段々と色付いていく音はやがて一つのメロディとなる。アクセルミュージックだ。それも凄く巧いアクセルミュージックだ。確かに島のGPZの音だが、これは島ではない。一体誰だ?
「これって……GPZだろ、モリワキつけてる。しかもこんな巧いアクセルミュージック出来るのって京都じゃ一人しかいねーぞ」
「おいおい。まさか、“
「いやでもよ、それしかありえねーだろ! 俺、中坊の頃聞いた時あるし!」
「どうするよ槙島。この感じ、明らかにこっち向かって来てるぜ」
「クソがッ!
そんな事を考えていると、件のGPZが俺の目の前に止まった。ああ、やっぱり島じゃなかった。そりゃそうか、あいつは今病院なのだから。
「大丈夫か!? 山岸君!」
「島のお兄さん……ええっと」
「賢一郎だ。無事で良かった」
「ありがとうございます、助かりました。どうしてここに……」
「虫の知らせってやつさ。何となくだけど君がここにいるって分かってね」
「はぁ……そうなのですか」
(なんだそれ? それに島の兄さん、どことなく口調が変わってないか?)
「他の皆は無事か? すぐに連絡を取って集まった方がいい。奴等も早々には手を出せまい。もう警察も動いている。こんな事件を起こしているんだからね。友達の身内の事は安心してくれたまえ。嘗ての友人にも事を頼んである」
「……島のお兄さんって“瘋癲のケン”さんだったんですね。しらなかったです」
「よしてくれ。もう八年以上も昔の話だ。今は何もしていない、しがない男だよ。駄目な大人さ。こんな大人にはなるんじゃないぞ? 所で奴等、君に何か言い残してはいないかい? 恐らく次が最後だろうからね」
「何かですか……ああ確か、石上さんに大比叡で待つとか」
「“大比叡”か……」
「知っているんですか? それって比叡山のことですか?」
「そうさ。君達若い子は知らないかもしれないが、大比叡は昔から京都の暴走族の抗争場所で有名だ。周りは山だし、通報される心配はないからね。……過去に抗争で亡くなった人もいる。暴走族の墓場みたいなものだよ」
「じゃあ、槙島は……そこで石上さんを……」
「だろうね。一世会の槙島って子の噂は俺の耳にも届いている。勿論、ゼロの石上君もね。いいかい、山岸君。俺は今回の抗争を止めたいと思っている。弟が巻き込まれたっていうのもあるが、それ以上に俺はもう誰にも死んで欲しくないんだ。……嘗て、俺の大切な友人は大比叡で亡くなった。“あいつ”はまだ十七才だったよ。当時の俺は止められなかった。止められなかったんだ。でも今度は止めたいんだよ。もう誰にも死んで欲しくはない。弟も君達にも、ゼロの人間も一世会の人間にもね。手伝ってくれるかい?」
「もちろんです。こんな俺にできる事ならば何だって」
「はは、君は澄んだ良い目をしているな。さすが雄一郎の友だ」
「俺、目だけは良いんですよ。マサイ族より良い自信がありますから。それで、俺は一体何をすればいいですか?」
「先ずは皆に連絡を。その後は、大比叡に向かうであろう石上君を止めないとね。……それから君達の中で一番速い子はいないかな? 何かと速い子がいい。“こいつ”を託したいんだ。今夜限りだけどね」
俺はすぐに皆に連絡を入れた後、一度ケンさんに家まで送って貰い自分の足を取りにいった。愛車のベスパ50Sだ。そして、待ち合わせはいつもの洛北駅である。待っている間、俺は賢さんが言った言葉を反芻していた。“こいつ”ってGPZのことだよな? 一番速い子ってどーいう意味だ。でも速いって言ったら、あいつしかいねーよなぁ。
「……山岸君。君の友達は時間にルーズだな。すぐに向かうと言いながら誰も来ないではないか」
「そうなんですよ。あいつ等いつも遅れてくるんです。それもどんな時だってお構いなしにですよ? だから俺わざと遅れて行くんですよね。所詮、自分が早く行った所で誰も時間通りには来ないだろうって計算してるんですよね」
「成程。君は賢いな」
「そんなこと言われたの初めてです。俺って賢かったのか」
「そんな事よりだ、山岸君。俺は急いで病院に戻らないと行けない。急に飛び出して来たものだから、家族が心配している。何回も言う様で悪いが、先程言った通りこの単車を君達の中で一番速い子に託したい。なに、安心してくれたまえ。俺は全力で君達をバックアップするさ」
「あ、はい。ありがとうです。でも病院まで戻るって結構距離ありますよ? 単車もなしで……」
「舐めて貰っては困る。いくら引退したとはいえ、俺は“瘋癲のケン”と呼ばれた男だ。例え徒歩であろうとも風よりも速いのさ。……直に陽が暮れるな。いいかい? 今宵の主役は君達だ。今度こそ止めてくれ。俺の願いをこのGPZと共に託す。君達なら必ずやり遂げれるはずだ。君達のアクセルミュージックとミュージックホーンを大比叡の山々に鳴り響かせてくるんだ。――嘗てアメリカの牧師が言った様に、自由の鐘を鳴り響かせてくるんだ。“俺達はここにいると”」
――そう言い残して、ケンさんは洛北駅を後にした。今までケンさんとはほとんど喋った事は無かったが、今日一つだけ分かったことがある。かなり変わった人である。偶に以上によく分からない事を言う人だ。それでも、あの伝説と謳われた“瘋癲のケン”さんであることは間違いない。『鴨の瘋癲』。昔、暴走族全盛期とも言える時代に他府県にも名を轟かせたチームである。“瘋癲のケン”はその特攻隊長で有名であった。特にアクセルミュージックは全国一とも謂われる程に巧かったらしい。そんな伝説上の人が島の兄さんだったって言うから俺は驚きである。あいつはそんなこと一言も教えてくれなかった。言えよ、と俺は思う。普通自慢するだろう、と俺は思う。まぁどうでもいいか。きっと言いたくない事情が島にはあったんだろう。
しかし、“俺達はここにいる”か。いい言葉ではないか。まるでこれからの俺達に当てはまるピッタリの言葉ではないか。おおっと、ようやく皆来たな。遅刻だぞ、遅刻。本当にお前達は仕方がない奴だな。遅刻は厳禁なんだぞ。
「マジかよ……このGPZってあのGPZだったのかよ……伝説のGPZじゃねぇか! そしてこの俺に乗れってか、洋介!?」
「うん。一番速いって言えば翔しかいないだろ?」
「確かに。手を出すの早いしな」
「そして真っ先に殴られてるし」
「おまけに早漏」
「お前等ぶっ飛ばすぞ、マジで。ってかミネ! 早漏じゃねーから!」
「しかし、島の兄貴があの瘋癲のケンだったとはな。驚いた」
「家の前にイカツイ車止まっててよ、姉貴の知り合いで聞いたら元瘋癲だって言うもんだからなぁ……そーいやあいつ、小学校四年ぐらいの時転校してきてたわ」
「とにかくよ、行くんだろ洋介。『大比叡』によ」
「うん、行こう。石上さんを止めないと。あと……槙島の奴も」
「だから俺は早漏じゃねーぞ。おい、聞けよお前ら。って翔太君、今日は俺の後ろかい? 君は好きだねー俺のことが」
「山道だしな。125ccじゃついていけねーだろ。今日はお前が斬り込み隊長だ」
「事故んなよ、翔。ケツは俺が持つ。明と翔が先頭で行こう」
「ミネがGS乗ってるの久しぶりに見るな。頼むわ。んで、洋介は……」
「俺、ベスパで行くよ」
「いやいや、お前の50ccじゃねーか。止めとけ、ついてこれねーよ」
「いやいやいや、ボアップされてるから。実は120ccくらいだから」
「フォアについてこれんのかよ」
「俺のベスパはフォアより速いって言ってんだろ」
「アホ抜かせ」
「明こそアホ抜かせ。俺は翔に次いで速いぞ」
「……。そーゆう所頑固だよな、お前。遅かったら置いて行くからな」
「とにかく行くぞお前達! 俺について来い!」
「偉そうにすんな馬鹿」
「分かってるよな、お前等。これで最後だぞ。バイクに乗るのも、この世界に関わるのも、今宵限りで終了だ」
「おう。今宵限りだ。終止符を打とうぜ」
「うん。とにかく、君達も遅れんなよー? 俺のベスパは速いぜ?」
『お前が多分一番遅いから!』
俺達は走り出す。一気にクラッチ切って二速発進だ。目指すは場所は『大比叡』。その山頂に一世会はいる。ノースゼロもそこに向かうはずだ。俺達が止めるんだ。止めなければいけないんだ。芽出度い卒業前に誰も死なせはしない、俺は止めて見せる! 何故ならば俺は宇宙一のポイントガード(さらに先の予定)となる男なのだから!
――高回転にスロットルを回す。2ストエンジンのベスパが甲高くマフラーから音を出した。もう包まれる事はないと思っていたはずのカストロールオイルの匂いがした。“今宵限りだ”。もうこれで終わりにする。この音とはこの夜でピリオドを打つ。さぁ、行くぞ。フルスロットルで行くぞ。
「――久しぶりだな、二人で乗るなんてよ」
「こけんなよ“カジ”?」
「じゃあ、安全運転で行くか?」
「ばぁーか。最速だよ、最速。俺達ノースゼロなんだぜ。走りじゃ全国一だ」
「……だな。初めて単車乗った時の事覚えてるか? 中一の時、鍵付きの単車見つけてよ」
「二人で乗って、あん時もこんな感じだったな。でもって」
「単車の持ち主がノースゼロ十一代目の
「二人仲良く死ぬほど殴られ、何故かゼロ入りしたなぁ」
「はは、懐かしいな。もう何年前だ? 憧れたよな……創さん達によぉ」
「ああ……」
「なぁ、幸平。俺はなれたか? 憧れだった創さん達の十一代目を超えれたかな?」
「お前が率いた十二代目はよ、俺の中でノースゼロ最高の代だったと確信しているぜ?」
「そっか。ありがとよ。なぁ幸平……俺さ、実はよ」
「それ以上は言うな。とにかく行こうぜ、カジよぉ。全部終わりにしようや。今日で全部終わりによ」
「……そうだな。久しぶりにコールでも鳴らして行くか?」
「おお、いいねぇ。本気でやったのって十七ぐらいじゃねーか?」
「もう忘れたわ。とにかく行こうぜ、幸平。ゼロのアクセルミュージック響かせてやんよ」
――これは後になって聞いた話だ。私が聞いた話では其の日、京都府と滋賀県の境に位置する比叡山付近では確かに爆音が鳴り響いていたと言う。後に知り合った彼等に詳しい知人の話ではあるが、私が中学卒業を間近に迎えていた頃に、『彼等』はその場所に向かっていたとされる。そしてこの話は恐らく事実であろう。
私はこの話を聞いた瞬間、実に『彼等』らしいと思えた。そして私は想像してしまう。彼等が心を躍らせながらバイクに乗っている姿を。眼をギラギラと輝かせながらもどかしい思いを抱いて走る様を。その様を音にゆだねるしかない等身大の心の叫びを。
そして私は思い出す。それらの苦難を乗り越えて来たからこそ、私の目の前に『彼等』が再び現れた時の事を。そして私は微笑みながら想像してしまう。彼等の不器用なアクセルミュージックの音を。
私こと、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます