一口話 君達の小さなプライドを守る為に、私は溜め息を増やすのです。


 別に見るつもりじゃなかったんだけれど、偶然その人の秘密を知ってしまうという経験は、何とも言えないものがありますね。「となりのトトロ」を観ようと、いつも出てくるゲーマーの方の弟ではなく、まだ歳が近い方の弟の部屋のDVDデッキを借りたら、ウィーンってディスクを入れる部分から、18禁のエロDVDが吐き出されてきた時とか。


 何か観たいのあったら観ていいよって、DVDデッキを買った頃に、彼から言われていまして、じゃあお言葉に甘えてと、何だか久々にトトロが見たくなったので、トトロ観ようかなって、結構うきうきな気分で、仕度しようとしてた所だったんですけれど。


 でも当時の彼は、まだ十七歳の、高校二年生。年齢制限に引っ掛かってしまいます。私は迷いました。まだ十七歳だからそういうのは見ちゃ駄目だよと、その時は外に遊びに行っていて不在だった彼に、帰宅して来たら注意をするべきなのか否か。姉としては……というか、私個人としては注意したい。立場以前に、ルールはルールですからね。

 黙って取り上げるのは流石に酷いでしょうし、一言言ってから押収するか……。いや、もうそんな小さい頃の話じゃあるまいし、取り上げるまでしなくても言えば聞いてくれるか。男の子の割に穏やかなんです彼。単に無口なだけなのかもしれないのですが、乱暴な言動は絶対に取りません。イラついてる時にストレス発散を目的とされたアクションゲームをしている際の私の方が、よっぽど乱暴な言葉遣いになってます(※例「挽き肉にしてやるよ!!」「ええ度胸やなあ!!」)。


 だから多分、やんわりと言うだけでも聞いてくれると思うんです。当時十九歳、大学一年生だった私も、DVDデッキの前で膝立ちの姿勢のまま思いました。「……あー……」と、何とも言えない声も漏らしたと思います。「これは厄介なヤマに出くわしちまったぜ……」とも、思いました。びっくりし過ぎて最初にそのディスクを見た瞬間、息止まりましたからね。彼そんなスケベ野郎なキャラじゃないものですから、完全に予想外でびっくりして。まあ男の子ですもんね。


 この記憶は同時に、バイト先のコンビニで、本棚の商品整理をしていた際、どうしてもある一冊だけが見つからなくて三十分ぐらい棚を探し回った事を思い出させます。何でかそんな時に限って見つからないのがエロ本でして、あのせっまい成人済コーナーだけをひたすら三十分近く探し回るっていう、めちゃくちゃ恥ずかしい思いをした記憶が。何で私があんな事。まあその時のシフトが、大学生が私だけしかいなかったもんで、他の人は皆高校生だから頼めないじゃないですか年齢的に。だから事務作業で手が離せない副店長も、「木元さん悪いけれど……」って、申し訳無さそうに頼んでくるっていう。はあ。もう顔真っ赤になってるの鏡見なくても分かるぐらいでしたからね本当。勘弁して欲しいです。皆さん立ち読みはいいですけれど、ちゃんと元の場所に戻して下さいね? あと商品なんですから、丁寧に扱って下さい。


 とかまあ色々思い出しますが、内緒にしておいてあげました。トトロはその日はパスにして、何も見てなかった事にして、そっとDVDの取り出し口を、ウィーンと再び本体に飲ませ、自分の部屋に戻りました。でも年齢制限に引っ掛かってるからそれは言うべきなのでは……。と、かなーりもやもやしながら。まあ今頃言ってももう遅いですけれど。お互い成人してますし。何も知らない振りをしておいてやるさ。

 なぁーんでこう詰めが甘いんですかねえ男の人って。何であの程度のカモフラで、隠せてると思ってるんだか。知らない振りしておいてあげてますけれど、父もエロ小説持ってるし。はあ。見られたないんやったら、ちゃんと隠してえな。掃除とか探し物してる時に偶然、見えてまうねん。部屋に入られたくないなら借りた物や持って行った物は、用が済んだら持ち主にすぐ返すか、元の場所に戻して下さい。もう。


 あーすっきりした。もうずっと気になってたんですよやっぱりあの時注意すればよかったって。真面目過ぎってまた言われそうですが。ルールはルールでしょうが守りなさいよ。――大体そうやってお前はいっつも言われた通りにやらんと適当に


 やめます。


 時効ですよ時効。


 今日も一日頑張りましょう。



 では今回は、この辺で。


 

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