第6話 ツンデレさん

『お兄ちゃーん、もう行くからねー!!』


一階から妹の声が聞こえる。

土曜日だと勘違いしていた俺は、いつもより三十分遅く起きてしまいちょっとはピンチだったりするのだが元々の動きが鈍いのでそもそも目覚ましは大分早めに設定していたため、割と余裕があった。いつもよりは遅くても、遅刻の危険はないのである。


今日は金曜日、テスト期間最終日で週末が明けたらテスト本番だ。

しかし実を言うとあまり焦っていない。

苦手教科はイケメン店員さんのおかげで割と解けるようになったからだ。

昨日貰ったメモを何回か見直しつつやり直しをしていたらなんとか間違えないようになった。イケメンパワー強い。今日も行くつもりだが、お礼を言えるだろうか?メモじゃなくて、ちゃんと言葉で。


<続いて○○地方のお天気です、朝は雲一つない晴天になるでしょう。しかしお昼頃になると強い雨が降りそうです。>


色々考えていた俺はうっかり、天気予報を聞き逃してしまった。

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けだるい授業を終えて、カフェを目指す。


今日はあまりいい日とは言えなかった。

行きはカラスに集られたし、学校では異様に壁と激突したからだ。

見てなかったけど多分今日の星座占いは最下位だっただろうな。

イケメン店員さんをみて存分に癒されよう。


カフェ【コネクト】にたどり着くと、お客さんもイケメン店員さんもいなかった。

入って早々周りを見渡す俺をみて店長さんがクスクス笑いながら

『今開店したばかりで、ヤマトはまだ学校だよ』と言った。


(店員さん、やまと君っていうのか)

ちょっと恥ずかしくなりながら定位置となりつつある席に腰掛ける。

確かにいつも来る時間よりは大分早い、機嫌があまり良くなかったから自然と早足になってたのかもな。

なぜだか勉強をする気にはなれず、紅茶だけを注文してスマホを取り出した。

現代っ子らしくSNSを開いてタイムラインをみる。


友達は少ないが、部活で作った料理を載せたりしているのでフォロワーはちょっといる俺。テスト期間である今は休部しているが一応料理研究部に入っている。

部員は3年と2年の先輩が二人ずつで1年は俺だけ、活動は月火水のみとこじんまりとした部だが料理が好きなので割と楽しくやっている。


そういえば土日が明けてテストが終わればここに来ることは減るなと考えていると店長さんが紅茶と、なぜかケーキを運んできた。

『ケーキ頼んでないですよ?』

『これ新メニュー候補なんだよね、試食お願いしたいんだ。アレルギーとかあったらやめておくけど、いいかな?』

『全然!ぜひ、頂きます!』

新メニュー候補だというケーキは簡単に言えばガトーショコラのような感じだった。

口の中でチョコがとろけるといったありがちなコメントしか出せないがとにかく美味しくて俺の語彙力では言い表せなかった。


精一杯褒めながら食べ終わると、目の前の席に座っていた店長さんが話しかけてきた

『改めまして、コネクトの店長をしている犬持いぬもち英二えいじです。いつも来てくれてありがとう、サトウ君だったよね?ごめんね、教科書に書いてあったの見ちゃったんだ』

『大丈夫です!佐藤悠馬です、すいませんいつも長居しちゃって』

『全然、むしろ大歓迎だよー、今日は勉強しないの?』

『はい、今日はちょっとやる気が出なくて』

と言いながら少し苦笑い。あんまり関わりのない人に何言ってんだ俺。

『そっか、じゃあおじさんとお話ししない?お客さんいなくて暇なんだよねー』

『あ、ぜひ!』

少ししか話したことなかったけど、なんかのほほんとした人だな。


『佐藤君は高校1年生なんだ、ヤマトと同じ歳だな。』

世間話をしていると、店長さん改め犬持さんがそう切り出した。

『やまと君って、店員さんのことですよね?』

『そうそう、犬持大和、大きな平和でやまとね。僕の甥っ子なんだー可愛いでしょ』

そう言いながらスマホを開いて写真をみせてくる犬持さん

甥っ子だったんだ、普通のバイトかと思ってた。

『可愛いかはちょっと分からないですけど、カッコいいですよね』

『だよねーちょっとツンデレさんなんだけどね、』なんて犬持さんがのほほんとした返しをすると噂をすればなんとやら、話題に上がっていた大和君が入ってきた。

『おじさん、サボり?』

『違うよー、お客さんが佐藤君しかいなかったから相手してもらってたの』

『ふーん』

『でもそろそろ戻ろうかなー、ありがとね佐藤君』

そう言って犬持さんは『あ、はい!』といった俺の返事も聞こえたのか分からないくらいそそくさと奥へ向かってしまった。

取り残される俺と大和君、お礼を言うなら今かな。

『あの、』

『何?』

『この間はありがとうございました、メモ。凄く助かりました。』

(お礼言えた!)


『別に。』


それだけ言って、大和君も奥へと引っ込んでしまった。

お礼言えたし、ちょっとそっけなかったけどお返事も貰ったし、さっきは最下位なんて言ったけどやっぱり今日は1位だったかもしれない。


あ、そうだ。

犬持さんが言った通りちょっと、


『ツンデレさん、なのかな』


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『どうしたの?大和、なんか嬉しそう』


『ん?』


『別に』


奥でそんな会話がされていたことを、俺は知らない

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