第3話 既視感

             叔父さん

            

               (今日遅れる、ごめん)


  (いいよー、何時ぐらいに着きそう?)

      

               (わかんない、まだ学校)


  (了解、来る時言ってね)


                       (うん)


______________________________________


スマホに元から入っていたアプリで店長である叔父に連絡を取り終えて席を立つ。


バイトを始めたいと両親に持ち掛けたとき、叔父が営むカフェ以外は許さないと言われた。昔から親戚みんな俺に過保護だったような気がするが仕方がないように思う。


昔から何故か犯罪に遭うことが多かった。


幼稚園児の頃は何度か攫われかけて小学生の頃は不審者や露出狂に遭遇した。


中学生になると両親が習わせてくれた護身術のおかげで危険な目に遭うことは減ったが、卒業間近になった頃に担任に襲われかけた。

幸いにも近くにクラスメイトがいたおかげで助かったが、あの時はなかなか怖かった。クラスメイトには結構感謝している。


高校生になってからは背が伸びたのもあるのだろうがそんなことはなくなった。

こんなに被害があればさすがに気づく、俺は結構美形なのだろうと。

美形は言いすぎた、見れない顔ではないくらいにしておく。


とまあ、色々あったからだろう、両親が過保護なのは不可抗力だ。

確かによく知らない所でバイトして権力を盾にされて襲われても困ると、言われた通り叔父の営むカフェに勤めてみたが実に快適だった。


融通が利くし、来る人も大体静かで良い人たちなのだ。

たまにきゃあきゃあ騒ぎ立てる人も来るがなぜか二度は来ないのであまり気にならない。あと賄いとして出されるケーキが美味しい。


そのカフェの客で、最近気になる人がいる。

自分と同じ位の男の客だ。

テスト期間であろう彼は店に勉強をしにやってくるのだが、なんだか小動物チックなのだ。背はそんなに低くないし細っこいという訳ではないのに、なんだか守りたくなるような動作をするのである。

自分で言っていてちょっと気持ち悪いが、叔父も『彼はなんだか可愛らしいね』と言っていたので間違っているわけではないと思う。


俺とは接触が少なかった彼と、昨日少し接触した、と思う。

分からない問題があったのだろう、彼は鉛筆を動かす手を止めていた。鉛筆というところもなんか可愛い。


罪悪感は否めないものの気になってしまったので、隣の席を拭くついでに止まっている原因を覗いてみた。

難しい所だ、今年の担任もここは躓きやすいと言っていた。

俺は得意な分野だったが。

(解き方は確か…)

と、カウンターに戻り注文を聞く用のメモに書いてみる。

できるだけ読みやすい字で、かつ簡潔に。

ポイントを押さえれば簡単なはずだ。

書き終えたメモを折りたたんで、ポケットに入れた。

考えずに書いていたのでどう渡すかなんて決めていなかった。


ふと、彼のカップの中身がなくなりかけていることに気づく。

これだ、と俺は後先考えずに紅茶を淹れに行きソーサーにメモを置いた。

今更だけど気味悪がられないだろうか、なんの接点もない店員が急にメモを置くだなんて。

置いてしまったものはもうどうしようもないけど。


ため息をついた後、頭の上に電球が出てくるような気がするくらいの考えが浮かんだ。


あの小動物チックな既視感は、コーギーだ。

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