魚 その②

 今回はどんな魚がロシアで食べられてきたかについてです。前回述べたようにロシアで食べられてきた魚は歴史的に淡水魚が多いのですが、ロシアの淡水魚の大部分は日本では生息していなかったり流通していなかったりで、適切な和名がないものが多いです。が、本では十六世紀から十七世紀にかけて成立したとされる作者不詳の世俗物語「ヨールシ・イェルショーヴィチの物語」に出て来る登場物からピックアップされていたので、このスタイルに倣って行こうと思います。

 「ヨールシ・イェルショーヴィチの物語」は当時流行した世俗的な風刺物語の中でも特に有名なもので、当時の土地所有を巡る訴訟に関する痛烈な風刺物語であるそうなのです。近代小説の先駆けでもあるらしいこの物語のユニークなところは、登場するのは全て魚であり、魚たちが裁判を行うというところ。では、早速。


「ヨールシ・イェルショーヴィチの物語」登場魚物

лещレシチ

 コイ科の淡水魚。美味と言えば美味だが甚だ脂っこく粗野な甘味さあり、大きいものは肉が硬いらしい。

Ёршヨールシ(アセリナ)

 ペルカ科。小型だが背びれに頑丈な針のような棘を生やし、いかにも悪役といった面構えをしているため、フォークロアや文学では悪役として扱われる。

・ロシアチョウザメ(Русскийルースキー осётрオショートル

 チョウザメ科。チョウザメといえばキャビア(卵)ですが、ロシアではもともと肉もよく食べられていました。ちなみに、このチョウザメのキャビアは現在市場に出回っているものでは上から二番目に大粒で高級なのだそうです。

大蝶鮫オオチョウザメбелугаベルーガ

 もちろんチョウザメ科。このチョウザメのキャビアがもっとも高級だとされているが、肉はあまり好まれないらしい。なお、キャビアのランク付けはベルーガ>ルースキー・オショートル>セヴリューガ(ホシチョウザメ)の卵になります。

・コクチマス(Сигиシグ

 サケ科。

・ニシン(Тихоокеанская сельдь)

 ニシン科。「ヨールシ・イェルショーヴィチの物語」登場魚物では唯一淡水魚ではない。

・ヨーロピアンパーチ(Речной окунь)

 ペルカ科。ロシア名のокуньオークニでも呼ばれる。優れて美味で、なおかつ全く骨を感じさせず、この魚の汁物は甚だ美味らしい。

川明太カワメンタイНалимナリム

 タラ目カワメンタイ科。タラ目唯一の淡水魚でもある。この魚の汁物、及び肝臓入りのピロシキは絶品らしい。

・チャブ(Голавльゴロブリ

 ウグイ亜科の淡水魚。釣り人には人気の魚らしい。

泥鰌ドジョウВьюныヴィユン

 ドジョウ科。


 上記の登場魚物紹介には、釣り好きの作家セルゲイ・アクサーコフ(1791~1859)の「釣魚雑筆」というエッセイによる食レポを付け加えております。また左記エッセイによると、ザリガニも釣りの対象になっていて、茹でたものは酒の肴にぴったりなのだそうです。


 他の食用になる魚としては

О́мульオームリ

 バイカル湖に多数生息しているサケ科シロマス属の淡水魚。高級魚として珍重される。

Воблаヴォブラ

 カスピ海に生息するコイ科の小型の魚。干物か燻製にして食べる。

судакスダーク

 ペルカ科。白身で美味であり、現代ロシアのレストランのメニューに登場するのはこのスダークと下記のフォレーリぐらいらしい。

マスФорельフォレーリ

 サケ科に属する淡水魚の一般名。

・カワカマス属(Щукиシチューカ

 カワカマス科。白身で美味な魚。卵は食用になるがあまり美味ではない。獰猛な肉食魚であり、「シチューカが水の中にいるのは、フナが居眠りをしないため」という「油断大敵」を意味する諺がある。


 があります。

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