葬礼の泣き歌 ②飛翔

 泣き歌の本のまとめなのに、前話に引き続き「ロシア異界幻想」の内容のまとめから入らせていただきます。

 鳥たちの天国イーレイ(前話参照)は、鳥の姿を取った死者の霊が赴くところだと関係づけられ、ベラルーシの葬礼泣き歌においては鳥たちの天国が「あの世」とほとんど同義の言葉として扱われているそうです。

 東スラヴ人の考えによると、春の暖気は冬眠から覚めた「祖先の深呼吸」によってもたらされるとされていたため、春の息吹は祖先の息吹でもあります。ゆえに、春が訪れれば鳥たちがそこから帰ってくるイーレイは、祖先たちが存在する天国と重ねてイメージされていたのだとか。そのためなのか、春になると鳥たちが越冬地から戻ってくるように、亡くなった肉親がこの世に戻ってきてくれるように願う泣き歌も存在するそうです。


 さて、私は特に断りもなしにベラルーシにおける泣き歌の話題を出してしまいましたが、ベラルーシは他とはちょっと立ち位置が異なるけれど(※)キエフ・ルーシの一部だったので、問題はないものとさせてください。


 ※

 ベラルーシの源流にあたるポロツク公国は、家系図で表すとこんな↓感じに他の公国とは分かたれていたのです。



ちょーかんたんなリュ―リク朝家系図 ※諸説・省略アリ


          リュ―リク(ノヴゴロド公)

              |

      イーゴリ一世(キエフ大公)―――――オリガ

                     |

ログヴォロド(ポロツク公) スヴャトスラフ一世(キエフ大公)

     |            | 

    ログネダ――――――ウラジーミル一世(前話参照・キエフ大公)

           |

        ―――――――――――

       |           |

   イジャスラフ        ヤロスラフ賢公

   (ポロツク公)       (キエフ大公)

      ↓             ↓

ポロツクの公位は、イジャスラフ   キエフ大公位を始めとする、その他の公位

の子孫が基本的には独占       を占める(こっちの方が主流)

  

 ベラルーシの歴史は複雑怪奇にして(「ロシアの泣き歌」と同じユーラシア・ブックレットのシリーズに「歴史の狭間のベラルーシ」という本がありますが、絶版です)私なぞの手には余るので、これ以上の解説はウィキ大先生にお任せします。「ポロツク公国」とか「ベラルーシ 歴史」とかでググれば、きっといい解説が見つかるはずです。あと、前話をご高覧してくださった方々は「あるえ~~~!? ウラジーミル一世ってビザンツ皇女と結婚してたんじゃないの~~~!!?」と思われるかもしれませんが、そこら辺の経緯もググっていただければ……(丸投げ) キエフ・ルーシ史は面白いですよ!


 ここからようやく「ロシアの泣き歌」のまとめに入ります。

 泣き歌では頻繁に、故人や故人の魂を


・空飛ぶ白き白鳥

・愛しの家燕

・黄金の羽持つ鷹(なんかカッコいい)

小夜啼鳥さよなきどり(ナイチンゲールのことです)

・傷ついた小鳥(なんだかロマンチックな例えですね!)


 といった鳥に例え、あるいは鳥に例えずとも「~が」、


・前話参照のあの世と思われる場所

・母なる湿れる大地

・異なる遠き世界

・永久なる暮らし


 といったあの世とされる場所へと


・飛び去った

・飛んでいく


 といった表現をすることで、その死を表していました。ただし、鳥の行き先を明示せず、


・鳥籠から火の鳥を放したように

・温かき巣から小夜啼鳥を放したように

・温かく編まれた巣から


 飛び立ったという形式で間接的に死を表す泣き歌も多数あったそうです。また、フェドソーヴァの泣き歌ではほとんど確認できないものの、シベリアの泣き歌では、故人のあの世への旅立ちは「巣立ち」として捉えられていたのだとか。


 ……亡くなった愛しい者の喪失を受け入れられず、春になれば鳥が戻ってくるように彼らに戻ってきてほしいと願うのは人間の性。また、ロシアの民衆の間では、死者の魂は死後も墓の中で生き続けて残された家族のことを見守り、時々死者がこの世に戻ってくる、とされていたのであれば。冒頭で述べたように、「戻ってきて」と願うのも人間の性です。


 こういった泣き歌の場合、死者は


・黒い大鴉

・黒い黒丸鴉

・鋭い目の鷹

・小さき渡り鳥


 などと例えられ、


・村まで飛んで来ておくれ

・墓地から来ておくれ

・広き野を飛んで来ておくれ


 と頼まれることがあったのだとか。

 ただし、帰ってきてくれるのが懐かしく愛おしい死者だけならば良いのですが、現実はそうもいきません。望まぬ不運や「死」は招かれずともやってきくるもの。はたまた、遺された者たちを心配して、彼らを一緒に連れて行くために死者が……。というホラーなパターンも十分に考えられ、事実ロシアの民衆はそういった幽霊を非常に恐れていたそうです。

 「ロシア異界幻想」では、死者は、蝶や蛾、さらには鳥やリスや猫などの、飛べるか非常に敏捷なけものとなって、故人の家にこっそり忍び込むとされています。

 リスは泣き歌に登場させるには可愛らしすぎる気もしますが、その他の動物だったらまあいいかな……。

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