第96話ソースおあがりよ

 二階の俺の部屋から飛び降りた、寝坊助はとうとうやっちまったようだ。


 女を連れ込みやがった。


 元の世界、ジャパンにいた時はオフ会と称した合コンで女と戯れているだけだった(はず)。

 俺の知るかぎり、アイツを好きになる女はいても、アイツが本気で好きになる女はいなかった。


 MMORPGには女性プレイヤーが少ない。

 ゲームというモノをあまり好まない女性がいるのは事実だし、『Noah』のようなガチのファンタジーものは尚更かもしれない。


 でも、あの女好きはどうやってか百発百中でキャラの向こう側の性別を見分けていた。


 教えてもらいたかったよ、この特技……。

 いや別に悪用するわけじゃないです。

 ただなんとなく羨ましいなぁって。


 ……。


 まあいい。俺の語りはこの辺にしておこう。

 我が弟が、連れ込んだ女をどうするのか見物みものだな。



ロイオ「……で、なんでここに戻ってきた?」


ねこねこ「ぼくの部屋だし」


ロイオ「部屋だ‼」


 ベッドの上で胡坐をかいている俺と扉の前でニコニコしているねこねこ。

 と、少しほっとしただろうメイド。


セアラ「ロイオ、セイマが世話になったようだな?」


ロイオ「……!? お、おう」


 やばい。実の姉貴がお怒りだ……。弟、妹がいじめられたときの姉の感情の起伏は計り知れない。

 ソースは俺。


ねこねこ「ロイオが冷や汗出してるーww」


ロイオ「ワラワラじゃねぇよ‼ お前、なんでコイツ俺のとこ連れてきた!?」


 さっきまでお前らで話進める感じだったろうが!

 俺はしばらく蚊帳の外で主役降板かと内心ヒヤヒヤしてたんだからな!

 なんでそんな軽い感じなんだよ。


セアラ「勘違いするな、怒っているわけではない。身内の無礼を詫びようと思っただけだ」


ロイオ「なに?」


セアラ「貴様は姫様の……認めたくないが一番の信頼を勝ち取っている。故にこちらの不備は全面的に反省すべきだろう。私の妹ならば尚更だ」


 なにを言っていやがる?


 俺があの姫様の信頼を勝ち取っただ?


 お前に言われたら、ただの嫌味にしか聞こえねぇよ。


ねこねこ「また怒らないでよ、ロイオ? 流石にもう眠いからさー」


ロイオ「お前が他人事なのは少し意外だな。俺が言いたいこと、わかってんだろ?」



 要するに、拗ねてんじゃねぇよ・買い被るな・お前の自信喪失なんざ知ったことか。だ。


ねこねこ「ごめん、ぼくはそこまで口悪くないよ」


 流石俺の弟分。心を読んだか。


ねこねこ「えっとねー、ロイオの言いたいことを翻訳すると……」


 俺は外国人か。


ねこねこ「セアラ。きみは領主さま一番の近衛じゃないか。とりあえず、今は胸の内に閉まったモヤモヤを吐き出して。話はそれから……だよ!」


 そんなキメ顔したことねぇよ。百パーセントお前の意見じゃねぇか。


セアラ「翻訳ではなく、貴様の意見だな」


 冷静に分析してくれたメイドと二人、深く頷く。

 なんで俺はコイツとこんなにも考えが合うのだろう。

 ねこねこより俺との方が相性いいんじゃねぇか?


 受付の時の可愛げがあればもっといいけどな。あれが演技だったことは未だに納得できん。素があれで、今のむすっとしたのが演技じゃねぇの?




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