第70話いじょうのうらで
光すら届かない深い暗闇の中に都市――いや、『国』があった。
そこに人間はいない。いるのは異形の者ばかり。
亜人種、魔獣種、獣人族、骸骨種……闇の中で往来を賑やかに彩る。
そんな中でも異彩を放つ居城。
その頂点に影が二つ。
豪奢な椅子に座した者が不快さを露わにする。
「魔王軍というのは……どこまでも脆弱なものだな」
漆黒のドレスを着た妖艶な女性。白銀の長い髪が流れ落ちて肘付きにまでのっている。紅玉と蒼玉のように輝く瞳孔――オッドアイ――は特に異彩であったが傾国の美女ともなるとそれすら魅力になる。
「致し方ありません。所詮は過去の遺物の集まり。いくら集めようとも強化しようとも変わることはないでしょう」
跪き、羊のように曲がって前に突き出た角が生えた頭を垂れる真紅の全身鎧。
敬意を抱いて主の不快さを落ち着かせようと太い声で彼は続ける。
「ウトゥ様、もう一つご報告したいことがございます」
ウトゥ「よい。続けよ、ジドラ」
ジドラ「はっ! 旧魔王軍を嗾けたミフラは本来、軍事力にはそれほど秀でてはおりません。ですが、此度の遠征では我らが
ウトゥ「何者かの横やりがあった、というわけだな」
ジドラ「左様でございます。併せて、ミフラに異界の者が降り立ったとの情報も」
ウトゥ「ほう……手練れか」
ジドラ「今回の一件を考えるとそう認識しておいた方が良いかと」
従僕の具申に顎に手をやって考えを纏める。その仕草だけで千の雄は虜にできるだろう。
思案が纏まった主君をジドラはそのままの姿勢で待っていた。
ウトゥ「ジドラ……」
ジドラ「はっ」
ジドラが威勢のよい返事を返すと同時にウトゥの背後に飾られた小さな時計の秒針がちょうど一周した。
「めんどくさぁあいからそのままでー。うとぅはいまからぁ、すぷらするからあとよろしくー」
ジドラ「…………はっ」
ジドラはその真紅の鎧から音を少し出して、何とも言えない表情でいた。
毎度のことながら、慣れない。
ウトゥのシリアスモードは一日のうち僅か一分。残りの二三時間五九分は干物女状態『うとぅ』となる。
うとぅ「あー! ちょっとジドラ! Wi-Fiどーなんてんの‼」
いつの間にか玉座の後ろでジャージに着替えてゲームしてる主君。
ジドラ「は、はい……点検して参ります」
うとぅ「それはいいから、いい加減、有線ケーブル買ってよ! あーもーまたやられちゃったじゃない!」
ジドラ「申し訳ありません……」
このような状態では地上を侵略するなど……とジドラはこの先の不安が募る。
今回の遠征もシリアス一分のウトゥに幾度となく薦めてようやく形になったのだ。
結局は自分が頑張らなければならないのだとジドラは密かに決心した。
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