第53話おばあちゃん

俺のぼそっと零れた一言にオブは反応して俺の方に顔をやる。

それにも腹を立てたのか、ばあさんはまた怒号を飛ばす。


バレア「ソフィア! 聴いてお――」


ロイオ「聴くわけねぇだろ、ガミガミばばあ」


オブ「ロイオさん!」


俺の発言にオブは撤回を求めるように迫ってくるが、生憎そんなビビりきってる奴のいう事を聞く気にはなれないな。

この世界にどんな法律があるのか知らんが、ここで引くのはなんかヤダ。


ロイオ「悪いな、今のは失言だ。ガミガミばばあ。オブはちゃんとあんたのくだらねぇ天秤に掛けられても話は聞いてるよ」


バレア「……オブ?」


ロイオ「俺の仲間が付けた愛称だ」


バレア「ほぉお……わしが行政を整えている間にそのような」


ロイオ「知ったことじゃねぇな。第一、ご意見番ならそんなの当たり前だろ? なに棚に上げてんだ?」


バレア「ソフィア、この男――」


ロイオ「一つ言っておくぞ。先代の領主とこいつを比べんのは阿呆だ。今のコイツが領民のためにどんな想いでいるのか、領民がこいつのことをどう想ってるのか、知ってんのか?」


バレア「……聞こうか」


俺の発言を聞く気になったばばあは険しいながらも先程の怒号は潜め、冷静でいる。


ロイオ「こいつは、領民のために俺たち素性もわからない異世界人に頭を下げてモンスター討伐を依頼した。自分を情けないと嘲っても、自信を無くしても領民のことを常に第一に考えてる。そんな領主を領民が尊い存在だと思うの当然だよな?」


バレア「ふん……そんなことか。領主たる者それこそ当然」


ロイオ「だろうな。でも、問題は、こいつが自信無くしたり自嘲してんのはアンタのせいだってことだ」


顎を突き上げて、ばばあを見下す俺に隣のオブはお怒りのようだ。


オブ「いい加減にしてください、ロイオさん! 祖母は私のためを思って!」


バレア「よい、ソフィア。お主、ロイオと言ったか?」


ロイオ「なんだ?」


バレア「わしはこの国では権力者。そんなわしに今のような態度をとってどうなるかわからんのか?」


ロイオ「わかってるに決まってんだろ。だがそれをしたらアンタの器量が知れるってもんだ。やりたきゃ勝手にやれ」


バレア「……はっはっはっ」


俺の啖呵切った言葉を笑い飛ばすばばぁにオブは疑問顔でいる。

まあ、俺は大体わかる。


バレア「逞しい男じゃのぉ……セアラ以外にソフィアのことをここまで想う者がおるとは……嬉しいのぉ」


オブ「おばあ様……」


ご意見番の顔が孫を思う祖母の顔に変わってたからな。

厳しさもオブが言ってたように、本人のことを思ってのことだろう。

ただ、ちょーっと昔のバイト先の店長みたいにウザかったからヒートアップしちまったが……。


バレア「ソフィアよ……よい男を選んだな」


ん? その言い方はおかしいぞ。


オブ「お、おばあ様! そ、そういう関係では!」


バレア「はっはっは、ひ孫の顔が早くみたいのぉ!」


ロイオ「……エロばばぁが……」


バレア「まあ、それは今度でよい」


オブ「今度もありません!」


バレア「ロイオとやら……可能なら、セアラが戻ってくるまで、ソフィアの業務を見張っていてくれんか?」


ロイオ「ああ、いいぞ。この姫さん、仕事してなかったのは俺のせいだしな」


オブ「え」


ロイオ「……なんでちょっと嬉しそうなんだよ。俺は今から見張り役だぞ」


バレア「では、頼むぞ、末永くな」


ロイオ「セアラが戻ってくるまでな」


ったく……隙あらばよろしくさせようとしてやがるな。

ご意見番だろうが祖母だろうが困ったおばあちゃんだ。

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