第29話こぐんふんとう
丸腰の状態でも出来ることがある。
向かってくる姫騎士の胸当てに照準を合わせて片手の平を突き出す。
ロイオ「ミーネリア」
魔法陣を胸当てに仕掛ける俺に双剣を振りかぶるオブ。
俺を仕留めんとする刃を紙一重で後ろに跳んで回避。
更にもう片方の手は着地に着いた片膝と共に地面へ。
ロイオ「グラントホーン!」
初級の妨害魔法を発動。
足元から生える岩石の一角はオブの鎧に命中する。が、守備力が高い聖騎士には大したダメージを与えられない。
それでも、衝撃を受けた魔法陣が連動。オブの身体の中心から爆発が起きる。
「ほう……スキルや魔法を組み合わせるのが、そなたの戦い方か」
ロイオ「バフしか出来ないとでも思ったか?」
本来、魔法剣士の放つ魔法は初級でもそこそこの威力が誇る。
だが、レベル差がある聖騎士にダメージが通らないのは理由がある。
とあるスキルと引き換えに攻撃魔法自体とその強化スキルを捨てているからだ。
『Noah』ではスキルの数こそ豊富だが、中身はステータス強化と数種類のバトルスキルで一つをコンプリートするのに必要なSPは一〇〇。レベル一〇〇時までに与えられるSPは一〇〇〇、アイテムなどでプラスすることもできるが希少なものだから簡単には使えない。つまり、基本的に完全習得できるスキルの数は一〇。
しかし、他の誰も知らない裏技を使えば、スキルの外伝を覚えられる。
それがスキルの切り捨てだ。いくつかのスキルを消却して一つのスキルを極限へと繋げる。
ロイオ「弱い魔法でも使い方次第だ……さて、武器を返してもらうぞ。マグネティックフォース」
無属性の『フォース』スキル。物体や人物、魔法さえも引き寄せたり反発させられる。おまけに一日の使用回数制限がない。攻撃手段には向かないがとても利便性が高いスキルだ。
「武器を取り返したか。ここからそなたの本気が見れそうだな」
ロイオ「さっきから傍観者気取ってんじゃねぇよ。エレクトリックフォース!」
腕を組んでいる悪魔に電撃を放つが、間に入りこんだオブが壁となって遮る。
オブ「スピリットアーマー」
攻撃無効スキルを張って、悪魔を護る姫騎士に苛立ちが積もる。
ロイオ「くそ……もう少しダウンしてろよ」
「言ったはずだ、この娘は強い。そなたの魔法で動きを止めるのは困難だぞ?」
かと言って、相手はオブだ。モンスターみたいに遠慮無しで攻撃はできない。
こういう生け捕り的クエストはどうも苦手だ。倒す方が変に気を遣わない分楽。
ロイオ「……おい、悪魔。今から滅多に見れないスキルを見せてやる」
奥の手だからあんまり見せたくないが仕方ない。それにリアルでやるとどうなるのか見当もつかないから若干不安要素だしな。
「それは楽しみだ」
俺は、属性魔法全てとその強化を犠牲にして『フォース』スキルを極めた。
その奥義とも言えるもの。
頭の中で魔力の流れをイメージする。身体全体を覆うように……。
ロイオ「……オ――」
その奥の手を使おうとした瞬間、少し王の間の扉が開かれ。
???「アイスピック!」
「……なんだ?」
扉から飛んできた一つの氷を悪魔は首を曲げて躱す。
俺は魔力を静めて奥の手をやめ、安心感で吊り上がる頬を背後の扉に向ける。
ロイオ「女に向かって、攻撃魔法は撃たないんじゃないのか?」
ねこねこ「威嚇射撃だしー。そういうこと言ってると、次はロイオに当てるよ?」
遅れて合流した白髪ショタ賢者は笑みと一緒に皮肉を混ぜてくる。その小さくも頼もしい影から続く女が前に出る。
セアラ「姫様を危険な目に遭わせたのだ。後で厳正な処罰が下ると覚悟しておけ」
剣を抜いたメイド戦士が鋭い眼光で睨んでくるが、それは流す。
ロイオ「操られてんだ。信頼を試すだのなんだの、この悪魔にな」
セアラ「ならば、貴様では無理だ」
ロイオ「ごもっとも」
「……この者たちはどこから入った?」
ねこねこ「考える姿もキレイだねー、サキュバスさん。地下からここまで来られる隠し通路のこと知らないの?」
「ふっ、そんなものがあったとはな……で、そなたたちは何用だ?」
ねこねこ「決まってるよ。オブお姉ちゃんを正気に戻して、サキュバスさんをぼくのモノに――いった!」
セアラ「お前は悪魔でも構わんのか! 無差別に手を出すな!」
おおー……俺が言おうとしてたことを。
剣の柄頭でねこねこの頭を殴るセアラに拍手を送りたくなる。
おまけになんかこの二人仲良くなってるな。
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