第28話いせかいからきたもの

ロイオ「くそっ……めんどくさいことしやがって!」


 虚ろな眼差しで斬りかかってくるオブを避けつつ、悪魔を睨む。


「信頼しているのだろう? ならば、わしの催眠も解けるのではないか?」


 このビッチ悪魔め……勘違いしやがって。


ロイオ「この姫が信頼してんのは俺じゃねぇ! 俺の仲間といる近衛の女だ!」


「そなたではないのか……そうか。それはすまなかったな」


 俺の激昂に悪魔は素直に謝罪をする。

 それでも、襲い掛かってくるオブを見て、さらに怒りが強まる。


「が、そなたとて、その娘の仲間なのだろう? ならば、問題あるまい」


ロイオ「俺はこいつとは今日知り合ったばかりだ! 信頼もくそもあるか! 見てたんじゃねぇのかよ!」


「なに……ではそなたはなんだ? なぜその娘といる?」


ロイオ「こいつは俺の依頼主だ! それに俺は……今日異世界から来たもんだ!」


 いい加減、ウザくなってきた……この姫様には少し止まって貰おうか。


ロイオ「スリイング!」


 睡眠魔法を姫様にかける。これで大人しくなってくれるなら――。


オブ「……ふっ!」


ロイオ「なっ!? 弾いただと!」


 まさかこの姫様の防具、状態異常耐性があるのか……?

 一瞬の思案に気を取られた俺は、オブの斬撃で腹をかすめる。


ロイオ「くっ!」


 初めて剣で斬られた痛みに驚きつつ、距離を取る。


「異世界から来た者……あの人間が言っていたことが現実になったのか?」


 悪魔が興味深そうに俺を見つめているが、気にしている余裕はない。


ロイオ「レベルが低いとはいえ、耐えてくれよ……アイスフォース!」


 冷気を剣に纏わせた俺は、姫様の振りかぶられた武器目がけて、剣を振り上げる。

 剣と剣の衝突は俺の意図した結果で、冷気が双方を包んで凍結させる。

 剣同士がくっついて、お互いに武器を無くした。

 さらに。


ロイオ「エレクトリックフォース!」


オブ「うっ! うぅぅ!」


 電流を浴びて悶えだしたオブさんにこれ以上はマズイとフォースをやめる。

 だか、電撃が消えるとまだ痺れているはずの脚が俺の腹部を襲う。


オブ「ハッ!」


ロイオ「う”っ!?」


 予想外の反撃に片膝をつく。膝蹴りを叩きこむまでやるとは思ってなかった。

 腹の傷が余計に血を流して、かつてないほど、命というものを実感する。

 この姫様……本気で俺を殺す気か。


「異世界の者よ、本気でやらねば死ぬぞ? わしの催眠でその娘の潜在能力を引き出している。攻撃を受け続ければ、身がもつまい」


ロイオ「……ちっ、元はと言えば、お前の勘違いが原因だろうが……いい加減、催眠を解きやがれ……」


「それでは面白くあるまい。それに、そなたが本気を出せば良いだけの話ではないか?」


 腹を抑えながら、下から睨みつける俺を悪魔は嗤う。

 一方、悪魔の傀儡と化した姫は、凍った二つの武器の柄を握ってまるでハサミを開くように腕を開き、氷を取り除いていた。

 二本の剣を構え、膝をついている俺に突進してくる。


ロイオ「……ムカつくが、その通りだよ」


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