第20話ねおき

 地を焼く炎と空を切る雷が不気味で血生臭いゾンビどもを消す。

 それでも、一向に減らないゾンビは呻き声を上げて、俺とセアラさんを取り囲んでいた。


セアラ「ハァ、ハァ……まだやれるな?」


ロイオ「当たり前だ……まだ俺のバトル描写、ろくにはいってないし……」


セアラ「なんのことだ?」


ロイオ「ただの愚痴だから気にすんな」


 世界観ぶち壊し発言が出るほど、今の俺は疲れてる。

 フォースで敵を倒しつつ、バフが切れたらかけ直すの繰り返し。

 これを後何回やればいいのだろう……終わりが見えない。心が折られそうになっている最中、目の端に動く影を捉える。


「ヴォォ……」


ロイオ「後ろだ!」

セアラ「っ! 舐めるな!」


 疲労困憊といった様子のセアラは、後ろに忍び寄っていたゾンビを斬り倒すがそのまた背後のゾンビに背中を殴られる。


セアラ「ぐっ……この程度で……やられはせん!」


 背中から鈍い音がしたセアラだが、痛みに負けることなく反撃をする。


 無双っぷりも体力の限界で発揮できなくなっているんだろう。

 動きが先程までとかなり違う。呂布どころか寧ろ貂禅だ。使ったら強いけど守られる側っていうイメージの。俺はあんまり使ったことないけど。

 あ、うちの変態とバカは「男のケツみて夢想なんてする価値がない」などと、むそう違いもいいとこな主張してたな……。男キャラのレベル上げは俺の役目だったなぁ……ゼウスさんは、夏侯惇と宮本武蔵と呂布しか使わなかったから、全クリコンプが大変な無双シリーズ……今思うと中々の作業だったなぁ。まあ楽しかったけども。

 おっと思い出に浸りすぎてたな。あの無双シリーズの大変さに比べれば、ゾンビの大群なんて――


ロイオ「くそっ……マジックレインも切れやがった……」


 やばいかも。

 防具のMP自動回復が追い付かない勢いで魔法を連発してる。

 スキル使用回数も残り僅かな上にマジックレインが切れたら、俺はやれることが限られてくる。

 キメラの時より状況は悪い上に、今は俺と女戦士しか戦えない。これだからリアルは嫌なんだよな……セーブもロードも中断もできる無双シリーズが恋しいぜ。

 はやくこい……ねこねこ!


オブ「きゃー!」


セアラ「はっ! 姫様!」


 馬車の方から恥ずかしさを感じる悲鳴が聞こえた。

 俺はこの悲鳴で、馬車の中がどうなっているのか大体想像がついた。


オブ「ねこねこさんっ……そんなとこ……やっ、ダメぇ……」


セアラ「あのクソガキがっ……ぶっ殺してやる‼」


 怒りで体力を無視し、ゾンビ共を切り伏せて馬車に戻ろうとするセアラさんに俺は得意げに制止させる。


ロイオ「いや、その必要はないと思うぞ。もうじき自分から来る」


セアラ「なに?」


オブ「いやー!」


 馬車から飛び出てきた姫騎士様の顔色は朱色。

 そして――


ねこねこ「……ぼくの安眠をジャマするのはだれ……?」


 トボトボと覚束ない足取りで出てきたねこねこ。

 白い前髪で隠れて目の色は窺えないが、たぶん虚ろだ。


ねこねこ「……ロイオ……どこ? あ、いた……」


 こっちに気付いたようで、意思のない目は俺たちとゾンビの群れを視認。


ねこねこ「…………きもちわる……ぜんぶ死んじゃえ」


 右手に持った杖を掲げた賢者。それは俺に危機感を与える。


ロイオ「あいつまさか……セアラ! ここから離れるんだ!」


セアラ「あのガキ……姫様に何をしたっ!」


ロイオ「今いいからそういうの! 早く!」


ねこねこ「……てなき冥界めいかい 静止せいしする不死者ふししゃ 見上みあげるは威光いこう


 魔力を杖に集め始めた中二病賢者を見て、俺は睨みをきかせているセアラの手を奪い走り出す。


ねこねこ「純氷じゅんぴょう牢獄ろうごく反響はんきょうする呪詛じゅそ 自壊じかいするおり 腐敗ふはい侵食しんしょく 此方こなたよりす――」


 ねこねこの周囲を魔力と冷気が取り巻き、詠唱の終わりを告げる。


大凍結に呪われてフローズン・マレディクション


 眠気覚ましに放たれた魔力を帯びた巨大な冷気の波は、ゾンビの大軍勢に襲い掛かり、一匹残らず凍り付かせた。


な?


寝起き、最悪だろ?

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