第15話おねえさん

 ゼウスさんの返しを受けると怖い目を潜め、質問に答え出す。それも偉そうに。うん、美人さんなら俺は許す。ただ、黒さんは別。だって男だもん。


セアラ「私は攻守ともに優れた戦士だ。攻撃も守備もスキルは一通り取得済み。加えて、魔法も少々使える。戦士としてのレベルは二〇。以上」


ロイオ「……」

ねこねこ「わー……」

山田「……おっふ」

ゼウス「フンッ」


 うん、俺らよりレベルが高い。

 姫様の欠点を差し引いても、十分な戦力。

 誰も批判の声は出せない。しばし無言が続き、得意になったセアラさんは自信満々に口を開いた。


セアラ「他にも質問があるのだろう? 言ってみるがいい。全て説き伏せる」


ロイオ「あ、はい。もう結構でーす。採用」


 これ以上、他の三人が下手なことを言う前に、この茶番を終わらせないといけない。迂闊に喋って元受付の高レベルおねえさんを刺激することは不味い。

 俺が早口で告げると山田は頬に汗を浮かべながらそっと立ち上がった。


山田「じゃ、じゃあ、俺、買い出し行くわ。ロイオとねこねこも、まともな装備いるだろ?」


ゼウス「いい加減、棒切れとはおさらばしないとな。待っていろ」


 さっきまで舐めくさった態度をしていた手前、居心地が悪くなったのだろう。そそくさとこの気まずい空気から逃げ出す居残り組。おいずるいぞ。それでも年上か、俺たち未成年を護るためにお前らが残れ!


ロイオ「おい! お前ら――」


オブ「あ、装備でしたらこちらで用意いたします。キメラ討伐の報酬もまだでしたし、それくらいはさせてください」


ねこねこ「だってさー。良かったよ、お金が浮いて。ねー二人とも?」


山田「ま、まあな……」

ゼウス「……くっ」


 オブさんの天使のような申し出をねこねこが拾うと目を細めて厭らしく笑顔で立っていた二人を見上げた。

 逃亡に失敗したバカたちは上がった腰を再び下ろす。


セアラ「守銭奴なのは構わないが、早く支度を済ませてくれ。今夜にでも出発したい」


ねこねこ「えー、今日でるのー……?」


ロイオ「俺たち……キメラ討伐行ってきたんですけど?」


オブ「申し訳ありません……一日でも早く解決したい事案でして……」


 領主という立場上、そういう思いなのは分かるが……。

 HPやMPとは別に精神の疲労が抜けない。初めてのリアルモンスターにリアルバトルだ。感動や楽しさ、若干の恐怖をこれでもかと体感した一日。ひきこもりにこれ以上の刺激はキツイ。お部屋で寝たいだらけたいゲームしたい。じゃないと高血圧で死んじゃう。おじいちゃんみたいにビクンビクンして死んじゃう。あ、これはいやらしい本参照の女子のビクンビクンじゃなくて、痙攣してるおじいちゃんをイメージした擬音語です。ええはい。


セアラ「……真夜中まで待つ。それまで、疲れを癒せ。宿はこちらで手配する」


 頭の中はピンクだった俺たちの心からの嘆き(うそ)を配慮してくれたのか、元受付嬢さんは、姫様に一礼してからギルドを出ていった。

 恐らく、宿屋に話しを通してくるのだろう。

 主よりハイレベルな上に気遣いができる近衛。この姫様に仕えている理由は何なのか、少し気になるところだ。




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