第10話さよならキメラ

 背びれで宙をさき、翼をはためかせるキメラ。


ロイオ「エレクトリックフォース!」


 真下に潜り込み、ひのきのぼうに電気をまとわせ、電撃を腹部目がけて放つ。

 魔法剣士特有のスキル『フォース』。あらゆる属性を放出できる他、武器や身体に纏わせる。一日の使用回数制限がゆるく、俺の十八番おはこ――なのだが……滑空するキメラにはかすりもせず、空に消えた。


ロイオ「あれ……?」


ねこねこ「ちゃんと当てなよ」


 そんな責めるようなジト目でみるな、弟よ……。

 ゲームだと百発百中だったんだ……たまに外してるけどよ……今のは完全に捉えたっての。リアルだとなんかこう……リアルな間合いとかタイミングとか、ゲームとはちょっと違うな感がある。

 本物の雷ってよりチャ〇ラで発動する雷遁みたいな感じ。使ったことないけど。

 

 正直、やりづれぇェ……感覚とイメージのずれを修正しねぇといけねぇな。


山田「頼むぜー、あいつ飛んでると俺らじゃ攻撃できねぇんだからよぉ!」


ロイオ「うるせぇひっこんでろ全裸バカ! リアルとゲームじゃ感覚が――」


ゼウス「つべこべ言わずにはやく撃ち落とせ」


ロイオ「……くそぅっ」


 マジ顔とマジ声で睨むな、役立たず共め……。

 パーティメンバーからのダメ出しに半泣きの芝居で返してやろうと思ったが、そんな暇なかった。天空を回るキメラの鋭い視線を感じたからだ。


「ガルゥー!」


山田「ブレスだ!」


ねこねこ「ロイオ!」


ロイオ「おうッ⁉ パラレシスト!」


 犬そのものの口から黄色い息吹が吐かれるが、間一髪、状態異常耐性を上げるバフが間に合い全員ノーダメージで済む。

 引き換えに俺のMPは尽きた……。次の自動回復まで時間がいる。MP回復のポーションでも買っとけばよかった……。道中のモンスターで無駄遣いし過ぎた過去の俺め……呪うぞ。


ゼウス「ねこねこ、上級魔法は撃てないのか?」


 悔しがる俺を放置して、ゼウスさんが杖を構えているねこねこにそんなことを訊いてた。全身真っ白の賢者くんは目を見ずにキレ気味に答える。


ねこねこ「撃てたらとっくにやってるよ! まだMP上限が低いから、撃てても中級魔法だよ。それも今のぼくじゃMPが全然足りない!」


ゼウス「……やむをんな。俺がアイツを落とす。後は上手くやれ」


 いまいち考えが読めなかった俺は腰を落とし始めたゼウスさんに心意を問う。


ロイオ「ゼウスさん、どうやって――」


ゼウス「こうやってだ」


 俺の言葉を遮るとゼウスさんは上のキメラを見張って「おーアイツのでけぇ」とかほざいてる山田目がけて駆けだした。もういっそ、あのバカごと殺っちまってほしい……。どこみて言ってんだよ変態が。


山田「え、ちょっとなんで俺に、顔怖い! ぎゃあァァァァ!? ゼウスに殺されるゥゥ‼」


 絶叫し、逃げようとする山田より速く、ゼウスさんはその顔面に足を乗せ、通常のジャンプより高く飛び上がった。


山田「ふがっ!」


踏み台おつ


ゼウス「躍獣やくじゅう


 さらにスキルの作用で足場のない空中でもう一度蹴りあがる。

 黒い人間にまさかの上を取られたキメラは、目を丸くして動きを止めた。

 黒い人は空中でひのきのぼうを逆手に持ち替え、柄頭に片手を添える。


ゼウス「――龍墜りゅうつい!」


 落下の勢いと体重を乗せた一撃は大きな口を上から串刺す。


「ギャアァァァ!?」


ゼウス「ロイオ、ねこねこ! 落ちるぞ!」


「「「あの人、カッケーなぁ……武器ひのきのぼうなのに」」」


 感嘆と残念さを声に出した俺とねこねこは言われるまでもなく、両手をキメラの落下地点に向けている。


ロイオ「俺たちも負けてられないな、ねこねこ」

ねこねこ「MP回復したなりだけど大丈夫? ちゃんと足りてる?」

ロイオ「当然だろ、ミーネリア!」


 落下してきたキメラに炸裂するのは、俺が仕掛けた初級妨害魔法の地雷。一メートルくらいの円型陣が一つの爆発を起こす。


ねこねこ「よかった、エアーフロウ!」


 風魔法で威力が増大した爆炎は渦を巻き、キメラに断末魔のような鳴き声を上げさせた。


山田「オーライオーライ! そのまま落ちてこーい」


ゼウス「ふんっ!」


山田「なんで踵落とし!?」


 ひょいっと避けた山田。そして、無事地上に帰ってきたゼウスさん。


ゼウス「遊ぶヒマがあるなら、さっさと仕事しろ。これだからバカは……」


山田「お前のせいだけどな! やれやれ、次はちゃんといいもんよこせよ、犬」


 俺とねこねこの魔法が終わると指を鳴らして近づいてくる変態。

 ……今すぐにでも距離をとりたい。というか撃ちたい。後ろから。


ねこねこ「ちゃんと盗ってよ? じゃないと、後ろからアイスピック撃つから」


山田「パンツ一丁の俺を殺す気か!」


ロイオ「早くしろ!」


山田「セーフートーッ‼」


 返事より先に行動する山田の手は先程と同じように発光している。

 その光が止むと山田の手はアイテムを握っていた。


山田「おっしゃぁぁ! 『キメラの牙』ゲットだぜ!」


 飛び上がって喜ぶ山田に歩み寄るゼウスさん。その顔はやや明るい。


ゼウス「牙……それは武器の素材になるんじゃないか?」


山田「んじゃ、四人分盗るからちょっと待っててくれ!」


 死にかけのキメラにひたすら窃盗スキルを使う変態。

 こういうみんなの分っていう気遣いがこいつの良いところだよなぁ……バカだけど。


山田「これ終わったら、倒した後剥ぎ取っていいかな? な?」


 欲張りなとこもあるけど。

 キラキラ目を輝かせる盗賊に苦笑いを向ける俺たち。


ロイオ「それリュウハン」

ねこねこ「『Noah』だと、モンスターは倒したら消えちゃうし、ドロップ品も確定じゃないからねー」

ゼウス「だが、これは現実だ。剥ぎ取れる可能性もなくはないぞ?」


 ゼウスさんの一言に悩む俺たちは、一先ず、窃盗スキルを使えるだけ使ってから止めを刺すことにした。


 それから、涙目のキメラは抵抗すらなく、鱗一枚も残さず盗られた。


 ゼウスさんが止めの一撃を放つと、キメラは「クゥーン……」と追いはぎに遇った被害者のような鳴き声を残して消える。


 結果、剥ぎ取れませんでした。


 それでは最後に山田な全裸のおバカが発した言葉を。



 山田「バカなやつだったけど……嫌いなやつではなかったよ」



 盗んで剥いだやつのセリフとは到底思えないですねー。

 あと、バカってとこは完全にブーメランだと思います。

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