六十七の節 馬車は、愛の伝道師を乗せて走り行く。 その一
カマイさんとアービィさんの大盤振る舞いがあった
先陣を飾る騎士は、従者を三人掛かりで装着する純白の
「お前さん、あんな強い酒をよくも平然と
「
外装も内装も白と金で統一されている豪奢な馬車の内側で、
この会話の訳は、昨夕の〝はい、あ~ん未遂事件〟がきっかけでだった。居たたまれなくなったアラームは、ハニィとシシィが持って来てくれた杯と皿を手に、適当な別室に鍵を掛け引き篭もってしまい、それからの広間での賑やかな晩餐の様子を知らなかったのだ。
「あの酒の容器の大きさを見て判らなかったのか。スーヤ大陸のシザーレ名物、キルシュヴァッサーのように香気を楽しむもので、
アラームの白い手袋で包まれた親指と差し指が開き、架空の酒瓶の大きさで止まる。大衆食堂や酒場で並ぶ酒瓶ではなく、女性の化粧水か香水が入っている瓶の大きさだ。
「要するに、人が呑むモンじゃないって事だな。って、それより、この馬車の匂いは何とかならないのかよ。二重、三重で酔いそう」
貴族仕様とあって、座席の低反発装置と
しかし、二日酔い、馬車の振動、貴族仕様の過度な香気。
「送り出したチェーザリー夫人が気前良く、お気に入りの香気を振りまいたんでしょう。夫人と同じ、濃い薔薇の香りがします」
便宜上、見張りとして同乗しているヴァリーが片目に不快感を込めたように
「薔薇って、こんなにエグい匂いだっけ? 土地柄によって違うのかねぇ」
貴族の中には馬特有の獣臭を嫌うてらいがあり、貴重な薔薇の精油を惜しげもなく臭い消しに使用する。貴族の自慢や見栄の手段は
「眼の前で吐かれては困る。あの手を
アラームが無造作に、馬車の出入口でもある扉を開いた。扉側で馬で併走していたラフイが丸い目を更に丸くして凝視する。
ちなみに、同じように護衛役のオルセット族のターヤ、ラヴィン・トット族のラフイは、その体格に合わせた小さな馬ではなく、ヒト族が騎乗する標準的な馬体に乗っていた。
香辛料と酒気が混じる人いきれで
「メイケイ、ウンケイ。いつもの乳香で善いかな」
「何で俺に聞かねぇんだよっ」
空気の入れ換えで少々元気を取り戻した様子の
「便利だろう? 一家に一名いるだけで劇的な毎日を送れるぞ」
アラームの言葉に灰色の瞳を見張りつつも、ヴァリーは言葉を思い起こしたようだ。
「一家だけなど
「うむ、ヴァリーよ。もっと褒めても善いのだぞ」
アラームの行いを我が事のように添わせ、小麦色の肌を持つ
長い
「最初は、度肝を抜かれたが慣れると癖になるんだよな。
ここは素直に
「ま、まさか人体や着衣にも影響を及ぼすのですか!?」
「アラームの
ヴァリーの反応が面白かったのか、
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