五十四の節 可愛いは、一騎当千。 その三
話しは、四日前に遡る。
カーダーが愉楽の余韻に浸り
一方的に押し付けて来る、アラームの説明と事情を浴びつつ身支度を整え、兄弟と呼び合う船団・商隊員に見送られ、カーダーは現在に至る。
「真面目過ぎるビルジには、刺激が強い話しだなぁ、おい」
円卓の付近にある棚に用があったらしく、冊子を手にしたヴァリーが暖炉への帰り際、無精髭の顔に下世話な笑みを貼り付けながら一言を投げ付けた。
言われたヒト族の青年は文句の一つでも返したいだろうに、階級と性格からか言い返そうとはせず、表情や態度を濁しただけで済ませている。
「大変失礼な質問で恐縮ですが、ビルジとは本名なのですか」
カップに満たされている、香辛料で風味を付けた
「それが、その。名は、ザウガー・エメルトです。中隊士長と出会った頃の事を、からかって呼ぶんです」
「ビルジって、アレですよね。染み出す海水や、船上生活の排水などが船底に溜まる汚水」
レイスが差した通りの物だが、放置しておくと船体の寿命を縮めるため、排出するための装置も当然備え付けられている。
余談ではあるが、
『どうなるのか、試してみたかった』
悪びれもせず理由を語ったアラームは再び、大いに非難を集中砲火の如く浴びる結果となる。
「嫌な事を思い出させるんじゃねぇよ」
当時を思い出した様子の
「それくらい。いいや、それ以上の悪臭だったんですよ。ビルジは」
こちらも被害者だと言わんばかりに、ヴァリーが盛大に溜め息を吐く。
「オラっちも、ここに来るまで色々と経験したから言えるもんです。悪いが、
赤、青、白、黒に色分けをされた不浄を表していた。赤は悪血や経血、出産時などの出血を含む血の不浄。青は子種の不浄。白は
これは元々存在する概念で、地域によっては示す色や表現、内容が変化している。
「何だよ。私からも異臭が漂っているのか?」
こちらは冗談混じりで、アラームは視線を注ぐ相手に薄く笑った口元を向ける。
「
今度はヴァリーが、一人だけ正解に気付いたと言わんばかりの安堵と開放感を無精髭に浮かべる。
「正確な時期は思い出せませんが、少し前に変な問い掛けをする不審人物の情報があったな~と」
「内容は?」
「確か〝物凄い異臭を放つ少年を見掛けなかったか〟でしたね。そいつの背格好が、
用意された物に手を付けないのも無作法と、気を遣い糧食に手を伸ばしていたメイケイ、ウンケイも話しに意識を向け始めたらしい。報告書の整頓に区切りを付け、ヴァリーとアラームの会話を見守っている。
「質問の内容はともかく、背格好と言う点では、シザーレ
興味を引かれたのか、カーダーが妙な会話の輪に一言を投じた。
「あ~、やっぱそうなっちゃいます? 我々としては今も昔も、悪い相手としては見ていないので
「妙な質問をした相手と直接会ったのか? それと、どの方角へ向かったんだ?」
「ええ、会いましたよ。クリラ族が、どこにいるかって尋ねて来たもので取りあえず定住地に繋がっている、ナゲサイン街道の入口を教えたのに、筋違いのラスイテ街道方面へ行こうとするので、また引き留めたりとか」
アラームに答えるヴァリーは、手にする冊子の背を空いている
「お知り合いなんですか?」
「多分、探し相手だよ。もう一人、連れがいるはずだ」
今度は、アラームだけが納得する推測に区切りを付けたらしく、広げていた紙面を束ね始めた。
「
「アラームなど、我がいなければ屋敷ですら迷い子になるだろうに」
何の前置きも前兆もなく、
この光景には、アラーム以外の全員がそれぞれの場所で驚き、声を立てる兵卒もいた。
アラーム以外の誰もが、現状の説明を欲する要求に言動を反映させようと努めていると思われる所。事態は、これまでに止まらなかった。
ようやく暖かくなった、一室の扉が勢い良く開け放たれる。冷えに冷えている通路の気温と、元気な少年が早朝の清涼な空気を纏いながら乱入した。
「
「場を読めよ子ザル。俺達は、これから軍事と和平の均衡について包括的かつ斬新な提案によって解決に至る重要な事案を模索しなければならない」
「
「止まれ、
発言者のアラームに対して、勢い良く首を向けた
「
アラーム以外、この場にいる全員が恐らく生まれて初めてくらいの速度で
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます