48,美空と友恵が知り合った

「えー! そうだったの!? 早く言ってよー!」


「いや、だって、友恵と三郎はプロで、僕とは次元が違うから」


「言うのが恥ずかしかったと」


「うん」


 歩道の真ん中で立ち話は通行妨害になるため、バス乗り場に沿った駅舎の外壁沿いへ移動し、僕と美空はご近所さんで創作仲間という旨を説明した。


 バス乗り場を俯瞰していると、ちょうどバスが入ってきて乗車待機列が進み、一部の人は列から一歩左へ逸れ、後に並ぶひとを先に通している。同じ乗り場に来る行き先の異なるバスに乗るときは、こうして秩序を乱さず割り込みが発生しないよう配慮する。そんなの当たり前と思っていたけれど、全国津々浦々と旅をしている美空によるとそうでもないらしい。


「そっかー、私なんかが異次元の住人に見えるかー。まぁ、私もデビュー前はプロはすごい、雲上の存在だって思ってたけど、私は私だし、友だちとしてはもちろん、クリエイターとしても距離を置かれるほど大したもんじゃないんだなぁ。それより美空ちゃん、これからよろしくね!」


 友だちとしてはもちろんそうだ。まして有名人だらけのこの街で、この人はいずれ有名になるだろうから距離を置こうなんて考えていたら独りぼっちになってしまう。


 けれど創作では、創作物の構造をよく知っていて、それでお金をもらっている友恵や三郎に、素人だけで創ったものを見られるのはなかなか度胸が要るものだ。


「はい! こちらこそ、よろしくお願いしますね!」


 うわ~、わ~、美空、馴染みなき者にはやはり猫かぶりなのか~。


 それより、美空は友恵みたいな元気なタイプが苦手だと思っていたけれど、あっさり打ち解けられて良かった。



 ◇◇◇



 その後、僕らの公立校、美空の私立校ともに合唱祭や受験などイベントが目白押しで、お互いが会う機会がめっきり減った。


 合唱祭は年間で一番の鬼イベントで、声が揃っていないし汚い! からだに大きな虫が這っても歌唱に集中しろ! などと、教員から罵声の嵐。僕はピアノ担当だったから演奏を乱さぬよう特に身動みじろぎは許されなかった。


 合唱祭練習以外の授業でも有名な歌謡曲や洋楽、アフリカの民族楽曲、Jポップ、流行りのアニメソングなどをブラスバンドで演奏する音楽には凝った学校で、演奏が難しい楽曲も多いことからクラスメイトのセンスや腕前が如実になる、そんな厳しい環境だ。


 受験に関しては高校浪人なんてあってはならないというプレッシャーに苛まれたものの、面接試験で質問された事項(現在の首相の名前、与党と野党の役割など)には難なく答えられた。なお学科試験は相当低得点だったと思う。それでも合格し、受験は無事終了。光陰矢のごとし、2007年2月を迎えた。

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