固まったまま動かない悠太郎に合わせて固まって動けない花子、瞬きしか動かない時間は彼女に不安を募らせた。


 それは具体的にどうこうとまでは固まってなくとも、やっちゃった、とは明確に固まっていた。なのでなんとか挽回しよう頭を回すも、彼女の頭は堂々巡りだった。


「あの、さ」


 悠太郎が動いてくれた。


「一応、質問、だけど、本田さんは、こういうの平気なの?」


「え、えっと」


 こういうの、と言われて思い浮かぶのは、アメリカ文学の古典、の和訳したもの、という本のことだった。


「まぁ、はい。そんな多くはないですけど、ジャンルとしては一通り」


「……そっかぁ」


 悠太郎の煮え切らないような、その上で距離が離れた感じのリアクションに、不安が増す。


「あの、栞君は、この本読んだことあるんですか?」


「いや、名前……というかジャンルは知ってる。正直そんなに好きじゃない」


「え……」


 好きじゃない、とはっきり言われて花子の頭の中は真っ白になる。


 けど、すぐにまたお薦めする前で良かったと立ち直る。そして好きなジャンルを知るチャンスだとも、理解した。


「じゃあ。じゃあ、栞君は、どんなジャンルが好きなんですか?」


 ………………そんなに難しくない質問だったはずなのに、悠太郎は頭を抱え、悶え苦しむように考えて、絞り出すように答えた。


「……やっぱ、フィーリングが大事かな」


「……はぁ」


 としか答えようがなかった。




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