2月8日『準備』
さて。
チョコフォンデュを作る、お兄ちゃんに食べさせるにあたって、いくつか準備する必要がある。
端的に言うとチョコと具材と鍋だ。
フォンデュとは、元はフランス語で『溶かす・溶ける』の意味で、後にフランス・イタリア・ドイツでの鍋料理の総称となり、チーズフォンデュ・スープフォンデュ・オイルフォンデュなど、鍋に溶かしたソースとなるものを作りそれに具材を浸けて食べる料理として拡がり今となる。
だからチョコフォンデュはチョコを溶かした状態で食べやすく、甘く、美味しいもの。
具材は温かいチョコと相性の良いもの。
鍋は見映えして雰囲気の良いもの。
それらを揃える必要がある。
鍋は小さくても良いから三段くらいの『チョコフォンデュと言えば』という上から下にチョコが流れ落ちるファウンテンタイプのもの買う。
最近では雑貨屋などでも見るようになったし、必要であれば通販などで手に入れれば良いので、これは問題なし。
具材はホントに様々だけど、定番のフルーツからマシュマロのような菓子、おつまみになるチーズやナッツ、生ハム、変わり種ではコロッケや餃子、焼き鳥なんかのキワモノまでチョコに浸けて食べるらしい。
とは言え、今回に関してはキワモノやおつまみを用意する必要はなく、甘い、甘い甘いフルーツやスイーツを、甘いお酒のたっぷり入ったチョコに浸けて食べてもらうことが目的なのだから、ある程度具材は絞って準備しようと思う。
フルーツは苺、バナナ、オレンジ、林檎、缶詰めのパインと桃、この辺りかな。
スイーツだとマシュマロ、クッキー、ドーナツ、ポテトチップス、クラッカー、シュークリーム。
まあこんなところか。
お兄ちゃんと二人だけですることを考えるとあまり具材が多いと、見た目だけでお腹いっぱい、なんてことになりかねないし、目的はお兄ちゃんをフォンデュしたチョコの様にドロドロに酔わせることにあるので、実際には量はそれほど必要ない。
要は、『チョコが進むもの、たっぷりとチョコを浸けたくなるようなもの』であれば良い。
であれば、フルーツはバナナ、林檎、パイン、スイーツはクラッカー、シュークリーム、そして塩気のあるポテトチップス辺りに絞られる。
オレンジを外すのを少し迷ったけど、柑橘系とチョコという組み合わせはどちらかというと女の子が好む食べ合せなので、用意してもあまり手を付けられないんじゃないかと思って外すことにした。
事実、お兄ちゃんがミカンなどの柑橘類を食べたり食べたがったりするのを見たことがない。
うーん。まあ、そういう意味であればフルーツ全般をお兄ちゃんが好んで食べているところを見ないけど、バナナは『有れば食べる』くらいには好きだと思うし、私もお兄ちゃんも、パパとママが生きている頃、風邪をひいた時なんかパイン缶や桃缶を食べさせてもらうのを楽しみにしていた。
それなら桃缶を付け足して、具材は七種か。
うん、七種あればフォンデュ鍋の周りにお皿を並べた時にも丁度よく広げられて『次は何を摘まもう』と次々選びながらチョコが進むんじゃないかな。
よし、具材はこれで決定。
ポテトチップスは市販のものを買えば良い。
ドーナツはドーナツ屋さん、シュークリームはお菓子屋さんでプレーンとクッキーシューの二種類くらいを買えば良いかな。
よしよし、順調順調。
残すは肝心肝要のチョコか。
正直、やはり肝になるだけになかなか難しいのがチョコだ。
と言うのも、ネットでチョコフォンデュのレシピを調べても、どれも代わり映えしないものばかりだった。
市販の板チョコを溶かす。甘いもの、ビターなものをブレンドする。有名店のチョコをお取り寄せする。等々、こだわりというこだわりがチョコにはあまり見られなかった。
隠し味に塩を少量足すとかスパイスをブレンドするとかもあったが、試食をするタイミングが無いのでチョコの風味を極端に変えてしまう可能性のあるものを混ぜるのは得策ではないと思う。
ふーむ。となれば。この時期限定で出店しているデパート等のチョコ専門店でチョコの種類を揃えてみるか?
あまりその辺りは視野に入れていなかったから、ラインナップの知識に乏しいけど、加工して完成されたチョコのほうが多くてベターなチョコはあまり持ち込まれていないんじゃないかな。
まあここは一応お店を直接見てみるとして、バレンタインの四日前くらいであればお店が人集りでごった返しているということもないだろうから、次の休み辺りでお店を梯子してみても良いか。
ではそれは腹案ということにして、もう一度基本に立ち返ってレシピをスマホで検索してみるか。
「あぁー、中々進まないなぁ」
「ゆかちゃんお疲れ様。休憩中? 溜息なんか吐いてどうしたの?」
「あ、先輩、お疲れ様です。そうです休憩中です。先輩は上がりですか?」
「うん、今日は早めに帰ろうと思って」
「いつも残業してますもんねー」
「ははは、だねー。ん? 何書いてるの?」
「はい、実はバレンタインの計画中なんですよぉ」
「へー、あ、前に言ってた自分用の高いチョコの予算を計算してるとか?」
「いえいえ、今年はお兄ちゃんとチョコフォンデュしようと思ってまして」
「あれ? 自分用のにお金を使って、身内のは安物にするって言ってなかった?」
「あ、はい、確かにそう言ってたんですけど、その、何て言うか、あの時はちょっと嘘吐いてまして」
「え、何で嘘」
「いや、何か悪気があってとかじゃなくて、恥ずかしくてですね」
「恥ずかしくて」
「はい、実は去年も手作りしたんですよ、お兄ちゃんに」
「お兄ちゃんに手作り」
「はい、って言うと、ちょっと恥ずかしくないですか?」
「うーん、まぁ、確かに身内に手作りチョコって言うと……まぁ、小っ恥ずかしいと言えば……まあ」
「でしょ? そうなんですよ。だからちょっと嘘吐きました」
「そうなんだ。まぁ良いんじゃないかな? 悪いことして嘘吐いた訳じゃないし、お兄ちゃんに手作りチョコなんて、カワイイじゃない。お兄ちゃん喜んでくれそう」
「喜んでくれたら良いんですけどねー」
「喜んでくれるでしょー、こんな可愛い妹に手作りチョコ貰えたら、あ、今年はチョコフォンデュにするんだっけ? 二人でチョコ食べるなんて、まるっきり恋人じゃない。ますます兄冥利に尽きるんじゃないの?」
「恋人みたいですかねー。やっぱそうなりますよねー」
「うん? まぁ恋人チックだよね、お兄さんは恋人とか居ないってことで良いのかな? だからゆかちゃんがチョコをあげると」
「そうですね、そんな感じです」
「ますます喜んでくれそうだね」
「マジですか」
「うん。マジマジ」
「これは本腰入れて頑張らねば」
「本腰入れてって。本命チョコみたいだね」
「まさかぁ。兄妹ですよー? 本命とかじゃないですよー」
「ゆかちゃん彼氏は?」
「いません。いたらお兄ちゃんとチョコフォンデュとかしないですよぉ」
「そりゃそうか」
「ですよですよ」
「まぁまぁ、本腰入れて頑張って、お兄ちゃんに喜んでもらえたら良いよね。それじゃあ私は先に帰るから、チョコもお仕事も頑張ってね」
「はい、先輩お疲れ様でーす」
「お疲れ様ー」
先輩を見送って、もう一度チョコフォンデュ計画のノートに視線を落とす。
ふーむ。なんか抜けてる気がするなぁー。
もし友達とチョコフォンデュパーティーするならこれでバッチリなのになー。
何か足りないような気がしてならないなぁ。
もう一度、全体を見直して見ようかな。
明日は出勤前に期間限定のチョコ専門店も下見してみよう。
何かヒントが見付かるかも?
ふーむ。何が足りないのかなぁ……。
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