4-12【次はお茶でもしようよー!】

 ☆アーチャー


「あなたは決められた勝者で運営側の人間でしょう!?」

「だとしたらなんだい?まぁ一応何でそう思ったか、理由を聞いておこうかな」


 ブレイカーの言葉を聞いてセイバーはそれを否定する。しかし、アーチャーにとってはその否定はまるでとりあえず否定するかというくらいの軽さで、聞こえてしまう。


 ブレイカーもそれはわかったのか、小さく舌打ちをする。指し手釘バットを握る力を強めながら、セイバーの方に歩いていく。


「私はモニターが飲んだ飲み物とヒーラーが用意した解毒剤をあの場から持ち帰ったのよ実験したかったからねそしてそれを怪物に飲ませたのよそしたらあら不思議怪物は赤い液体を吐いて解毒剤を飲んだら泡を吹いてそのまま死んだわ」

「ふぅん。で、なんで僕が疑われてるの?」

「簡単よあなたしか薬を仕込める人がいないからよ最初はあまりにもわかりやすすぎるから違うと思ったわでも違う


 意味がわからないというようにセイバーは首を振る。しかし、アーチャーでもなんとなくわかるのだ。ブレイカーが言いたいことは。


 ブレイカーは舌打ちをしてセイバーの前に立つ。そして釘バットをセイバーの首元に当てて、口を開けた。


「あの子……ヒーラーが言っていたのよ。これはエンタテインメントってわざわざ宣言するくらいなら見てる人がいるって。だからあなたは退屈な展開にしないように仕込まれたジョーカーってところかしら。そしてあのわかりやすい行動も私みたいに仲間が殺されたものと戦い場をかき乱すことが目的でしょうね」

「……ふふっ。そこまでバレてるから隠す必要はないか。そう。僕は運営側の人間さ。あ、でも一つ訂正。僕の目的は勝つことじゃない。このエンタメを盛り上げることさ」


 セイバーは笑う。あの時見たように、とても優しそうに笑う。しかし、アーチャーは今の彼女はとても恐ろしいものに見えてしまった。


「で?どうす——」


 セイバーのセリフを全部聞く前に、ブレイカーは思い切り釘バットを振るう。その勢いで、セイバーの首はあらぬ方に曲がる。


 そのまま吹き飛ばされるセイバーの頭をつかんで、ブレイカーは壁に叩きつける。そして胸元に釘バットを押し当てて、そのまま上に持ち上げる。


 壁とセイバーが擦れる音がする。限界まで上げた時、ブレイカーは突然釘バットをセイバーから離し、そのまま強く振りかぶる。


 釘バットはセイバーの頭を吹き飛ばす。血で弧を描きながら飛んでいくそれは、まだまだ笑っているように見えた。


 残されたセイバーの体に向かい、ブレイカーは何度も何度も釘バットを叩きつける。肉片が飛び散り、それをブレイカーは体で受け止めた。


 アーチャーはそこまで見ていて、ハッとしたようにブレイカーに抱きつく。もうやめてというように、力強く。


「まぁ……そうね」


 ブレイカーがそこまで言ってトドメとばかりに釘バットを勢いよく叩きつける。ぐちゃりと音がして、ブレイカーはようやくそこから離れていく。


 あたりな飛び散った肉片。まるでバラバラのパズルのようなそれを見て、アーチャーは思わず口を抑える。


 そんな自分の姿を見てか、ブレイカーはアーチャーの頭に手を伸ばす。おそらく撫でようとしてるのだろうから、それを受け入れようとゆっくり目を閉じようとした。


 しかし、アーチャーは視界の端で動く肉片を見てしまった。思わずブレイカーの手を引いて、後ろに飛ぶ。


「いやぁ、痛い痛い……」

「なっ……まだ動けるの!?」

「そう、僕は死なないからね。自分から死にたいよーって思わない限りは、さ」


 そう言いながら肉片は形を成していく。やがてそれは、体全身が赤になってはいるが、まだ笑っているセイバーの姿になった。


 剣を構えてゆっくりと歩き始める。ブレイカーはまだ戦おうとするが、それをアーチャーは引き留める。


「ハハッ。逃げる?いいよ、僕は勝つのが目的じゃないしね」


 ブレイカーはアーチャーを睨む。しかし、アーチャーは手を緩めない。ここで離したら、きっとブレイカーは死んでしまう。


 思いが通じたかはわからない。しかし、ブレイカーはセイバーの方をアーチャーより長く睨んだのちに、アーチャーの手を引いて走り出した。


「バイバーイ。次はお茶でもしようよー!」


 後ろから聞こえるセイバーの声は、こんな状況でも、まるで友達を誘うかなように軽くて、ここが殺し合いの場とは忘れてしまいそうだった。


 赤いセイバーの後ろには、同じように赤い夕日が、ゆっくりと沈んでいく姿が見える。あの時のセイバーが消えていってしまうようで、アーチャーは思わず手を伸ばす。


 その手は何も掴むことはなく、ただ二人の距離は確実に遠ざかっていたのだった。

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