1-番外編【ガールズトークをしようじゃないか!】

☆ランサー


「ガールズトークをしようじゃないか!」


籠城を決めてから30分ほどたった時、ランサーはそう言った。それは張り詰めた空気を変えるためにした提案だ。


しかし、それに反応したのはフェンサーだけで、後の二人は何も言わずに「何言ってんだお前」みたいな目線をランサーに向けていた。


「う、なんだいその目は……まるであたいが変人みたいじゃないか」

「みたいじゃないでしょう。出会って数時間の間でガールズトークというのは少し頭が悪いかな、と」

「なんだいあんた!?意外に厳しいんだねぇ……」

「そうなのだ?私は少ししてみたいのだ!少し、気分が変わるかもしれないし……」

「えっと、フェンサーさんがそういうなら……」

「これで3対1だね!どうだい?まだ、反対するかい?」

「……はいはい。わかりましたよ」


バーグラーはため息をついて、ランサーをじっと見る。おそらくこの視線の意味は「話を振ったならお前からやれ」と言っている。ように見えた。


「えっと……そうだ!こういう時はやっぱり恋バナだね!さぁ、恋の花を咲かせようじゃないか!」


と、大きな声を出したはいいが、実際特にネタはない。ランサーは恋人を作ったことはないし、作ろうと思った時にはもう遅かった。


チラリとフェンサーの方を見ると、少しだけ顔を赤く染めていた。その変化を見逃さなかったランサーは彼女に声をかける。


「では、フェンサー!最初はあんたからだ!」

「わ、私!?で、でも、そういうのは少し……」

「何恥ずかしがってるんだい!ささ、最初はリーダーから行ってみようじゃないか!」

「う、うぅ……えっと、そのぉ……好きな人はいる……のだ」

「ぶぇぇえぇえぇぇ!?フェンサーさん、それって誰なんですか!?」

「落ち着くんだよガードナー!まぁでも、たしかに気になるね!どうせ本名も顔もわからないんだし、言っちゃえ言っちゃえ!」

「えっと……同じ高校の部活動の先輩で……私は剣道部なんだけど……とってもかっこよくて、優しくて……私と試合するときも、手を抜かないのだ……全力で、本気で、完璧に、倒すために来てくれるのだ。そんな人、見たことなくて……ええと。好き。というより憧れかもしれないのだ」

「甘酸っぱいねぇ!いいよそういうの!」

「そういうランサーさんはどうなのです?話を振ったんだから、何かあるのでしょう?」

「あたい?あたいは乗り遅れたからねぇ。特にそういう話はないね」

「……なんでこの話振ったんですか?」

「まぁいいじゃないか、じゃ、次!ガードナー!!」


ガードナーはそう突然話を振られて、ピクリとする。そして、うつむきながら、ゆっくりと口を開ける。


「わ、私はその……いますよ。好きな人」

「お、おぉ!それはどんな人なのだ?」

「ふふ……優しい人です。私を引っ張ってくれるし、近くにいるだけで安心する」

「それはなんと素敵な人なのだ!その恋、叶えばいいのだ!!」


その恋の相手は気づいてない。けれどそれでいいかとランサーは思った。


さて最後のメインディッシュ。バーグラーの方を向いて、喋ろと無言で威圧する。彼女は少し迷ったが、観念したように口を開けた。


「私には好きな人というか、そもそも彼氏がいるので」

「か、かれしぃ!?そ、それは誠なのだ!?カレピッピとか呼んだり……?」

「カレピッピとか、いつの話ですか……えっと、とっても素敵な人ですよ」

「カレシねぇ……ふふ。じゃあ、夜の営みもやってるのかい?」


嫌がらせ目的でランサーはそういうが、バーグラーは全く動じずに「はい」と言葉を返した。


「そりゃ、やりますよ」


その言葉に対し一番反応したのはフェンサー。顔も耳も真っ赤に染め上げて、大声を出した。


「不潔!!不潔なのだ!!」

「いや、いいじゃないか。逆にしない大人というのは恐ろしいよ」


と、言ってみたはいいが、彼氏がいない身にとってしては、もしかしたらしない大人の方が普通なのかもしれない。そんなはずないと思うが。


しばらく時間を置いた後バーグラーはニヤリと笑って勝ち誇ったような顔になり、口を開けた。


「まぁ、私は14歳ですけど」


その言葉を聞いた瞬間、ランサーとフェンサーはバーグラーに詰め寄った。


「不潔だね!!これは粛清対象だ!!」

「不潔なのだー!!」

「そうだそうだ!もっと詳しく喋るんだよ!!」

「はぁ?なんで話す必要が……」


そこまで言った瞬間、ランサーはバーグラーをくすぐり始める。彼女はくすぐりには弱いらしく、普段とは思えないほどの声で笑い始めた。


目に涙を溜めながら、こちらを見る。なるほど。こんな顔なら彼氏は黙っているわけがないか。ランサーはそう納得して、さらにくすぐりを強くした。


「あ、あははひひへへ!!やめ、やめてくださっ!!ガードナー、さんも羨ましそうに見ないで!とめ、とめ、いやー!!!」


ワーワー騒ぎ続ける。本当にここは殺し合いの場なのかと、誰もが疑問に思うほどに。でも、これでよかった。と思う。


無駄に緊張するよりかマシだ。一通り騒ぎ続けた後、フェンサーが小さく息を吐いた。そして、皆の方を見ながら口を開ける。


「バーグラーの話の続きは外で聞くのだ。楽しみにしておくのだ!」

「へへ……そうだね!そこで詳しい話を聞いて、場合によってはボコボコにしようじゃないか!!」

「はぁ……はぁ……あ、あれ……私に拒否権は……?」

「な、無いと思います……」



ガードナーの言葉にバーグラーは大きくうなだれるが、その顔は少しだけ笑っていた。


あぁ。このまま平和ならいいんだけどな。ランサーはそう思いながら外の方に視線を向けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る