1-7【意味なんていらないのだ】

 ☆フェンサー


「国、民……?」

「そうそう!みぃちゃんのが王様でーあなた達が国民!それだけの話だよー!」


 キャスターはそう言ってニコニコと笑う。彼女が何を言いたいのかよくわからないが、今は構う時間はない。


 足音が背後から聞こえてくる。もうそんな距離まで無数の怪物達が迫って来ていることがわかってしまい、ランサーとガードナーは互いに顔を見合わせる。


「と、とりあえず話は後で聞くのだ!今は逃げないとダメなのだ!!」

「逃げるって何から?」

「何からって……!」


 そこで言葉を切る。何故なら、背後から追って来た怪物がフェンサーに爪を振り下ろしたからだ。慌てて横に飛びレイピアを構える。


 どう構えればいいかなんて、正直わからない。けれど、要は突けばいいのだ。難しいことは考えず、相手の顔にレイピアをブッさせばいいのだ。


 ガキンッ


 フェンサーは目の前にいた怪物に向かってレイピアを突き刺す。だが、想像以上に手応えがない。


 どうやら周りもそうらしく、バーグラーのナイフ。ランサーの槍全てを受けても怪物達はゆらゆらと動き続ける。


「なんなのだこいつら!?もしかして、不死身か!?」

「な、なんだってんだよ!!あたいはまだ死にたくないよ!!」

「うふふ。頑張れー!」


 遠くからキャスターの声が聞こえてくる。そういえば、補助職である彼女がここにいたらとても危険ではないか?フェンサーはそう考えて、キャスターの方に飛ぶ。


 フェンサーは守りたいと思った。それだけの思いで、キャスターの前に立った。


「ふぇ?」

「私がついているのだ!だから、安心するのだ!!」

「……すごい、すごい!!ね、ね!!貴方だけでいいから、みぃちゃんの国にすまない?」

「今はそんなことを……!?」


 フェンサーはその時、違和感を感じた。身体中に走る痛みとそれを誤魔化すように暑さが体を包み込んでいく。


 何が起こったかを理解する前に、察してしまう。口と胴体から流れていく赤い液体を見ながら、フェンサーは膝をついてしまった。そんな彼女の耳に、キャスターが優しく呟いた。


「いらっしゃい……フェンサーお姉ちゃん♡」



 ◇◇◇◇◇



 ☆バーグラー


「フェンサーさん!?」


 最初に異変に気付いたのはガードナーであった。フェンサーの名前を呼んで、一点を見つめている。バーグラーも怪物の相手をしながら、その方向を見る。


「なっ……!!」

「ちょ、ちょいと!?何やってんだいあんた!!」


 フェンサーの胸が貫かれていた。貫いたのは、怪物の爪などではなく、杖の先端についた鋭い刃だった。


 それをしたのは、紛れも無い。キャスターだ。彼女はニヤニヤ笑いながらフェンサーの方を見ていた。


 ふと気づくと、怪物達の動きが止まっている。ガタガタ震えているランサーを放置して、バーグラーはナイフを構えてキャスターを睨む。


「わぁ。怖い!!でもねでもね!大丈夫!!フェンサーお姉ちゃんは今からみぃちゃんの国民になるの!だから、ね?貴方たちもなろうよー!」

「黙れ……!!フェンサーさんを、返せ!!」


 飛び出していったのはガードナー。彼女は戦う力がないのに、なぜか飛び出していく。バーグラーは止めようとしたが、止めたのは彼女じゃなかった。


「まつ……の、だ……!!」

「フェンサーさん!!」


 フェンサーはまだ生きていた。口から血を吐いてはいるが、まだ息はあるらしい。胸に突き刺さった杖を抜き、ゆっくりと立ち上がる。


「私は、大丈夫なのだ……早く、逃げるのだ!!」

「そ、そんなことできません!!」

「あとで必ず……おいつく、のだ……!!だから、早く……はやくっ!!」


 ガードナーは動こうとしなかった。けれど、ランサーは真っ先に走り出し、バーグラーもガードナーの手を握って走り出す。


 ガードナーは離せと叫び続けていたが、そうもいかない。けれど、だんだんと聞こえなくなってくるフェンサーの声とは逆に、ガードナーの声は大きくなっていった。



 ◇◇◇◇◇


 ☆フェンサー


 体が焼けるように熱い。


 けれど、心の底から力が湧いてくるような気がした。血が出てるのに、レイピアを握る手はだんだんと強くなる。


「んー?なんであの人たちを逃がすのー?意味なんてないのに」

「……意味なんていらないのだ……!!」


 怪物たちがフェンサーを取り囲む。あぁ、終わったな。と、フェンサーは悟った。死ぬのは怖くないといえば嘘になる。


 けど、あの一瞬だけでもよかった。ランサー。バーグラー。そして、ガードナー。あの3人と過ごした時間。それはまるで、家族のようだった。


 フェンサーはただ、家族を守るため戦おうとしていた。レイピアを構え、血の池がひろがろうとも、彼女は倒れない。


「私の家族には指一本触れさせないのだ……!!くるなら来い、キャスター!」

「ふふっ!そうこなくっちゃ!それじゃでやっちゃおう!!」


 キャスターの言葉を合図にするように、周りの怪物たちが襲いかかってくる。その数、およそ60以上。けれど、引くわけにはいかない。


 守りたい人たちがいるから。


「みんな……必ず、生き残って欲しいのだ……うぉぉおぉおぉぉおぉぉ!!!!」



 ◇◇◇◇◇


【メールが届きました】

【フェンサーとキャスターが戦いました】

【結果、フェンサーは死にキャスターは生き残りました。キャスターには1ポイント。只今の合計は 1 ポイントです】

【残りの魔法少女は 13 名です。頑張ってください】



 ◇◇◇◇◇


 ☆キャスター


「あーあ……あんなにいたみぃちゃんの国民が全滅しちゃった……」


 コウモリマントを着た少女。キャスターはそう呟いた。身体中についた赤い血は、少しずつどこかに蒸発していく。


「けど!もういいもんね!新しい人が来たらからね……よろしくね?」


 そう言って彼女は目の前にいる少女の頭を撫でる。そして、にこりと笑って呟いたのだった。


「一緒に頑張ろうね??」

「…………ぁぁ……あぁ……」


 その言葉に反応したのか、そんなうめき声が聞こえて来て、少女はフラフラと動き出した。キャスターはウフフと笑いながら、その少女と一緒に歩き始めたのだった。

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