第14話 僕の実力


「アタシと練習したい? 急にどうしたの?」


 放課後、西の草原地帯で僕は宮瀬にそう持ちかけた。

 授業終了と同時に窓から飛び出すもんだから、追い付くのにも一苦労だ。


「いや、まともな練習になりそうなのって、宮瀬しか居ないかなって」

「まぁー、確かにね。一人はボールで、もう一人はポンコツの駄馬だもんね。……うん、アタシも実戦形式で練習したかったし、逆に嬉しいぐらいかも」


 宮瀬は右足を高く上げ、片足立ちのまま戦闘態勢に入る。

 それがスイッチのように、<雷神トール>がバチバチと放電し始める。


「さぁーて、【ヴァルハラ】まで蹴り飛ばしてあげるから、かかってらっしゃい!」


 分かっていないのか、気にしていないのか、スカートの中がまる見えだ。

 スパッツとはいえ、目のやり場に困る。


「……あ、鞘から剣は抜かないでね。抜き身の刃って割と怖いんだから」


 割と怖いで済むんだ。

 使っている僕でさえ恐ろしいってのに。

 さすが敵に跳び蹴りをかますだけはあるなぁ。


「あいよ、分かった。じゃあ……お願いします!」


 開始の合図と共に、僕は剣を大きく振りかぶる。


「せいやぁ! めぇぇぇ――!」


 だが次の瞬間には、キレイな前蹴りが顔面にめり込んでいた。


「――ぇぇぇん……」


 まさに一撃必蹴。


 脳を揺らされたせいか、自分でも笑ってしまうぐらい簡単に倒れてしまう。

 更に追加効果で全身に低周波のような電気が走り、手足がビクンビクンと跳び跳ねる。

 ……時速160キロの剛速球でスタンガンがデッドボールしたら、こんな感じなのかなぁ……。


「うわっ、うわわ!? これダメなヤツだ! マジでゴメン! だ、大丈夫……!? まさかこんなキックがクリーンヒットするとは思わなくて……」


 その『こんなキック』に、僕は一撃で仕留められたのか……。


「は、はは……。いやー、ビックリしたなぁ、もう。こっちこそゴメンゴメン。まさかジャブなキックが来るとは思わなくて、驚いて転んじゃったよ」


 僕は平気な顔をして立ち上がる。

 本当は生まれたての子鹿ばりに手足がプルプルしてるが、僕だって男子としての――いや、『漢』としての意地がある!


「ほっ、良かったー。じゃ、もう一回やろうか。今度はちゃんと本気で蹴るからさ」

「ゴメンなさい。無理してました。次喰らったら本気で【ヴァルハラ】逝きです。マジでゴメンなさい」


 僕は速攻で降参した。

 漢にだって……折れなきゃダメな時があるんだ。


「もー、犬飼-。一応ガチの練習なんだからさ、もっと警戒して戦わないと。……あっ、分かった。普段のクセが出たんでしょ? 防具はないんだから、気を付けないと」

「普段のクセ?」

「剣道部なんでしょ? 面っ! って叫んでたし。あー、だから剣を選んだのね。納得、納得。で、何級なの? もしかして段持ち?」


 同じ運動部を見つけた嬉しさからか、宮瀬はキラキラした瞳でグイグイと質問してくる。


「……すいません。生粋の文化部生まれで、ただのソシャゲ部です……。剣キャラが好きで、必ず使うからその流れで……」


 僕は顔をそらし、ばつが悪そうに答えた。

 宮瀬は膨らんだ風船がしぼむように「そっか、文化部かぁ……」とため息混じりに言った。


 別に差別しているワケじゃないんだろうが、どうして運動部と文化部でこんなにも深い溝があるんだろうか?

 ノリ? ノリの違いなの?


「とーにーかーく! 実戦練習する前に、剣の素振りでもして身体を作って来ること! アタシのワンキックで倒れてちゃ、全くの全然で微塵も話にならないよ!」

「うぅ……やっぱりそこから始めないとダメか……。マンガの特訓シーンとか、地味で長いから嫌いなんだよなぁ……。たったひとつの冴えたやり方で、宮瀬みたく強くなれたらと思ってたんだけど……」


 無謀な実戦練習を申し込んだのは、半分は宮瀬に言ったとおりで、もう半分は僕が強くなれるヒント――つまり、必殺技というか、【流るる神々】の使い方を学びたかったからだ。


「なぁ、宮瀬はどうやってあんなに強い必殺技を覚えられたんだ?」


 僕は思いきってストレートに質問してみた。


「……え? あー、えーっと……。なんていうのかな? こう……ビリビリ-って来たっていうか……。バーンって思い付いたっていうか……」


 あっ、ダメだこれ。

 『考えるな感じろ』タイプだ、この人。

 名選手にはなれるけど、名監督にはなれない人種だ。


「サンクス……。参考になったよ……」

「ちょ、ちょっと待った! 今ので伝わってないのは伝わってるから! 何とか言葉にするから、お座りして待ってて!」


 宮瀬はうんうん唸りながら必死に考えてくれている。

 竹を割ったようなサッパリとした性格だと思っていたけど、案外面倒見が良いんだな。

 僕はその場に座り、宮瀬の言葉を待つ。

 ……って、今さり気なく犬扱いしなかったか……?


「こう……パリッとしているっていうか……ジュワッとしているっていうか……それでいて深い味わいというか……」


 表現がどんどん理解しがたいものになっていく。

 というか、完全に食レポの感想になっている気がする。


「……なぁ、宮瀬。一旦話題を変えてみないか? ここに来る前の話とか、何でもいいからさ」


 知恵熱で宮瀬の頭が爆発しそうだったので、見かねた僕は助け船を出した。


「う、うん。そうしてもらえると助かるかも……」


 宮瀬はホッとした表情で、草の上に座る。

 気にしていないのか、慣れているのか、そこは足が触れ合いそうな距離だった。

 ……女子とこんなに近くで話したことなんて無いから、なんか妙に緊張するな……。


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