第11話 俺tueee?


 ともあれ、宮瀬が駆けつけてくれたおかげで二対五になった。


 【ウールヴヘジン】たちは距離を取るように散らばる。

 さっきのエグイ威力を見せつけたせいか、宮瀬を強く警戒しているようだ。


「よーし、これでやっとまともに戦えそうだ。散々バカにしてくれたお陰で、僕のヘイト値はリミットオーバーしてるからな! 覚悟しとけ!」

「おぉう。やる気じゃないの、犬飼。けどアタシもね、間食ゲージがずっと空っぽでキツかったのよ。犬飼には悪いけど、ここでポイントを稼がせてもらうわよ!」


 僕と宮瀬は同時に構え、「せーの」で飛び掛かる――つもりだった。

 どこからともなく丸い物体が転がってきたので、慌てて足を止める。


 コロコロと転がっていき、【ウールヴヘジン】たちの近くでピタリと止まった。

 あれは……葉月の黒いボールか?

 なんでここに?

 それに、見たこともないような記号が――。


「ロキ・ワン、オープン! 【フサルク(ルーン・アルファベット)】、KEN(ケン)!」


 ひらがなの『く』に似た記号が青白く光り、そこから激しい炎が巻き上がる。

 まるで生き物のようにうねり、一番近くに居た【ウールヴヘジン】に向かって飛びかかっていく。


 丸呑みするように上から覆い被さり、全身が炎に包まれる。

 どれだけもがいても火の勢いは弱まることがなく、次第に喉を掻きむしるように苦しみ始め、やがて天を仰いだまま膝を折り、『黒い甲冑』となって動かなくなった。


「どうですか、<戯神ロキ>の威力は? ルーンとか発動のルールとかを覚えるのは大変でしたが、なかなかのものでしょう?」


 潰れた廃屋の影から、葉月が遅れて姿を現した。

 腰に手を当てて自慢げに語るその姿は、まるでテストで良い点を取った小学生のようだ。

 ……思わず頭を撫でてほめたくなるな……。


「へぇー! 葉月ちゃんもやるじゃん!! ……でも、いつかは裏切るんでしょ?」

「まだそのネタを引っ張るんですか!? 私は、ぜーーーーったいに裏切りません!!」


 敵を目の前にして、子供のようなケンカを始める宮瀬と葉月。

 緊張感ゼロだな、この二人。


 ま、まぁ、これで三対四だ。

 個々の実力を考えても、こちらが圧倒的に有利だろう。


「それにしても、葉月ちゃんの必殺技は魔法使いっぽくてカッコ良かったなぁ。……よし! アタシも負けられないわね!」


 宮瀬はその場で何度か軽くジャンプした後、左足を大きく前に出し、そのまま屈んで両手を地面に付ける。

 あれは……陸上のクラウチングスタートか?


「百雷!! サクイカヅチ!!」


 <雷神トール>が激しく放電し、宮瀬の残像が周囲に作り上げられていく。

 それは雷のように枝分かれして走り始め、【ウールヴヘジン】たちを貫いていった。

 感電した敵は大きく背筋を曲げ、ひきつけを起こしたように手足がビクビクとけいれんし、同時に三体が黒い煙を上げながらその場に倒れていった。


「す……すげぇ……!!」

「ど、どんな……もんよ……。アタシにかかれば……このぐらい……」


 たった一回しか発動していないのに、宮瀬は汗だくでグッタリとしている。

 まるで百メートル走を何十回も走った後のようだ。

 技の威力も凄いが、その分体力の消費も激しいらしい。


 さっきまでのピンチがウソのように、あっという間に三対一にまで逆転していた。

 本当に、僕が何かするヒマもなく、あっという間に。


 勝てないと判断したのか、最後の一体が武器を捨てて逃げ出す。

 しかしその進路上には、既に黒いボールが置いてある。


「残念でした。ちゃんと退路も塞いでたんですよ。ロキ・ツー、オープン! 【フサルク】、THORM(ソーン)!」


 旗のようなマークが青白く光り、そこから棘のツルが飛び出す。

 甲冑を削りながら纏わり付き、その場に縛り付ける。


 葉月の武器は、攻撃だけじゃなく捕獲も出来るのか。

 唱える呪文よって効果が違うなんて、本当の魔法使いみたいだな。


 それにしても……二人の武器は本当に凄いな。

 攻撃特化型に、オールマイティー型か。

 六体も居た敵をあっという間に蹴散らしたし、僕なんて……あっ。


 あーっ!? ヤ、ヤバイ!

 もしかして僕だけ……一体も倒してない!?


 トドメを刺そうとしている葉月の横から、僕は剣を振りかぶったまま強引に飛び込む。


「叩っ斬れ! <剣神シグルズ>!!」


 頭の天辺から股下まで、正中線をなぞるように敵は真っ二つに切り裂けた。

 今までで一番綺麗な太刀筋だったと思う。

 ただまぁ、戦意を失い、更には拘束状態の敵を綺麗に斬ったって、何の自慢にもならないけどな。


 なんとも情けない撃破だけど、一体は一体だ。

 辛うじて男子としての面子は保てた……のかな?


「あー! 最後のおいしい所持って行かれたー! くそー、犬飼もなかなかやるじゃん。この感じだと、アタシが来る前にも結構倒してたんでしょ?」

「そうなんですか? さすがですね、犬飼さん。結局私は一体しか倒せませんでしたし」

「はは……まぁまぁ、ほら、ね? もう夜も遅いし、とにかく戻ろうよ」


 この空気の中、実は一体しか倒していないとは言えなかった。


 ……もしかして僕の武器って、レアどころか無課金で当たるようなノーマルなんじゃないか……?


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