第7話 スコアポイント


 教室に戻ると、ティッシュで作られた色とりどりの花飾りがあちこちに飾られ、黒板には『祝! 初勝利!!』とピンク色の文字でデカデカと書かれている。

 ……冷淡な顔の割に、カワイイことをするんだな。


「勇敢なる【エインフェリア】の諸君よ、初陣ご苦労だった。また、一つも被害無く初勝利を飾れたことを嬉しく思う」


 ヴァルキリーは敬礼をしながら、僕らに労いの言葉をかけてくれた。

 自分の望みを叶えるためとはいえ、その言葉がなかったら次も頑張ってここを守ろう、とやる気にならなかったかも知れない。

 ……ただ何故か、スーツ姿から純白の軍服に着替えていたが。


「……なぁ、なんでヴァルキリーはあんな格好をしてるんだ?」


 大道寺はこっそりと僕に耳打ちをする。


「さぁ……? けど、似合ってるよね」

「うむ、全くだ。こんな司令官なら、どんなに無茶な命令だって嬉しく感じるな。士気も青天井だろうよ」


 大道寺は感慨深そうに頷く。

 確かにピシッとした軍服と、キリッとした顔つきが非常にマッチしている。

 あの先生のような格好よりも、個人的にはこっちの方が好みだな。


「さぁ、傷付いた身体を【セーフリームニル】の肉で癒やすが良い。そして、【ヘイズルーン】の乳で英気を養うが良い」


 見ると、僕らの机に銀のフタが並べてある。

 嬉しいことに、神話にしか出て来ない食材を振る舞ってくれるようだ。


「やったー! ご飯だー!」


 宮瀬は一番に座り、僕らもそれに続いた。

 さてさて、神話の料理なんて初めてだ。

 きっと見たことも味わったこともない、夢のような美味さなんだろうな。


「「「「いただきまーす!」」」」


 僕らは「せーの」で銀のフタを開ける。

 ……どう見ても『豚の生姜焼き定食』と『はちみつジュース』だぞ、これ……。


 いや、これはこれで嬉しいんだけど、なんというか……場所が場所だから、学校の給食にしか見えない。

 それに、地味にキツい食い合わせだよ、これ……。


「さて、中断してしまった説明を続けるわね。食事をしながらで良いから、耳を傾けてちょうだい」


 黒板の『祝! 初勝利!!』を消し、ヴァルキリーはカッカッと文字と数字を書き込んでいく。


「ここを防衛し続けていれば、貴方たちにはいずれ【ビフレフト(虹の橋)】を渡る権利を……つまり、【ヴァルハラ(理想郷)】へ行くことを許されるわ。だけど、それまでの道のりは長く、ヒドく険しい。戦闘を重ねる度に士気は落ち、心は痩せ細り、やがて致命的なミスを生んでしまうでしょう。だから貴方たちには、防衛成功する度に『ごほうびポイント』をプレゼントするわ」


 説明を書き終えたのか、ヴァルキリーは注目を促すように黒板をコンコンと叩く。


==================================================

 1.防衛に成功すると、全員に1000ポイント

 2.敵を一体倒す毎に、個別に+200ポイント

 3.仲間を助けたり、敵を倒す補助をしても+100ポイント

==================================================


 更にその下には、個別の名前とスコアが書かれてあった。


==================================================

 1.宮瀬 綺花   撃破二体  アシスト一回 計+500

 2.犬飼 剣梧   撃破一体 計+200

 2.葉月 美冬   撃破一体 計+200

 4.大道寺 拓海 計+0

==================================================


 僕と葉月が同率で、宮瀬が一位のようだ。

 アシストとなっているのは、偶然とはいえ結果的に敵を吹き飛ばして僕を助けたからだろう。


「イェーイ! アタシがナンバーワン! ……って、それだけ?」


 既に食べ終えた宮瀬が、ガッツポーズしながら首を傾げる。


「『ごほうびポイント』を消費することによって、名前の通り自分の好きなごほうびを貰うことが出来るわ。要望があれば受け付けるけど、ここに前の生徒たちが残していったカタログがあるから、なるべくならそこから選んでちょうだい。良いごほうびほど消費するポイントも多くなるから、残りのポイントに注意してね」


 宮瀬はヴァルキリーからカタログを受け取り、さっそくパラパラとページをめくり始める。


「欲しい物がある時は、私に申請すること。また、『ごほうびポイント』を使ったからといって、【ヴァルハラ】への道が遠くなるということは一切無いわ。だから、安心して使ってちょうだい」


 なんだかえらく俗物的というか、かなりソシャゲっぽいシステムだな。

 まぁシンプルで分かり易いから良いけど。


 それにしても……前の生徒、か。

 やっぱり前任者は居たんだな。

 彼らは無事に【ヴァルハラ】へと行けたんだろうか?

 それとも……。


「おぉ!? 意外にも豪華なラインナップ! それに、ポイントの還元率も良い!」

「どこの家電量販店だよ!」


 ツッコミながらも、僕は後ろから覗き込む。

 ソファーにコタツにクッションといった家具から、トランプやボードゲームや麻雀といった遊び道具。

 お菓子やカップラーメンなどの食品もあれば、釣り具や水着といったアウトドア用品まである。

 確かに、これはヘタなデパートよりも品揃えが良いな。


「俺にも見せてくれよ。せっかくポイントが手に入ったんだから、豪華なモノと交換したいぜ」


 何の活躍もしていないクセに、大道寺は僕と宮瀬の間にグイグイと割り込んでくる。

 かなりイラっとしたが、仲間だし多少のことはガマンしないと。


「へー、こりゃ本当に良いな」

「ちょっと! 後ろから押さないでよ!」


 大道寺は宮瀬の背中にグイグイと身体を押し付け、フンカフンカと鼻息を荒くしている。

 ……この野郎、そっちが目的か。


 もういいよね?

 俺、かなりガマンしたよね?

 コイツにこれ以上ガマンする必要なんてないよね?


「……ヴァルキリー、敵前逃亡によるマイナスはないんですか? コイツ、僕の所に敵を置き土産にしていきましたけど」

「あっ、テメェ!? チクりやがったな!!」


 衝撃的な報告に、ヴァルキリーは少しだけ眉をひそめる。

 宮瀬と葉月は、顔が引きつる程のどん引きっぷりだ。


「うわー……最っ低だわー……。アタシならその場で蹴っ飛ばしてたね。逃げ足だけが自慢の馬かっつーの」

「駄馬ですね。完っ全に駄馬駄馬ですね」


 徹底的に非難され、見下され、精神的にフルボッコされる大道寺。

 僕の所に置いてった罰だ。

 ざまぁみろ。


「そ、そんな風に言われたら……俺、俺……!」


 ショックで泣いてしまうのかと思っていたら、顔はうっとりとしていて、どこか嬉しそうだ。

 ……恐ろしいことに、彼は駄馬でドMのようだ……。


 こんなデコボコでドタバタな面子で、本当にやっていけるんだろうか……?

 地平線に沈んでいく夕日を見ながら、僕は深いため息をはいた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る