王述1  謙譲精神なぞない

王述おうじゅつ 全5編

 既出:王導12、王導27、桓温16

    謝安24、王羲之4、王羲之13

    王羲之14、王承2



王述さん、

尚書令しょうしょれいに任じられることになった。

めっちゃトップ官位だ。

なので話が来たそばから、

即受けようとする。


すると息子の王坦之おうたんしが言う。


氏やきょ氏に譲った方が

 よいのではないでしょうか?」


え? どゆこと?

王述さん、息子に問う。


「ん? 文度ぶんどちゃん、それはわしが

 お役目に堪えられない、と?」


文度ちゃん、慌てて答える。


「いえ、まさか!


 ただ、固譲は美徳と言われております。

 その精神を忘れては

 ならないのではないでしょうか?」


はぁ、まさか文度ちゃんに、そんなこと!

これ見よがしに王述、盛大に嘆息。


「あぁ、待て待て、堪えられるのだろう?

 ならばどこに譲る意味がある!


 全く、世の中では口々に

 お前がわしを抜いたと言うが、どうだ!


 まだまだわしになぞ、

 及んでおらんだろうに!」



王坦之との関係性と占うものとしては、

こんなエピソードもある。


かれの息子、王褘之おういしが、

常々支遁しとんのことをバカにしていた。


すると王述さんは言う。


「お前の兄を真似するものではないぞ。

 だいいち文度ちゃん自身が、

 支遁様に届いておらんのだ」


何故そこで王坦之をあてこするのか。




王述轉尚書令,事行便拜。文度曰:「故應讓杜許。」藍田云:「汝謂我堪此不?」文度曰:「何為不堪!但克讓自是美事,恐不可闕。」藍田慨然曰:「既云堪,何為復讓?人言汝勝我,定不如我。」

王述の尚書令に轉ずるに、事の行ぜるに便ち拜す。文度は曰く:「故より應に杜、許に讓るべし」と。藍田は云えらく:「汝は我れ此に堪えんと謂いたるや不や?」と。文度は曰く:「何ぞ堪えざると為らんか! 但だ克讓せるは自ら是れ美事なれば、闕すべからざるを恐る」と。藍田は慨然として曰く:「既にして堪えたりと云わば、何ぞ復た讓すを為さんか? 人は言いたり、汝は我れに勝ちたり、と。定めし我に如かず」と。

(方正47)


王僧恩輕林公,藍田曰:「勿學汝兄,汝兄自不如伊。」

王僧恩は林公を輕んずれど、藍田は曰く:「汝が兄に學ぶ勿れ、汝が兄は自ら伊れに如かず」と。

(品藻64)




王述

面白い人。王湛おうたんの孫、王承おうしょうの息子と言う、超エリート家系の人であり、凄い人なのは確かなのだが、どうしてこう残されてるエピソードが無駄に面白いんだ。病的なせっかちで、それを王羲之おうぎしに爆笑されてたりもする。まあ、その後王羲之が挑発してきたのを逆手にとって失脚に追い込むなど、やはりただのせっかちではないのだが。


杜・許

みんなから「誰?」って言われてる。あの調べ物の鬼、劉孝標りゅうこうひょうからすら。おま、尚書令クラスの人材だぜ……残しといてやってくださいよ、記録……

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