褚裒6  孫綽うぜえ   

褚裒ちょぼうが南に船で周遊した時、

孫綽そんしゃくがその船に同乗していた。

すすす、と近寄ってくる。


おっ、なんだこいつは?

確か孫盛そんせいのいとこだよな?

ともあれと褚裒、かれと会話する。


やがて話題が、劉惔りゅうたんの死に及んだ。

すると孫綽、わざとらしく

涙をこぼしながら、言う。


詩経しきょう大雅たいがにも、

 人之云亡じんしうんぼう邦國殄瘁ほうこくしょうしんそつとあります。

 偉大なる人材を失えば、

 国は傾いてしまうものですね」


この孫綽の振る舞いに、褚裒、激怒。

あの褚裒さんが。


「劉惔殿がふだん、そなたについて

 殊更に語ったことなぞないだろう!

 どの面を提げて、そなたが

 それをわたしに言うのだ!」


孫綽と言えば、その性格が

浅ましいことで有名だった。


劉惔も、そしておそらくは褚裒も

孫綽の馴れ馴れしさを、

どうにも毛嫌いしていたようである。


褚裒に怒鳴られた孫綽、

ひょいと涙をひっこめ、

褚裒に言う。


「ははっ、そなたは俺のことを

 忘れないでいてくれたまえよ!」


時の人びとは、

万事がこの調子の孫綽さんを、

その才能はともかく、浅ましい奴だ、と

笑いものにしていたそーである。




褚太傅南下,孫長樂於船中視之。言次,及劉真長死,孫流涕,因諷詠曰:「人之云亡,邦國殄瘁。」褚大怒曰:「真長平生,何嘗相比數,而卿今日作此面向人!」孫回泣向褚曰:「卿當念我!」時咸笑其才而性鄙。


褚裒は南下し、孫長樂は船中にて之を視る。言次は劉真長が死に及び、孫は流涕し、因りて諷詠して曰く:「人の云亡にて、邦國は殄瘁す」と。褚裒は大いに怒りて曰く:「真長の平生にて、何ぞ嘗て相い比數されたらんか、卿は今日にて此の面を人に向かいて作さんか!」と。孫は泣を回して褚裒に向かいて曰く:「卿は當に我を念うべし!」と。時の咸は其の才なるも性鄙なるを笑う。

(輕詆9)





微妙によくわからない。


「卿當念我!」のせりふについては、箋疏にはその元ネタと思しき話がある。それによると褚裒と孫綽が船に乗っていたとき、嵐に遭ったのだそーだ。で褚裒さんが「この船に罰を受けるべき者なぞおらん、そう孫綽を除いてな!」と、いきなり孫綽を船からおっぽり出した。この時におぼれながら孫綽さんが「俺を忘れるなよ!」って叫んだ、と書かれている。なんだその空恐ろしい話は。そして結局のところ意味がわからん。


分かるのは、褚裒さんの孫綽に対する激烈な嫌悪くらいのものだ。

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