王衍11 おいしくいただく

司馬懿しばいの甥に、司馬権しばけんという人がいた。

かれはとても足の速い牛を飼っていた。


ある時司馬権と王衍おうえんとで、賭けをした。

より射的で高得点を取れた方が、

司馬権の例の牛を貰える、と言うものだ。


もちろん王衍も

何かを賭けたのだろうが、不明。

まぁ、結構なものを賭けたのだろう。


結果は、王衍の勝利。

やったーあの牛をゲットだぜ!


が、そこに司馬権が食い下がる。


「の、乗るのだよな?

 そうだよな?

 ならばわしもつべこべは言うまい。


 く、食うなよ?


 食うなら、そいつに代わって、

 二十頭の良く肥えた牛をやろう!


 そ、それならそなたも牛を喰える!

 わしの牛も殺さずに済む!

 ど、どうじゃ! WIN-WIN じゃろ?」


知るかバカ。

快速の牛を、王衍は

おいしく頂きましたとさ。




彭城王有快牛,至愛惜之。王太尉與射,賭得之。彭城王曰:「君欲自乘則不論;若欲噉者,當以二十肥者代之。既不廢噉,又存所愛。」王遂殺噉。


彭城王は快牛を有し、至りて之を愛惜す。王太尉の與に射せるに、賭し之を得る。彭城王は曰く:「君にては自ら乘らんと欲さば則ち論ぜず;若し噉らわんと欲さば、當に以て二十なる肥えたる者と之を代えん。既にして噉うを廢せず、又た愛みたる所をも存したり」と。王は遂に殺し噉う。


(汰侈11)




司馬権

清々しいほど情報がない。つまり彼は、歴史に「王衍に大切なペットを喰われてしまった人」としてのみ名を残していることとなる。いや、それはそれである意味ではおいしいな……。

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